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平成17年那審第36号
件名

漁船得得丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年5月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(西林 眞)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:得得丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
全シリンダピストン及びシリンダライナ焼損,主軸受及びクランクピン軸受等焼損

原因
主機の潤滑油管理及び冷却海水ポンプの点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機の潤滑油管理及び冷却海水ポンプの点検がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 A受審人を戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月14日17時40分
 鹿児島県与論島東方沖合
 (北緯27度01.5分 東経128度25.5分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船得得丸
総トン数 1.5トン
登録長 8.90メートル
機関の種類 4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関
出力 8キロワット
回転数 毎分2,000

3 事実の経過
 得得丸は,昭和47年10月に進水したサバニ型と呼ばれる木製漁船で,船体中央やや船尾寄りの甲板下に木製蓋の付いた機関室を配置し,主機として,B社が製造した3LK型と称するクラッチ式逆転減速機付の直接冷却式ディーゼル機関を備え,同室内に始動用キースイッチ,回転計及び潤滑油圧力低下警報ランプ等を組み込んだ計器盤を取り付けていた。
 主機の潤滑油系統は,台板底部の油だめ(標準油量6リットル)から,直結潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油が,オートクリーン式こし器で油冷却器を経て入口主管に至る経路と逆転減速機に至る経路とに分岐し,このうち同主管に至る経路は同こし器付の圧力調整弁によって3ないし3.5キログラム毎平方センチメートルとなるよう調圧され,入口主管から主軸受,クランクピン軸受及びピストンピン軸受,並びにカム軸受,調時歯車及び動弁装置などを潤滑したのちいずれもオイルパンに戻るようになっており,同油圧力が設定以下に低下すると計器盤上の油圧力低下警報ランプが点灯するようになっていた。
 また,主機の冷却海水系統は,海水吸入口から海水吸入弁及びこし器を介し,羽根状のゴム製インペラを組み込んだヤブスコ式の直結冷却海水ポンプによって吸引された海水が,潤滑油冷却器を経て各シリンダに送られ,シリンダライナ及びシリンダヘッドを冷却したのち,同ヘッド出口から排気集合管を経て左舷外板の水線上に設けられた吐出口から船外排出されるようになっており,同ポンプについては,インペラがケーシング内で屈曲を繰り返しながら回転するうち,繰返し曲げ応力を受け,疲労した羽根が亀裂,欠損するおそれがあることから,一般的に,1,000時間を目安に開放点検する必要があった。
 A受審人は,中学校卒業以来大工を営み,昭和63年3月に一級小型船舶操縦士免許を取得したのち,翌平成元年7月に中古の得得丸を購入して鹿児島県C組合に加入し,同県与論町麦屋漁港を定係地として,仕事仲間や友人らを同乗させ,専ら与論島赤埼灯台(以下「赤埼灯台」という。)から050度(真方位,以下同じ)4.5海里の地点に同組合が設置したパヤオと称する浮魚礁付近を周回しながら,2時間ほどまぐろなどの一本釣りを月2ないし3回年間30日程度行っており,同漁港では得得丸を台車に載せて陸揚げするようにしていた。
 ところで,A受審人は,航行中や釣りを行っているとき,機関室後方の甲板に座り,舵にロープを繋いで操舵するとともに,主機の回転数制御とクラッチ操作を行っており,操縦位置から機関室左舷側に排出される冷却海水の吐出状況は視認できたが,機関室の蓋をして計器盤が見えないまま主機を運転する習慣であったため,主機の回転数などを把握しておらず,警報ランプが点灯しても認知できない状況であった。
 A受審人は,平成3年12月に冷却海水ポンプのインペラ羽根が折損して主機が過熱したことから,機関整備業者による主機の開放修理を行って潤滑油も新替えしたのち,年間約150時間の運転を長年にわたり続け,同17年1月に蓄電池を新替えしたころには主機運転時間が前回の開放整備から2,000時間近くに達していたが,運転に支障がなく,機関室への油漏れもないので大丈夫と思い,主機始動前の潤滑油量の点検と補給,同油の定期的な新替などの潤滑油管理,及び冷却海水ポンプの開放点検をいずれも行っていなかったので,潤滑油量の減少と同油の性状劣化が進行したうえ,同ポンプのインペラ羽根に疲労亀裂が生じる状況となっていることに気付かなかった。
 こうして,得得丸は,A受審人が単独で乗り組み,友人1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成17年8月14日10時00分麦屋漁港を発し,11時30分前示浮魚礁に至り,同魚礁の周囲を4ノットばかりの速力で左回りしながら一本釣りを始めたところ,潤滑油の性状劣化と油量減少から主機各部の潤滑が阻害され始,潤滑油圧力低下警報ランプが点灯したばかりか,冷却海水ポンプインペラの亀裂が進行する状況となった。
 A受審人は,浮魚礁をほぼ2周したころ,主機が過熱して機関室から異臭と多量のオイルミストによる白煙が生じ,発航時には正常であった冷却海水吐出量が著しく減少しているのを認めたものの,主機各部や計器盤は確認しないで直ちに帰港することとし,12時10分主機の回転数が徐々に低下するなかで麦屋漁港に向かい,同時45分赤埼灯台から063度0.9海里の,漁船の航路となっているさんご礁外縁に到達したので,過熱した主機を冷却しながら,付近を航行する漁船から潤滑油の供給を受けようと考え,投錨して主機を停止した。
 得得丸は,17時ごろ付近を通りかかった僚船から潤滑油1リットル余りを譲り受け,同油を補給して17時10分主機を再始動したのち,引き揚げようとした錨がさんごに引っ掛かったため,A受審人が錨索を切断して錨を捨て麦屋漁港へ向かったが,再び主機各部が潤滑阻害されるとともに過熱され,ピストンとシリンダライナの摺動面,主軸受及びクランクピン軸受などが焼き付き,17時40分赤埼灯台から090度0.5海里の地点において,異音を発して主機が自停した。
 当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,海上は穏やかであった。
 得得丸は,主機が使用不能になり,錨を失ったために漂流していたところ,翌15日10時ごろ与論島の南南東沖合において付近を航行中の貨物船に発見され,来援した僚船によって麦屋漁港に引きつけられ,のち主機を修理しないまま廃船処理された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の潤滑油管理及び冷却海水ポンプの点検がいずれも不十分で,同油の性状劣化と油量不足によって主機各部の潤滑が阻害されるのに加え,同ポンプインペラの疲労亀裂により冷却海水量が著しく減少して過熱するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理にあたる場合,潤滑油の性状と油量を適正に維持しないと機関各部が潤滑阻害を起こすおそれがあったから,始動前の油量点検と補給,同油の定期的な新替などの潤滑油管理を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,運転に支障がなく機関室への油漏れもないので大丈夫と思い,潤滑油管理を十分に行わなかった職務上の過失により,長期間補給しないまま使用していた同油の性状劣化と油量不足によって主機各部の潤滑が阻害される事態を招き,冷却海水量の減少による過熱も加わってピストン,シリンダライナ,主軸受及びクランクピン軸受等を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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