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平成18年函審第3号
件名

漁船第二十八大安丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年5月30日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(井上 卓)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第二十八大安丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機の吸気弁が割損,排気弁,ピストン,シリンダヘッド,過給機のタービンノズル,ローター軸損傷

原因
主機の給気温度管理不適切

裁決主文

 本件機関損傷は,主機の給気温度管理が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月28日06時30分
 北海道宗谷郡頓別漁港北東方沖合
 (北緯45度17.9分 東経142度29.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大安丸
総トン数 160トン
全長 38.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット

3 事実の経過
 第二十八大安丸(以下「大安丸」という。)は,昭和59年10月に進水した,沖合底引き網漁業に従事する鋼製漁船で,主機としてB社が同59年9月に製造した6MG28BXF型と呼称する,連続最大出力1,471キロワット同回転数毎分720(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機空気冷却器付き2次冷却式4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関に負荷制限装置を付加して計画出力1,029キロワット同回転数640として登録された機関を備えていたが,いつしか同制限装置を外し,燃料ポンプラックの最大位置が許容最大トルク値になるよう,燃料ハンドルにストッパーを設定して使用していた。
 主機は,シリンダ番号を船首側から順番号で呼び,シリンダヘッドの左舷側に吸気集合管が,右舷側に排気集合管が備えられ,各同ヘッドには,左舷側に吸気ポート,右舷側に排気ポートがあって,ポペット型の吸気弁を吸気ポート寄りと船首寄りに各1本,同型の排気弁を排気ポート寄りと船尾寄りに各1本をそれぞれ備えていた。
 主機の給気は,過給機で吸引加圧されて高温となった給気が空気冷却器内で海水と熱交換され,吸気集合管に入ったのち,吸気ポートから各シリンダヘッドに入るものであるが,同冷却器で過度に冷却されると,冷却時に発生するドレンが多くなって,ドレンがシリンダへの侵入を防ぐ目的で設けた同冷却器内のドレン抜きから排出しきれず,給気とともにシリンダ内に流入し,吸気弁,吸気弁座等に硫酸腐食を生じさせ,吹き抜けの原因となったり,弁のかさ部に亀裂を生じさせたりすることがあった。また,吸気弁は,爆発行程では燃焼ガスの高温にさらされ,続いて,掃気行程では給気によって急激に冷却されることの繰り返しによる温度サイクルと,高負荷による応力変化の影響を受けると,弁かさ部の材質疲労が急速に進行する低サイクル疲労を生じるおそれがあるので,給気温度の管理を適切に行う必要があった。
 そのため,大安丸は,空気冷却器の冷却海水の入口管と出口管との間にバイパス管及び手動温度調整弁を設け,弁の開度を加減して同冷却器への通水量を調整し,給気温度管理を行うようになっていた。
 そして,メーカーでは,吸気集合管における給気温度の標準値を摂氏40度(以下温度は「摂氏」)ないし60度とし,さらに最適値が45度ないし55度であるとして給気温度管理の徹底をユーザー等に指導していた。
 大安丸は,毎年夏の約1箇月間の休漁期間に船体および機関の整備を行い,それ以外には,周年を通じて,宗谷岬の東西の海域でホッケ,スケトウダラ,カレイ等の魚種を狙って,月間約200時間主機を運転する日帰り操業を行い,揚網時や水揚げのため港に急ぐときには,主機の燃料ハンドルを許容最大トルクになるストッパーに当たるまで上げて運転していた。
 A受審人は,平成11年9月から大安丸に機関長として乗り組み,同13年8月の主機整備時に,吸気弁および弁座の摩耗が進行していたので,全シリンダの吸気弁,弁座等を新替し,翌14年7月の受検時には,主機の全ピストンの抜き出し,シリンダヘッド及び空気冷却器の整備を行い,9月から操業を再開した。
 その後,A受審人は,冬期に入り給気温度が低下したことを認めたが,給気の温度調整をしなくても運転に特段の支障が生じなかったので大丈夫と思い,給気温度がメーカーの指導する範囲となるよう,空気冷却器の手動温度調整弁の開度の加減をして適切な給気温度管理をすることなく,4番シリンダの温度サイクルの影響を受けやすい吸気ポートに近い側の吸気弁かさ部の材質が疲労し,急速に進行していたものの,運転に支障を感じなかったので,そのことに気づかなかった。
 こうして大安丸は,A受審人ほか17人が乗り組み,船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,同15年7月28日00時00分北海道稚内港を出港し,03時ごろ頓別漁港沖の漁場に至り,操業中,網が海底の岩に掛かったため,主機の燃料ハンドルを一杯に上げて揚網を行っていたところ,06時30分頓別港東防波堤灯台から真方位020度10.4海里の地点において,材質の疲労が著しく進行していた4番シリンダの吸気ポートに近い側の吸気弁外周約50ミリメートルが割損し,燃焼室に落下した同弁かさ部の破片が,ピストン頂部とシリンダヘッド底部との間で挟撃されて,ピストン頂部,シリンダヘッド底部,残りの吸気弁,排気弁を損傷し,さらに過給機内に侵入して,タービンノズル,ローター軸を損傷し,主機の回転数が低下するとともに煙突より黒煙を発した。
 当時,天候は曇で風力1の東風が吹き,海上は穏やかであった。
 大安丸は,操業を中止して帰港後,精査の結果上記の損傷が判明し,損傷部品を新替するなどして修理された。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機の運転管理を行うにあたり,給気温度管理が不適切で,吸気弁かさ部の材質が著しく疲労したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の給気温度が低下したことを認めた場合,給気温度がメーカーの指導する範囲となるよう,空気冷却器の手動温度調整弁の開度を加減して給気温度管理を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,給気の温度調整をしなくても運転に特段の支障が生じなかったので大丈夫と思い,給気温度管理を適切に行わなかった職務上の過失により,吸気弁かさ部の材質に著しい疲労が生じる事態を招き,同弁かさ部が割損し,燃焼室に落下した同弁かさ部の破片が,ピストン頂部とシリンダヘッド底部との間で挟撃されて,ピストン頂部,シリンダヘッド底部,残りの吸気弁,排気弁を損傷し,さらに過給機内に侵入して,タービンノズル,ローター軸を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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