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平成17年神審第124号
件名

モーターボート玄徳号転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年5月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(清重隆彦)

副理事官
山本哲也

受審人
A 職名:玄徳号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
沈没して全損

原因
操縦不適切

裁決主文

 本件転覆は,操縦が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年8月6日15時00分
 福井県和田港北東方沖合
 (北緯35度31.9分 東経135度36.4分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート玄徳号
総トン数 0.3トン
全長 3.73メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 7キロワット

3 事実の経過
 玄徳号は,航行区域を限定沿海区域とする,最大搭載人員4人のFRP製モーターボートで,平成14年に四級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が単独で乗り組み,同17年8月6日14時30分福井県のマリーナを発し,西方約1,000メートルのところにある,同県和田港の桟橋に寄って友人2人を乗せ,全員が救命胴衣を着用し,遊走の目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同マリーナ北東方4海里ばかりの髻島付近に向かった。
 ところで,マリーナの北東方1.2海里ばかりの海域には,海岸から北西方に向かって長さ約1,700メートル幅約500メートルの第57号定置網漁業漁場区域が,同方2.3海里ばかりの海域には,同様に長さ約2,000メートル幅約500メートルの第56号定置網漁業漁場区域がそれぞれ設定され,定置網の存在を示す黄色球形の浮標が多数設置されていた。そして,当時,第56号定置網漁業漁場区域の南西端付近には,白色球形発泡スチロールの浮きに赤色及び白色の旗を付けた長さ約2メートルの竹竿を立てた,所有者不明の標識が存在した。
 一方,A受審人は,平成14年8月に玄徳号を購入し,年間20回程度小浜湾内や琵琶湖で1人で乗船して遊走等を行っていて,友人等を乗せての遊走は初めてであった。
 A受審人は,体重80キログラムの友人1人を船体前部の物入れの蓋に腰を掛けさせるとともに,同体重のもう1人の友人を操縦台の前の生け簀の蓋に腰を掛けさせ,両人に航行中は動かないよう注意を与え,舵と機関とを適宜使用して和田港外に出航し,機関を全速力前進に掛けて15.0ノットの対地速力で船体後部の物入れの蓋に腰を掛け,手動操舵によって北東方に進行した。そして,14時53分ごろ前方100メートルばかりのところに,沖に向かって連なる第57号定置網漁業漁場区域の定置網の存在を示す一連の浮標を認め,沖出しすることとして針路を北西方に転じ,同じ速力で続航した。
 14時55分半少し前A受審人は,一連の浮標の北西端を迂回して和田港マリーナ第1防波堤灯台から011度(真方位,以下同じ。)1.45海里の地点に達し,針路を065度に定めて同じ速力で進行した。
 15時00分少し前A受審人は,第57号定置網漁業漁場区域手前に至ったとき,前方約30メートルのところに,赤色及び白色の旗を付けた竹竿を立てた標識を認め,これを避けることとしたが,平素,1人で乗っていて危険を感じたことがなかったので大丈夫と思い,転舵する前に減速するなどの適切な操縦を行うことなく,同じ速力のまま左舵20度をとって左転を始めた。
 玄徳号は,15度ばかり左舷側に傾いたまま左転中,同乗者の1人が後方を振り返ろうとして身体の平衡を失い,生け簀の蓋の上から左舷側に滑り落ち,急激に船体傾斜が増大したのに伴い,A受審人も左舷側によろけて更に舵角を増したこととなり,15時00分和田港マリーナ第1防波堤灯台から034度2.3海里の地点において,船首が315度を向首したとき,左舷側への傾斜が増大して復原力を喪失し,一瞬にして転覆した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は高潮時であった。
 転覆の結果,玄徳号は沈没して全損となった。また,A受審人及び2人の同乗者は海上に投げ出されたものの,海岸に向かって泳いでいたところ,付近を通り掛かった漁船に救助された。

(海難の原因)
 本件転覆は,定置網が敷設された高浜湾東部を航行中,前路に認めた標識を避航する際,操縦が不適切で,高速力のまま転舵して左転中,同乗者が身体の平衡を失い左舷側に滑り落ち船体傾斜が増大したのに伴い,操縦者も左舷側によろけたことによって更に舵角を増したこととなり,左舷側に大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,定置網が敷設された高浜湾東部を航行中,前路に認めた標識を避航する場合,高速力のまま転舵すると,同乗者が身体の平衡を失い左舷側に滑り落ち船体傾斜が増大し,復原力を喪失して転覆するおそれがあったのであるから,減速して転舵するなど,適切な操縦を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,平素,1人で乗っていて危険を感じたことがなかったので大丈夫と思い,適切な操縦を行わなかった職務上の過失により,高速力のまま転舵して左転中,同乗者が身体の平衡を失って左舷側に滑り落ち,急激に船体傾斜が増大したのに伴い,自身も左舷側によろけたことによって更に舵角を増したこととなり,左舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆させ,のち,沈没して廃船となるに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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