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平成18年横審第12号
件名

モーターボート アイランダー転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年5月19日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(金城隆支,大山繁樹,今泉豊光)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:アイランダー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機濡損及び操縦室前面風防破損

原因
三角波の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は,三角波の危険性に対する配慮が不十分で,三角波が立っている河口への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年7月10日09時50分
 神奈川県相模川河口
 (北緯35度18.8分 東経139度22.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボート アイランダー
全長 7.14メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 62キロワット
(2)設備及び性能等
 アイランダーは,平成9年7月に建造された,B社製造のF230と称する船外機を装備した,最大搭載人員10人のFRP製プレジャーモーターボートで,操縦席は船体中央部にあり,無蓋で操縦席の前面と左右両舷とは風防で囲まれていた。

3 相模川河口の状況
 相模川の河口は,相模湾に面して南に開いており,河口東岸には約340メートルの左岸導流堤が,河口西岸には約130メートルの右岸導流堤がそれぞれ南方に向かって延び,右岸導流堤の西側に平塚漁港(新港)(以下「平塚新港」という。)が築造されていた。
 両導流堤の南端部は流出土砂によって水深が浅くなっていることから,南ないし南西の風波やうねりがある時には,川の流れと干渉して波高が高まり,三角波が立つことの多い水域であった。
 本件後,湘南海上保安署は,相模川河口でプレジャーボートの転覆事故が多発していることから,「プレジャーボートを操船される方へ,相模川河口における転覆事故が多発しています。」と題するパンフレットを作成し,三角波が立つおそれのある場合は,出港を中止するか,平塚新港に避泊するよう呼びかけている。

4 事実の経過
 アイランダーは,A受審人が1人で乗り組み,同人の息子1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年7月10日07時00分相模川河口の北北東方約1,300メートルの同川支流の係留地を発し,同河口の南東方約2海里の釣り場に向かった。
 A受審人は,相模川河口の東南東方約2.5海里の烏帽子岩付近に立ち寄って釣り餌とする小魚を釣ったのち,08時40分に予定の釣り場に至って釣りを始めた。
 09時30分A受審人は,南寄りの風が強まってきたことから釣りを止め,平塚沖波浪観測塔灯(以下「観測塔」という。)から119度(真方位,以下同じ。)2.5海里の地点を発進して帰途に就いた。
 発進直後,A受審人は,針路を相模川河口に向く327度に定め,同乗者を前部甲板上に座らせ,操縦席で立って操船にあたり,6.9ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 そのころ,相模川は数日前からの降雨で水かさが増しており,潮候は下げ潮の中央期で,南寄りの風が強かったことから,相模川河口には三角波が立つ状況であった。
 09時46分A受審人は,観測塔から074.5度2,300メートルの地点に達したとき,相模川河口に波高の高い波浪を認めた。しかし,同人は,三角波に遭遇するおそれがあることを承知していたものの,波浪が穏やかとなる頃合いを見計らって進行すれば何とか同河口を航過できると思い,三角波の危険性に十分配慮し,一時平塚新港に避泊するなど,同河口への進入を中止しなかった。
 A受審人は,09時47分相模川河口の手前100メートルの,観測塔から068.5度2,220メートルの地点で,波浪の様子を見るため停留を始め,同時49分半波浪が穏やかとなったことから,同河口への進入を開始した。
 アイランダーは,327度の針路,6.0ノットの速力で進行中,09時50分観測塔から066度2,200メートルの地点において,船尾部が三角波に持ち上げられて左舷側に大傾斜を生じ,復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は晴で風力5の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,相模川河口付近には波高約2メートルの波浪が生じていた。
 転覆の結果,船外機に濡れ損を,操縦室前面の風防に破損を生じたが,平塚新港に引きつけられ,のち修理された。また,A受審人と同乗者は海中に投げ出されたが,相模川河口付近を航行中の水上オートバイに救助された。

(本件発生に至る事由)
1 波浪が穏やかとなる頃合いを見計らって進行すれば何とか通航できると思ったこと
2 相模川河口への進入を中止しなかったこと

(原因の考察)
 本件は,三角波の危険性に対する配慮を十分に行い,相模川河口への進入を中止すれば,発生を防ぐことができたと認められる。
 したがって,A受審人が,波浪が穏やかとなる頃合いを見計らって進行すれば何とか通航できると思い,三角波の危険性に対する配慮が不十分で,相模川河口への進入を中止しなかったことは本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件転覆は,神奈川県相模川河口の南方沖において,同川支流の係留地に向けて北上中,同河口に波高が高い波浪を認めた際,三角波の危険性に対する配慮が不十分で,同河口への進入を中止せずに進行し,三角波に持ち上げられて大傾斜を生じ,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,神奈川県相模川河口の南方沖において,同川支流の係留地に向けて北上中,同河口に波高が高い波浪を認めた場合,三角波に遭遇するおそれがあることを承知していたのであるから,三角波の危険性に十分配慮し,同河口西側に隣接する平塚新港に一時避泊するなど,同河口への進入を中止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,波浪が穏やかになる頃合いを見計らって進行すれば何とか同河口を通航することができると思い,三角波の危険性に十分配慮し,同河口西側に隣接する平塚新港に一時避泊するなど,同河口への進入を中止しなかった職務上の過失により,船尾部が三角波に持ち上げられて左舷側に大傾斜を生じ,復原力を喪失して転覆を招き,船外機に濡れ損及び操縦室前面の風防に破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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