(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月1日13時20分
和歌山県沖ノ島南東沖
(北緯34度06.5分 東経135度05.0分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートひみこ |
登録長 |
6.98メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
53キロワット |
3 事実の経過
ひみこは,船体のほぼ中央に操舵室を有する最大とう載人員8人のFRP製モーターボートで,釣りの目的で,平成16年3月交付の一級小型船舶操縦免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み,友人2人を同乗させ,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年10月1日08時45分和歌山下津港海南区第1区を発し,09時30分同港沖合の沖ノ島北方の海域に至り,錨泊して釣りをしたものの釣果がなく09時50分錨を揚げて次の釣り場に向かった。
平素,A受審人は,揚錨する際,錨が根掛かりしたときには,機関を使用して根掛かりを解消したのち,機関中立として船首のクリートに止めた錨索を外して人力で引き揚げていた。
ところで,機関を前進にかけて錨索を引いて根掛かりを解消する場合,錨索が推進器に近づくと推進器流により錨索を巻き込むおそれがあったので,船尾部に錨索を取り直すなどして推進器に巻き付くことを防止する措置をとる必要があった。
10時00分A受審人は,下津沖ノ島灯台から真方位138度850メートルの地点に至り,船首部から水深25メートルのところに長さ100メートル径25ミリメートルの化学繊維製の錨索のうち約50メートルを延出して投錨し,釣りを開始した。
13時10分A受審人は,小あじを300匹あげたので,べら釣りのため地ノ島の南方へ移動することとし,折からの南西風により強く張った錨索を友人と2人で揚げようとしたが,根掛かりのため人力では引き揚げられなかったので,錨索を船首方に張って機関を後進にかけて錨を引きずれば,根掛かりを解消できると思い,20ないし30秒ばかり後進をかけたものの,効なく,また,機関を前進にかけて行きあしを付けて錨索を引くと,船尾方に張って錨索を推進器に巻き込むおそれがあったが,錨索を見て操船すれば推進器に巻き込むことはないと思い,船尾部に錨索を取り直すなど錨索の推進器への巻き付き防止措置をとることなく,機関を前進にかけて揚錨作業を続行した。
13時20分少し前A受審人は,船首を北方に向けて機関を全速力前進にかけて錨索が船首から右舷側を船尾方向に張っているのを認めながら,錨索を引いたところ,13時20分同地点において,錨索が推進器に巻き付いて機関が停止し,航行不能状態に陥った。
当時,天候は曇で風力4の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
その結果,ひみこは救助されて最寄りの港に引きつけられたが,推進器軸及び同翼に曲損を生じた。
(海難の原因)
本件遭難は,和歌山県沖ノ島南東沖において,揚錨中,機関を前進にかけて根掛かりを解消する際,錨索を船尾部に取り直すなど推進器への錨索巻き付き防止措置がとられなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山県沖ノ島南東沖において,揚錨中,機関を使用して根掛かりを解消する場合,機関を前進にかけると,船首部から延出した錨索が推進器流により推進器に絡むおそれがあったから,錨索を船尾部に取り直すなど推進器への錨索巻き付き防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,錨索を見て操船すれば推進器に絡むことはないと思い,錨索を船尾に取り直すなど推進器への錨索巻き付き防止措置をとらなかった職務上の過失により,錨索が推進器軸及び推進器翼に巻き付いて航行不能に陥り,推進器軸及び同翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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