(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月10日06時20分
五島列島野崎島西岸
(北緯33度10.5分 東経129度07.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船陽慎 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
21.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
610キロワット |
3 事実の経過
陽慎は,平成16年8月に進水した,中型まき網漁業に灯船兼探索船として従事するFRP製漁船で,A受審人(平成16年2月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,船首0.8メートル船尾2.1メートルの喫水をもって,平成16年12月7日12時00分まき網漁船団の僚船とともに長崎県神崎漁港を発し,五島列島周辺海域で操業を行い,越えて同月10日05時18分中通島の西北西方約14海里の漁場で徹夜の操業を終えたのち,燃料等補給のため単独で漁場を発し,神崎漁港に向かった。
ところで,陽慎の操業形態は,五島列島の宇久島及び小値賀島の周辺海域で,13時ごろから魚群探索を開始し,日没から日出までの間,集魚等を行い,日出から12時ごろまで錨泊して休息することを,月夜間と称する満月の前後数日間や荒天を除いて,3ないし4日ごとに燃料等を神崎漁港で補給しながら繰り返すものであった。
こうして,A受審人は,操舵室の窓や出入口の扉を全て閉め,舵輪後方に設置された自動車の運転席を流用したいすに腰掛けて操縦に当たり,05時56分少し前津和埼灯台から259度(真方位,以下同じ。)5.4海里の地点において,針路を津和崎瀬戸西口に向く073度に定め,機関を全速力前進にかけ,15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で手動操舵により進行した。
定針後,A受審人は,小値賀島南方沖合を東行し,06時05分津和埼灯台から264度3.1海里の地点に達したとき,周囲に航行する他船がおらず,海上模様も平穏であったこともあって,徹夜の操業に引き続いて操船に当たっていたことから眠気を催したが,しばらくしたら津和崎瀬戸に差し掛かるので,居眠りすることはあるまいと思い,小値賀島の近くに錨泊して一時仮眠をとるなり,いすから降りて立った姿勢とするか,洗顔や外気に当たることにより覚醒するなりして,居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
06時10分A受審人は,小値賀港沖合を通過したことを確認したものの,その後,いつしか,いすに腰掛けたまま居眠りに陥った。
A受審人は,06時15分から西北西方への潮流を受け,5度ほど左方に圧流されて13.7ノットの速力で進行していたところ,06時18分半わずか前には転針予定地点に達したが,居眠りしていてこのことに気付かず,転針できないまま続航し,陽慎は,06時20分津和埼灯台から025度1.0海里の地点において,野崎島西岸に原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,付近海域には約2.0ノットの西北西流があった。
乗揚の結果,船底に破口を,主機やソナー等に濡れ損を,推進器翼に欠損を,舵板に曲損をそれぞれ生じたが,自力で離礁し,僚船によって津和崎漁港に引きつけられ,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,五島列島中通島西方沖合を津和崎瀬戸に向けて東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同列島野崎島西岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,単独で船橋当直に当たり,五島列島中通島西方沖合を津和崎瀬戸に向けて東行中,眠気を催した場合,徹夜の操業に引き続いて操船に当たっていたのであるから,小値賀島の近くに錨泊して一時仮眠をとるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,しばらくしたら津和崎瀬戸に差し掛かるので,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥って転針予定地点を航過し,同列島野崎島西岸に向首進行して乗揚を招き,船底に破口を,主機やソナー等に濡れ損を,推進器翼に欠損を,及び舵板に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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