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平成17年長審第63号
件名

貨物船宝松丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年6月9日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(尾崎安則)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:宝松丸船長 海技免許:三級海技士(航海)

損害
右舷後部船底外板に破口を伴う凹損,推進器翼先端に欠損

原因
荒天避難の措置がとられなかったこと

裁決主文

 本件乗揚は,台風が接近する状況下,荒天避難の措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月29日08時20分
 熊本県水俣港
 (北緯32度12.3分 東経130度22.4分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船宝松丸
総トン数 635トン
全長 77.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 宝松丸は,平成5年6月に進水し,航行区域を限定沿海区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,左右の船首にいずれも重量1,675キログラムのストックレスアンカー及び直径38ミリメートル1節の長さ25メートルの錨鎖9節を備え,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,1番から6番までの全バラストタンクのほか船首及び船尾水倉にほぼ満杯状態まで海水971トンを張水し,船首2.71メートル船尾3.61メートルの喫水をもって,平成16年9月28日10時20分博多港を発し,熊本県水俣港に向かった。
 そのころ,台風21号が,九州の南西方250海里ばかりの海上にあって東シナ海を北東進し,九州南部に接近することが予報されていた。
 ところで,水俣港は,八代海東岸中部に位置し,北部の梅戸地区と南部の百間地区とに分かれ,北西方ないし南西方に開いた港口を除いて周囲を陸岸に囲まれているものの,北東側の陸岸の標高が低く,北寄り又は西寄りの風が強吹するときには走錨する危険があった。
 A受審人は,水俣港への航行の途,テレビやナブテックスなどで逐次台風情報を得て,台風21号が九州南部を北東に進み,同港が台風の左半円に入って北東の強風が吹き,翌日09時ごろに最接近する予報を知ったものの,代理店から台風通過後に荷役を行いたい旨を伝えられていたことから,台風の通過に伴って北寄りの強風が予想されるにしても,そのときに対応すれば良いと考え,荷役予定岸壁がある同港梅戸地区に錨泊することとした。
 22時40分A受審人は,水俣港梅戸地区に至り,風力3の東寄りの風であったことから,丸島港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から232度(真方位,以下同じ。)0.7海里の,水深約20メートルで底質が泥及び貝殻の地点に左舷錨を投じ,錨鎖4節を水際まで伸出したのち,錨が効いたことを確認し,主機の運転を終了して自室で休息した。
 23時00分熊本地方気象台は,水俣港を含む熊本県芦北地方に対し,暴風,波浪警報及び大雨,洪水,高潮等の注意報を発表した。
 翌29日06時00分A受審人は,台風21号の中心が水俣港の南南西方80海里ばかりの鹿児島県西方海上にあったとき,昇橋して船位に異状がないことを確認し,新しい台風情報を得たのち,自ら守錨当直に就き,北寄りの風に変わって風力4となったことを観測し,風雨が強まり始めたのを認めたので,06時30分錨鎖をさらに3節伸出させたが,これで走錨することはあるまいと思い,北寄りの風と風浪を遮ることができる天草上島南岸沖合に転錨するなどの荒天避難の措置をとることなく,機関の準備を行わないまま,錨泊を続けた。
 08時15分A受審人は,台風21号の中心が鹿児島県西部に上陸するころ,急速に風勢が増し,最大瞬間風速が毎秒30メートルないし35メートルの北風となったので,危険を感じて機関の準備を令し,08時17分GPSプロッタの画面で自船の航跡線がわずかに南方に向かって表示されているのを見て走錨を知り,直ちに揚錨を命じた。
 宝松丸は,揚錨を開始する間もなく南方に流され,08時20分北防波堤灯台から219度0.9海里の地点において,015度を向いた状態で,明神埼北岸の砂地に乗り揚げた。
 当時,天候は雨で突風を伴う風力9の北風が吹き,波高が約4メートルで,潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は,乗揚直後に主機が始動できる状態となったことを確認して前進にかけ,揚錨しながら離礁したのち,前示投錨地点から150メートルばかり沖側に両舷錨を投じ,錨鎖をいずれも8節水際まで伸出して再び錨泊したものの,さらに風勢が増大し,機関を使用しても走錨を防ぐことができなかったので,天草上島南東岸沖合に転錨して台風の通過を待った。
 乗揚の結果,右舷後部船底外板に破口を伴う凹損を生じ,推進器翼先端を欠損したが,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,台風が接近する熊本県水俣港で錨泊中,荒天避難の措置がとられず,暴風によって走錨し,陸岸に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,台風が接近する熊本県水俣港で錨泊中,風向が北寄りに変わり,風勢が強まり始めたことを認めた場合,同港では北寄りの風が強吹するときに走錨する危険があったのだから,安全な海域に転錨するなどの荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,投錨していた左舷錨の錨鎖を7節まで伸ばしたので走錨することはあるまいと思い,荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により,同港で錨泊を続け,北からの暴風を受けて走錨し,圧流されて明神埼北岸に乗り揚げる事態を招き,宝松丸の右舷後部船底外板に破口を伴う凹損を,推進器翼先端に欠損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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