(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月18日05時55分
沖縄県津堅島南方沖合ウフビシ
(北緯26度12.0分 東経127度57.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船鶴丸 |
総トン数 |
8.5トン |
登録長 |
11.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
205キロワット |
(2)設備及び性能等
鶴丸は,昭和58年4月に進水した一層甲板型FRP製漁船で,船体中央よりやや後方に機関室囲壁,船長室及び同室後方上部に操舵室を設け,船長室前部の棚に左舷側からレーダー,機関計器盤,コンパス及び操船用遠隔管制器並びに同室右舷側天井にGPSプロッターをそれぞれ備え,操舵室右舷側に舵輪を,同室後部には左右両舷にわたって腰掛け用の渡し板を設置し,航海速力は,機関回転数毎分1,200の11.0ノットであった。
3 事実の経過
鶴丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,そでいか旗流し漁の目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年3月15日17時30分沖縄県糸満漁港を発し,同県金武岬東北東方沖合33海里の漁場に向かい,翌16日07時00分同漁場に至って操業していたが,翌々17日夕刻天候悪化の予報を入手したので,予定を切り上げて帰航することとし,そでいか60キログラムを獲たのち,22時00分同漁場を発し,帰途に就いた。
ところで,A受審人は,鶴丸の各種機器類の故障が相次いで,出港をたびたび見合わせたことから,3ないし4日間の操業をこれまでに4回しか経験したことがなく,また,漁場では,07時ごろから21時ごろまで操業を繰り返し,夜間は漂泊して休息をとることにしていたものの,慣れない操業を連日行ったので,当時は疲労が蓄積した状態であった。また,同人は糸満漁港と漁場との間を往復する際は,自らが単独当直に入り,眠気を催した際は,乗組員を起こして当直を任せ,短時間の休息をとることとしていた。
A受審人は,発進したのち,レーダーが故障して使用できなかったので,一旦沖縄島に向けて西行したのち,針路を左に転じ,その後,津堅島北東方沖合及び久高島東方沖合を経て陸岸に沿って帰航することとし,GPSプロッターを確認しながら,南下した。
翌18日00時30分ごろA受審人は,乗組員を休ませたのち,渡し板に腰掛け,右舷側の壁に寄りかかって単独当直に就き,右舷方を追い越していく2隻の同航船の灯火を見守りながら南下を続け,03時00分津堅島灯台から062度13.6海里の地点で,針路を230度(真方位,以下同じ。)に定め,波が高く機関回転数を上げられなかったので,機関を半速力前進にかけて,5.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
その後,A受審人は,自動操舵に切り替え,04時ごろ渡し板に腰掛け,右舷側の壁に寄りかかったまま当直にあたっていたところ,慣れない操業で疲労が蓄積し,長時間の単独当直のうえ,支障となる他船がいなかったことから気が緩んで眠気を催すようになり,そのまま当直を続けると,居眠り運航となるおそれがあったが,もう少しで転針予定地点に達するので,居眠りすることはあるまいと思い,休息中の乗組員を起こして当直を任せるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく続航中,いつしか居眠りに陥った。
04時59分A受審人は,津堅島灯台から090度4.2海里の地点に至り,転針予定地点となったが,居眠りに陥っていたので,転針することができず,05時43分中城湾口灯浮標の南方となる,津堅島灯台から149度2.7海里の地点に達し,干出さんご礁帯ウフビシ北端の浅礁に向首して1.0海里に接近したが,依然として居眠りを続けていたので,このことに気付かないまま進行中,05時55分鶴丸は津堅島灯台から168度3.1海里の同浅礁に,原針路,原速力のまま,乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力5の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は,衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り,事後の措置にあたった。
乗揚の結果,左舷船底部及び同舷外板全般に大破口を,船尾管及び舵部に損傷を生じて大破し,のち全損となり,A受審人及び乗組員は,来援した海上保安庁のヘリコプターにより救助された。
(本件発生に至る事由)
1 疲労が蓄積した状態であったこと
2 レーダーが故障中であったこと
3 漁ろうの経験があまりなかったこと
4 陸岸に沿って帰航したこと
5 長時間の単独当直であったこと
6 渡し板に腰掛けて右舷側の壁に寄りかかっていたこと
7 支障となる他船がおらず,気が緩んだこと
8 眠気を催したとき,居眠りすることはあるまいと思い,休息中の乗組員を起こすなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
9 居眠りに陥ったこと
(原因の考察)
本件は,操業を切り上げて帰航するため南下中,当直者が居眠りに陥ったことによって発生したものである。
慣れない操業で疲労が蓄積し,長時間の単独当直のうえ,支障となる他船もいなかったことから気が緩み,眠気を催す状況になったとしても,休息中の乗組員を起こして当直を任せるなどしていれば,本件は発生しなかったものと思われる。
したがって,A受審人が,もう少しで転針予定地点に達するので,居眠りすることはあるまいと思い,休息中の乗組員を起こして当直を任せるなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,慣れない操業で疲労が蓄積した状態であったこと及び渡し板に腰掛けて右舷側の壁に寄りかかっていたことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
レーダーが故障中であったこと,A受審人が,漁ろうの経験があまりなかったこと及び陸岸に沿って帰航したことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,沖縄県津堅島北東方沖合を糸満漁港に向け,帰航するため南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同島南方沖合のウフビシに向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,沖縄県津堅島北東方沖合を糸満漁港に向け,帰航するため南下中,眠気を催した場合,慣れない操業を連日行って疲労が蓄積し,長時間の単独当直のうえ,支障となる他船もいなかったので気が緩み,居眠り運航となるおそれがあったのであるから,乗組員を起こして当直を任せるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,もう少しで転針予定地点に達するので,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,渡し板に腰掛けたまま単独当直を続け,居眠りに陥って乗揚を招き,左舷船底部及び同舷外板全般に大破口を,船尾管及び舵部に損傷を生じる事態を招いて大破させ,全損とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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