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平成17年広審第92号
件名

貨物船勇幸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年6月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二,橋本 學,藤岡善計)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:勇幸丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
補佐人
a

損害
船底外板全般に擦過傷及び同後部に凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月18日11時10分
 備讃瀬戸西部
 (北緯34度22.6分 東経133度44.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船勇幸丸
総トン数 344トン
全長 53.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット
(2)設備及び性能等
 勇幸丸は,平成元年3月に進水した船尾船橋型の油タンカー兼引火性液体物質及び液体化学薬品ばら積船で,操舵室中央のコンソール盤に,舵輪を挟んで左舷側にレーダー2台及び右舷側に主機遠隔操縦装置をそれぞれ備え,同室左舷後方角部に海図台が置かれ,海図台横後壁の舵輪に手が届くところに船舶電話器が取り付けられていた。また,GPSを装備していたものの,プロッタは付属していなかった。
 航海速力が約10ノットで,海上試運転時の旋回試験では90度回頭するのに要する時間が左右方向とも約35秒,後進試験では後進発令から船体停止までの所要時間が2分20秒,航走距離が448メートルであった。

3 事実の経過
 勇幸丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,引火性液体類であるベンゼン501.775キロトンを積載し,補油の目的で,船首2.9メートル船尾3.9メートルの喫水をもって,平成17年4月18日10時30分香川県丸亀港を発し,北方対岸の岡山県水島港玉島地区に向かった。
 A受審人は,予定進路を,丸亀港沖合で備讃瀬戸南,同北両航路(以下,航路名については備讃瀬戸の冠称を省略する。)を横切り,北航路に隣接して東西に約1.5海里の間隔で並んでいる本島と広島間の水域を北上するものとした。そして,同水域の航行経験が何度もあり,広島南東端に浅水域が張り出していること,水域中央部に干出する園州があることなどを知っていたことから,使用海図W137Bを参照し,園州を中心に東西約0.9海里南北約2海里にわたり広がっている水深5メートル以下の浅瀬(以下「浅瀬」という。)に進入しないよう,同海図の園州を囲んでいる5メートル等深線を赤色でマークしていた。
 こうしてA受審人は,発航操船に続いて1人で船橋当直に就き,10時56分江浦港西防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から112度(真方位,以下同じ。)1.6海里の地点に達したとき,折から北航路を西進中の船舶を避けて針路を004度に定め,機関を半速力前進にかけ,7.0ノットの対地速力で,同航路横断後は左転して浅瀬を避け広島沿いに進むつもりで,手動操舵により進行した。
 A受審人は,海図台に使用海図を置き,レーダー1台を1.5海里レンジで作動させ,11時02分半北航路を横切り,右舷側に平行した本島の視認模様でこれを認め,そのころ船首方約1.5海里に南下中のプレジャーボートを視認し,また,補油業者から船舶電話がかかってきたことからこれに応答し,補油について打ち合わせしながら続航した。
 11時04分半A受審人は,電話での打ち合わせを終え,防波堤灯台から076度1.6海里の地点に達したとき,既に左舷側の広島南東岸の浅水域を替わり,前方約0.4海里に浅瀬南端部が展開し,浅瀬を避け広島沿いに進むには約60度左転することが必要な状況であったが,プレジャーボートが一定しない進路で近付いていたことから同船に気をとられ,本島との離岸距離で海図に当たるなど船位の確認を十分に行うことなく,このことに気付かず,とりあえず広島側の浅水域を避けて進もうと30度ばかり左転して330度の針路とし,依然,船位を確かめないままプレジャーボートの方を見て進行中,11時08分5メートル等深線を越え浅瀬に進入した。
 11時09分半ごろA受審人は,真向かいに行き会う態勢になったプレジャーボートを替わそうと右舵一杯をとり,右転中,11時10分勇幸丸は,防波堤灯台から056度1.6海里の地点において,060度に向首したとき浅所に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。乗揚の結果,船底外板全般に擦過傷及び同後部に凹損を生じ,同日夕刻タグボートにより引き降ろされた。

(本件発生に至る事由)
1 船舶電話で補油につき打ち合わせをしながら航行したこと
2 プレジャーボートに気をとられていたこと
3 船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 A受審人が,プレジャーボートに気をとられ,船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 船舶電話で打ち合わせしながら航行したことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,備讃瀬戸西部において,本島と広島間の水域を北上する際,船位の確認が不十分で,同水域中央部の園州から広がる浅瀬に進入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,備讃瀬戸西部において,本島と広島間の水域を北上する場合,同水域中央部の園州から広がる浅瀬に進入することのないよう,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首方に認めたプレジャーボートに気をとられ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,浅瀬に進入して乗揚を招き,船底外板全般に擦過傷及び同後部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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