(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月27日08時55分
高知県高知港
(北緯33度33.18分 東経133度33.58分)
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船新広雅丸 |
総トン数 |
199トン |
全長 |
47.93メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
新広雅丸は,平成4年11月に進水した,航行区域を限定沿海区域とする,凹甲板型鋼製油送船で,A受審人ほか3人が乗り組み,A重油500キロリットルを積載し,船首2.50メートル船尾3.70メートルの喫水をもって,平成17年8月26日15時55分山口県岩国港を発し,高知県高知港に向かった。
ところで,新広雅丸が高知港で着桟予定の中の島北側の桟橋(以下「桟橋」という。)は,その幅が約6メートルで,岸壁から対岸に向けて約4メートル張り出しており,桟橋法面までは水深3メートルに浚渫して維持されていたが,桟橋法面から岸壁側の水域は,浚渫が行われず,水深が2メートルばかりまでの浅所になっていた。また,桟橋と対岸との水域の距離は約50メートルであり,A受審人は,このことを知っていた。
翌27日08時50分半A受審人は,高知港御畳瀬灯台から000.5度(真方位,以下同じ。)2.83海里の第2ふ頭内に設置された煙突(以下「第2ふ頭煙突」という。)から154.5度620メートルの地点で,乗組員を入港配置に就け,機関回転数を毎分250として5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,船首を高知港第19号灯浮標(以下「19号灯浮標」という。)の東側30メートルばかりのところに向け,手動操舵で北上した。
08時52分少し過ぎA受審人は,19号灯浮標を左方に見て航過し,第2ふ頭煙突から142度390メートルの地点に達したとき,針路を桟橋の前面に向く309度に定め,機関回転数を毎分220に下げて4.0ノットの速力で進行し,着桟操船にあたった。
08時53分A受審人は,第2ふ頭煙突から145.5度290メートルの地点に至り,着桟予定桟橋までの距離が290メートルとなったとき,着桟に際し,船体の姿勢を崩さないまま,行きあしを減じるには過大な速力で桟橋に接近する状況にあったが,到着時刻が遅れていたこともあって,速やかに機関を停止するなどの速力の調整を適切に行うことなく続航した。
08時54分少し過ぎA受審人は,第2ふ頭煙突から160度160メートルの地点に達したとき,針路を桟橋の東端わずか沖に向く293度に転じ,機関を停止して約4.0ノットの惰力で進行した。
こうして,新広雅丸は,A受審人が原針路を保ったまま,依然過大な速力で続航し,08時55分少し前船首が桟橋東端に並んだとき,行きあしを減じるため右舵20度をとって機関を全速力後進にかけたところ,船体の姿勢が崩れて船尾部が桟橋法面より岸壁側に進入するのを認め,右舵20度としたまま急いで機関を半速力前進にかけたが,更に船尾が左方に振れ,08時55分第2ふ頭煙突から191度130メートルの浅所に,船首をほぼ北方に向けて船尾部が乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はなく,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
乗揚の結果,推進器翼2枚曲損及び舵板を損壊するなどの損傷を生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,高知県高知港港内において,浅所が至近に存在する桟橋に着桟する際,速力の調整が不適切で,機関を使用しての行きあし減殺時,船体の姿勢を崩して浅所に進入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,高知県高知港港内において,浅所が至近に存在する桟橋に着桟する場合,桟橋法面から岸壁側の水深が浅くなっているのを知っていたのであるから,機関を使用しての行きあし減殺時に船体の姿勢を崩して浅所に進入することのないよう,速力の調整を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,着桟予定時刻が過ぎていたこともあって先を急ぎ,速力の調整を適切に行わなかった職務上の過失により,過大な速力のまま,着桟操船を行い,行きあし減殺時,全速力後進をかけて船体の姿勢を崩し,船尾部を浅所に進入させて乗揚を招き,推進器翼を曲損させ,舵板を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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