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平成17年広審第136号
件名

貨物船神洋丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年6月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(野村昌志,内山欽郎,中谷啓二)

理事官
竹内伸二

受審人
A 職名:神洋丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船首下部外板に破口を伴う凹損等

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人A戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月6日20時50分
 愛媛県田ノ島北岸
 (北緯33度58.7分 東経132度41.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船神洋丸
総トン数 147トン
全長 47.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
(2)設備及び性能等
 神洋丸は,昭和60年3月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,レーダー1台とGPSを装備していた。

3 事実の経過
 神洋丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,石膏530トンを載せ,船首2.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成17年5月6日09時50分岡山県西大寺港を発し,福岡県苅田港に向かった。
 ところで,A受審人は,両港間の航行経験が豊富にあったので,経路上にある安芸灘南付近の水路状況を熟知していた。
 A受審人は,単独の船橋当直に就き,来島海峡を通航したのち,霧のため視程が約100メートルとなり,視界が制限される状況となった安芸灘南推薦航路線の右側を南下した。
 20時35分少し過ぎA受審人は,波妻ノ鼻灯台から283度(真方位,以下同じ。)2.6海里の地点に達したとき,波妻ノ鼻のレーダー映像を左舷に認めて同鼻を航過したことを知り,釣島水道北口に向けるため,針路を安芸灘南推薦航路線に沿う210度に定め,機関を8.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)にかけ,所定の灯火を表示し,自動操舵により進行した。
 針路を定めたとき,A受審人は,普段よりも西方に偏位して田ノ島北岸に向首することとなったが,いつものように安芸灘南推薦航路線に沿う針路とすれば,無難に釣島水道北口に向かうものと思い,レーダーにより探知した波妻ノ鼻からの方位距離を測定するなどして船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かずに続航した。
 A受審人は,間もなくしゅう雨となり,更に視界が悪化するとともに降雨の影響により,波妻ノ鼻などのレーダー映像を識別できなくなったので,レーダーの調整にあたりながら進行した。
 こうして,A受審人がレーダーを調整できないまま,依然としてGPSによる船位の確認も行わずに続航中,神洋丸は,20時50分野忽那島灯台から355度1,400メートルの地点において,原針路原速力のまま,田ノ島北岸に乗り揚げた。
 当時,天候は雨で風力2の南風が吹き,潮候はほぼ高潮時で,視程は約50メートルであった。
 乗揚の結果,船首下部外板に破口を伴う凹損などを生じた。

(本件発生に至る事由)
1 視界が制限された状況にあったこと
2 いつものように安芸灘南推薦航路線に沿う針路とすれば,無難に釣島水道北口に向かうものと思い,船位の確認を十分に行わなかったこと
3 降雨の影響によりレーダー映像を識別できなくなったこと
4 レーダーを調整できなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船位の確認を十分に行っておれば,田ノ島北岸に向首進行したことに気付き,同岸への乗り揚げを回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,いつものように安芸灘南推薦航路線に沿う針路とすれば,無難に釣島水道北口に向かうものと思い,レーダーにより探知した波妻ノ鼻からの方位距離を測定するなどして船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 視界が制限された状況にあったこと,降雨の影響によりレーダー映像を識別できなくなったこと及びレーダーを調整できなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,霧により視界が制限された安芸灘を南下中,船位の確認が不十分で,田ノ島北岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,霧により視界が制限された安芸灘を単独当直に就き南下中,釣島水道北口に向ける場合,レーダーにより探知した波妻ノ鼻からの方位距離を測定するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,いつものように安芸灘南推薦航路線に沿う針路とすれば,無難に釣島水道北口に向かうものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,田ノ島北岸に向首したまま進行して乗揚を招き,神洋丸の船首下部外板に破口を伴う凹損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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