(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年12月3日20時55分
和歌山県田辺港沖合沖ノ島北端付近の浅礁
(北緯33度43.2分 東経135度19.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
ヨット ラピュタ |
全長 |
9.40メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
11キロワット |
3 事実の経過
ラピュタは,船体後部に操縦席を有するFRP製プレジャーヨットで,平成17年9月交付の小型船舶操縦免許証(二級・特殊)を受有するA受審人が,平成17年11月交付の小型船舶操縦免許証(一級)を受有するB受審人を同乗させ,回航の目的で,最大1.38メートルの喫水をもって,平成17年12月2日06時20分三重県五ヶ所港Cヨットハーバーを発し,途中,休息のため和歌山県の勝浦港と田辺港に寄港する予定で,大阪港堺泉北区に向かった。
A受審人は,同2日16時30分勝浦港に入港し,翌3日06時20分同港を発して田辺港に向かい,田辺港沖合を航行するのは,これまでに昼間に1回経験しただけで,主要地点を入力した携帯型GPS(以下「GPS」という。)の表示に従ってB受審人と適宜交替しながら操船し,19時20分四双島灯台から266度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点に達したとき,針路024度速力4.7ノット(対地速力,以下同じ。)の状態で,自動操舵としてB受審人に操船を任せ,自らは陸上の街灯りを見て船位の確認に努めた。
B受審人は,A受審人とは趣味で知り合った仲で,ヨットには月に2回の割合で計5回大阪湾でA受審人の指導を得ていたところ,本件時の航行海域は初めてであったから,事前に,行く先々の港の接近方法等の水路調査を十分に行って,A受審人に対して航行の安全を補助することなく,同受審人の指示に従って操船すれば良いものと思い,沖ノ島周辺の水路状況を全く知らなかったものの,不安を感じていなかった。
ところで,A受審人が所持していたヨット・モータ−ボート用参考図H-134(以下「海図」という。)は,平成6年に廃版となっており,田辺難島灯浮標や斎田埼沖の灯浮標が記載されていないものであったが,同受審人はこのことを知らなかった。
19時53分A受審人は,田辺沖ノ島灯台から308度1.2海里の地点に達したとき,沖ノ島と中島の間を通過するつもりで転針地点をGPSに入力しておいたところ,周囲の情景を見て,当初考えていた位置と異なっていることから,予定転針地点の緯度経度の誤入力に気付いて停船を命じたものの,田辺港にどの様にして入港すればよいのか分からず,気が動転したまま周囲を見渡し田辺難島灯浮標の灯火を視認したとき,これを田辺沖ノ島灯台の灯火と思い,速力を2.0ノットに減じて針路を東方に向けさせたが,目視とGPSで調べた結果灯火の思い違いに気付き,19時58分針路を西方に転じさせ,2回ないし3回停船して周囲を確認しながら,B受審人の手動操舵で進行した。
20時28分A受審人は,田辺沖ノ島灯台から306度1,380メートルの地点に達したとき,左舷前方に田辺沖ノ島灯台と京都大学田辺中島高潮観測塔の各灯火を認め,B受審人に同2個の灯火の沖側に向けて進むよう指示した後,現在位置を確認するため船室に降りたものの確かな船位を得られず,浅礁の多い海域であったから,乗揚事故等のないよう,停船して正しい船位を十分に確認しないまま,あわてた様子で,GPSを持って海図がおかれている船室と操縦席との間を何度も行き来しながら航行を続けた。
B受審人は,A受審人の指示に従って針路を同2個の灯火の沖側に向く167度に定め,速力2.0ノットで航行し,20時42分田辺沖ノ島灯台から269度930メートルの地点に達したとき,A受審人から,左舷方に見える田辺港斎田山導灯の方に向かうよう言われ,転針すれば田辺沖ノ島灯台の灯火が右舷前方に見えるようになるがいいのかと尋ねたところ,気が動転していたA受審人は,水深の深い海域を航行しているので乗揚などの心配はないものと思い,大丈夫だと返答して船室に戻ったので,針路を077度に転じ,沖ノ島北端付近の浅礁に向首進行するようになったが,このことを知らないまま続航した。
B受審人は,指示どおりに進行していたところ,20時55分ラピュタは,田辺沖ノ島灯台から318度230メートルの,沖ノ島北端付近の浅礁に,原針路原速力のまま乗り揚げた。
A受審人は,船室にいて船体に軽い衝撃を感じ,操縦席に戻って乗り揚げたことを知り,浸水がないことを確認し,持ち出す荷物を整理した後118番に通報し,21時過ぎ巡視艇に救助され,翌日07時ごろラピュタはサルベージ船に曳航されて田辺漁港に引きつけられた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮高は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,左舷中央部外板に擦過傷,舵板に欠損を生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,田辺港沖合において,船位の確認が不十分で,沖ノ島北端付近の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,田辺港沖合を航行中,船位を確認できなかった場合,浅礁の多い海域であったから,乗揚事故等のないよう,停船して正しい船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに,同人は,気が動転していて,停船して正しい船位を十分に確認しなかった職務上の過失により,沖ノ島北端付近の浅礁に向首進行して,同浅礁への乗揚を招き,ラピュタの左舷中央部外板に擦過傷,舵板に欠損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,本件時の航行海域は初めてであったから,事前に,行く先々の港の接近方法等の水路調査を十分に行って,A受審人に対して航行の安全を補助すべき注意義務があった。しかるに,同人は,A受審人の指示だけを頼りに操船すれば良いものと思い,航行の安全を補助しなかった職務上の過失により,A受審人の指示どおりに転針し,沖ノ島北端付近の浅礁に向首進行して,同浅礁への乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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