(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月7日19時48分
佐賀県加唐島南岸
(北緯33度35.2分 東経129度51.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船紀新丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
76.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
(2)設備及び性能等
紀新丸は,平成14年1月に愛媛県今治市で進水した,航行区域を限定沿海区域とする,全通2層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,船橋には,レーダー2基,GPSプロッタ及び主機遠隔操縦装置等をそれぞれ備え,左舷側前部に背もたれのない長いすが左舷側の壁に沿って配置されていた。
3 事実の経過
紀新丸は,A,B両受審人ほか3人が乗り組み,湿灰1,605トンを積載し,船首3.42メートル船尾4.54メートルの喫水をもって,平成16年12月7日16時00分長崎県松島港を発し,関門港に向かった。
ところで,紀新丸は,松島港から関門港若松区への石炭灰輸送に従事していて,毎週火,木及び土曜日の09時05分積荷役を始め,16時ごろ同荷役を終了して出港し,関門港まで約8時間半の航海のところ,22時30分ごろ福岡県地ノ島沖で錨泊して入航時刻の調整を行い,水,金及び月曜日の05時半ごろ抜錨して関門港若松区に向かい,揚荷を終了して14時ごろ松島港向け出港し,同港到着後錨泊待機し,翌朝の着桟に備えるスケジュールであった。
A受審人は,発航操船に引き続いて単独で船橋当直に就き,平戸瀬戸を通過したのち,18時30分平戸牛ヶ首灯台北方2.3海里の地点で,眠気を感じたときなどの異常があれば呼ぶようにと注意を与え,B受審人に同当直を引き継いで降橋した。
ところで,A受審人は,船橋当直を,両受審人及び一等航海士の3人による輪番制とし,平素,不審なことがあったり,不安を感じたらいつでも知らせるよう指示するとともに,眠気を覚えたときなど,異常なことがあれば連絡するよう,船長命令簿に記載して各当直者に周知していた。そして,同当直には,往復航とも,松島港と平戸瀬戸北方間を自身が,平戸瀬戸北方と灯台瀬間をB受審人が,同瀬と地ノ島間を一等航海士がそれぞれ単独で当たることとしていた。
一方,B受審人は,ほぼ決まった就労時間の繰り返しであったので,一等航海士が当直する灯台瀬と地ノ島間との航行中及び両港での錨泊待機中に休息をとることができたうえ,荷役中も特に決められた作業もなく,睡眠不足とか疲労を感じることはなかった。
B受審人は,単独で船橋当直に就き,引き続き050度(真方位,以下同じ。)の針路及び13.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行し,19時00分肥前向島灯台から258度3.8海里の地点で船位を確認したところ,左偏していることを認め,波戸岬沖の転針地点に向けて針路を052度に定め,折からの潮流により,左方に2度圧流されながら同じ速力で続航した。
19時10分B受審人は,肥前向島灯台から288度2.1海里の地点に差し掛かったとき,海上平穏で周囲に漁船や通行船がなかったうえ,いつも航行している海域であったので気が緩み,眠気を覚えたが,細切れの睡眠であったものの1日に8時間ばかりの睡眠時間をとり,疲労も感じていなかったので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,A受審人にこのことを報告せず,船橋内を移動するなどの,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,コーヒーを飲もうとしてポットのスイッチを入れ,長いすに座って湯が沸くのを待った。
B受審人は,長いすに座って船橋当直を続けているうち,いつしか居眠りに陥り,19時40分波戸岬沖の転針地点付近に達したが,居眠りをしていてこのことに気付かず,転針しないまま,加唐島南岸に向首して同じ針路及び速力で進行中,紀新丸は,19時48分波戸岬灯台から019度2.0海里の加唐島漁港の防波堤外側の捨て石に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,球状船首を損壊してフォアピークタンクに浸水したが,タグボートにより引き降ろされ,関門港まで自力航行して揚荷後修理された。
(本件発生に至る事由)
1 B受審人が,まさか居眠りすることはあるまいと思ってA受審人に報告したり,船橋内を移動するなどの居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
2 居眠りに陥ったこと
3 転針地点付近で転針しなかったこと
(原因の考察)
本件乗揚は,居眠り運航の防止措置を十分にとっていたなら,波戸岬沖の転針地点付近に達したことが分かり,転針することにより,乗揚を回避できたものと認められる。
したがって,B受審人が,細切れの睡眠であったが1日に8時間ぐらい睡眠をとっているので睡眠不足ではないし荷役中も特にやらなければならないこともなく疲労は感じていなかったので,まさか居眠りすることはあるまいと思って居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと,居眠りに陥ったこと及び転針地点付近で転針しなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,佐賀県呼子港北西方沖合において,関門港に向けて東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,加唐島漁港の防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,佐賀県呼子港北西方沖合において,単独の船橋当直に就き,関門港に向けて東行中,眠気を覚えた場合,A受審人に報告したり,船橋内を移動するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,細切れの睡眠であったものの1日に8時間ばかりの睡眠時間をとっていたので,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,長いすに座って湯が沸くのを待ちながら船橋当直を続けているうちいつしか居眠りに陥り,加唐島漁港の防波堤に向首進行して乗揚を招き,球状船首を損壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
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