(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年11月24日20時50分
石川県能登島東端付近の浅礁
(北緯37度07.3分 東経137度03.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船聰洋丸 |
総トン数 |
494トン |
全長 |
73.28メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能
聰洋丸は,船首部から船橋までの間に長さ38.00メートルの貨物倉1倉を有する船尾船橋型のばら積貨物船で,船橋内前面に左舷側からレーダー2台,操舵装置,灯火のスイッチボード及びテレグラフが順に設置されていた。その右横に当直用椅子が置かれ,同椅子に座ったままで操舵装置に手が届き操舵することができた。
船舶件名表写中の海上試運転成績によると,全速力前進中に全速力後進をかけた場合,船体が停止するまでに1分35秒を要した。
3 事実の経過
A受審人は,京浜港川崎区から津軽海峡経由で新潟県姫川港に向かう途中,平成17年11月23日昼ごろから海上が時化だして船体の動揺が激しく速力が激減したため,姫川港の着桟時間が制限されていたことから,定められた入港時刻に遅れないかとの懸念や激しい動揺等により眠れないまま20時00分から船橋当直に就き,24時00分一等航海士に,姫川港の沖で漂泊して着桟時刻を待つこととする旨を伝えて降橋したものの,入港の遅れに対する懸念や激しい船体動揺により寝付けなかった。
翌24日04時05分A受審人は,相変わらず寝付けないまま,姫川港の沖合に至り機関を停止して漂泊を開始したところで一等航海士と船橋当直を替わり,漂泊後の船体が流される状況を観測し,少しずつ沖に向かって流されていることを確認しながら船橋当直を維持した。
05時30分A受審人は,機関準備を令して着桟態勢に入り,07時20分に着桟した後,荷役当直を一等航海士に任せたものの,会社からの電話の応答等に終始して午前中は休息できず,午後から機関長と自転車で日用品等の買い出しに出かけ,休息をとれないでいるうちに揚荷役が終了し,出港準備にかかった。
こうして聰洋丸は,A受審人ほか4人が乗り組み,積荷の目的で,空倉のまま,海水バラスト320トンを2番バラストタンクに漲水(ちょうすい)し,船首1.5メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,航行中の動力船が掲げる正規の灯火を表示して,同日17時00分姫川港を発し,石川県七尾港に向かった。
A受審人は,出航後他の乗組員全員が七尾港における積荷準備のため船倉内掃除作業に掛かっていたので,出航操船に続いて航海当直に就き,19時ごろ同作業が終わったものの,以前に比べ乗組員数が少なくなり負担が大きく,みんな疲れていることだろうし,22時ごろ七尾港の錨地に着いた後,翌朝09時の着桟予定時刻まで十分に休息をとる時間があるので,航海も長くなく1人で何とかなると思い,長時間睡眠をとっておらず疲労していたから,七尾港までの航海を,作業を終えた乗組員を昇橋させ,2人当直として居眠り運航の防止措置をとることなく,自動操舵として,1人で当直用の椅子に座ったり立ったりしながら船橋当直を続けた。
20時00分A受審人は,能登観音埼灯台から095度(真方位,以下同じ。)8.3海里の地点に達したとき,七尾港のある南湾入口水路の灯浮標の灯火等を認め,レーダーにより船位を確認し,針路を能登島の野崎東端に向首する280度に定め,機関を全速力前進にかけ10.4ノットの対地速力で,特に眠気を感じないまま進行した。
20時41分少し前A受審人は,能登観音埼灯台から064度1.4海里の地点に達したとき,間もなく同水路に入峡する259度に転針することになると思いながら当直用の椅子に座ったところ,睡魔に誘い込まれるようにして居眠りに陥り,20時45分少し前予定の転針地点に達したことに気付かないで直進し,20時50分原針路原速力のまま,能登観音埼灯台から340度1,760メートルの浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮高はほぼ高潮時であった。
乗揚の結果,船底全体に凹傷及び擦過傷を,3番バラストタンク外板に小亀裂を生じた。
翌朝,タグボートの来援を得て,海水バラスト100トンを排水して引き出したところ,行きあしがついて,後方の暗礁に舵板が接触して曲損し航行不能となった。
(本件発生に至る事由)
1 長時間睡眠をとっておらず疲労していたこと
2 当日午前中,会社からの電話の応答等に忙しかったこと
3 当日午後,日用品等の買い出しに出かけたこと
4 長時間1人で船橋当直に就いていたこと
5 居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
6 特に眠気を感じていなかったこと
7 以前に比べ乗組員数が少なくなって負担が大きくみんな疲れていたこと
8 南湾入口の灯浮標等の灯火を視認した後椅子に座ったこと
(原因の考察)
本件乗揚は,A受審人が,長時間睡眠をとっておらず疲れた状態で,1人で航海当直に就いて航行中,居眠りに陥ったことによって発生したもので,2人当直として居眠り運航の防止措置をとっておれば,本件発生は防止できたものと認められる。
したがって,長時間睡眠をとっておらず疲労していたこと,長時間1人で船橋当直に就いていたこと及び居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
当日午後,日用品等の買い出しに出かけたこと及び南湾入口の灯浮標等の灯火を視認した後椅子に座ったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
当日午前中,会社からの電話の応答等により忙しかったこと,特に眠気を感じていなかったこと及び以前に比べ乗組員数が少なくなって負担が大きくみんな疲れていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,石川県能登島東方海域において,南湾入口の水路に向け西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,能登島の野崎東端付近の浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,石川県能登島東方海域において,南湾入口の水路に向け西行する場合,長時間睡眠をとっておらず疲労していたのであるから,居眠り運航とならないよう,倉内掃除作業を終えた乗組員を昇橋させ,2人当直として居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,以前に比べ乗組員数が少なくなり負担が大きくなってみんな疲れていることであろうし,七尾港の錨地に着いたら十分に休息をとる時間があるので,航海も長くなく1人で何とかなると思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,予定の転針ができないまま,能登島の野崎東端付近の浅礁に向けて進行して乗揚を招き,船底全体に凹傷及び擦過傷,3番バラストタンク外板に小亀裂等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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