(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月15日19時15分
静岡県御前埼東方沖合
(北緯34度35.7分 東経138度15.7分)
2 船舶の要目
船種船名 |
ヨット土佐 |
総トン数 |
19.93トン |
全長 |
13.64メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
58キロワット |
3 事実の経過
土佐は,昭和57年8月に進水したフィンキールを有し,船内機及びレーダーを装備したFRP製のクルーザー型ヨットで,A受審人(平成3年3月一級小型船舶操縦士免許取得)が船長としてほか2人が乗り組み,推進器を持たずに帆走する古代船のC号の航海を支援する目的で,フィンキール下端からの最大喫水2.2メートルをもって,平成17年5月8日04時00分高知県宇佐漁港を発し,機帆走しながら伊豆諸島に向かった。
A受審人は,平成14年以降B所有者が船長として乗り組む土佐に甲板員として5回乗船した経験があり,初めて船長として乗り組んだ。
13日11時00分A受審人は,和歌山県勝浦港に給油の目的で寄港したのち,13時00分航海を再開して前示の支援を続け,翌々15日08時30分舞阪灯台から167度(真方位,以下同じ。)14.8海里の地点で,冷却水排出口から機関室内に浸水しているのを認めたことから機関を停止し,支援を中断して10時00分ころ修理地の静岡県浜名港に向けて帆走によって北上したのち,14時00分修理地を変更して同県御前崎港に向けて東行を開始した。
ところで,A受審人は,御前埼沖合の航行は初めてであり,携帯電話で御前崎港の修理業者に修理を依頼した際,御前岩の周辺に浅瀬があるということを聞き,土佐に備え付けの旧版海図第70号を一瞥して御前埼東方約1.3海里沖合には御前岩及び暗岩を含む大根バエと呼ばれる水深10メートル未満の浅礁域が拡延していることを確認した。
A受審人は,レーダーを休止して船尾操縦席で操縦に当たり,18時15分御前埼灯台から184度4.1海里の地点に達したとき,御前岩は孤立障害物で同岩の至近を航行しても大丈夫と思い,前示の海図を精査して水路調査を十分に行わず,御前岩から南南東方約400メートル沖合にかけて存在する水深2メートル未満の浅礁域(以下「御前岩浅礁域」という。)を知らないまま,針路を御前埼と御前岩との中央に向く016度に定め,手動操舵によって進行した。
A受審人は,左舷船首から受ける強風と潮流により右方に12度圧流されながら4.5ノットの対地速力で続航し,19時00分御前岩灯標から199度1,590メートルの地点で,右舷船首3度のところに,同灯標の灯火を視認したものの,御前岩浅礁域に向首接近していることに気付かないまま進行中,土佐は,19時15分御前岩灯標から153度300メートルの地点において,原針路,原速力のまま御前岩浅礁域に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力5の北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,日没時刻は18時43分であった。
その結果,フィンキール及び舵柱に損傷を生じて航行不能に陥り,付近に錨泊したのち,来援した巡視艇によって御前崎港に引きつけられた。
(海難の原因)
本件乗揚は,静岡県御前埼南方沖合において,御前崎港に向けて帆走して北上する際,水路調査が不十分で,夜間,同港南東方沖合の御前岩浅礁域に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,静岡県御前埼南方沖合において,御前崎港に向けて帆走して北上する場合,同港南東方沖合の御前岩浅礁域に著しく接近しないよう,備え付けの海図を精査して水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,海図を一瞥して御前岩は孤立障害物で同岩の至近を航行しても大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,夜間,御前岩浅礁域に向首接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,フィンキール及び舵柱に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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