(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月13日01時53分
長崎県寺島水道北口
(北緯33度04.2分 東経129度39.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船三洋丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
11.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
3 事実の経過
三洋丸は,昭和60年9月に進水し,航行区域を沿海区域とする船首船橋型の鋼製交通船兼作業船で,関門港若松区を基地とし,九州一円及び瀬戸内海海域で主に引船として従事し,操舵室内には,舵輪,磁気コンパス,レーダー,GPSプロッタ,主機遠隔操縦装置及び自動操舵装置を備え,昭和52年2月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,長崎県三重式見港から長崎港まで台船を回航させる目的で,船首0.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって,平成16年12月12日14時30分関門港を発し,同県平戸瀬戸及び寺島水道を経由する予定で,三重式見港に向かった。
A受審人は,発航にあたり,船橋当直を4時間2直制とし,出港操船に続いて自ら同当直に就き,18時00分次直の甲板員と交替して夕食をとり,その後,次の同当直に備えて操舵室後部のベッドで2時間ばかり休息した。
ところで,A受審人は,同月2日船体の整備作業中に腰を痛めて病院に行き,本件発生後に第3腰椎圧迫骨折で絶対安静を要するとの診断を受けたものの,当日は鎮痛剤として座薬ボルタレンサポ50ミリグラムを処方されたのみで特段の指示を受けなかったことから,症状が大したことはなく仕事をできるだろうと考え,引船の船長経験が長い甲板員を臨時に雇い入れたうえ,翌日からの業務にあたっていたが,休息中にも痛みがあって熟睡できず,睡眠不足気味になっていた。
同月12日22時00分A受審人は,長崎県鷹島の北方2海里ばかりの地点で,眠気を特に感じなかったことから,当初の当直割りを変更しないまま入直したのち,21時20分に波浪,濃霧注意報が同県佐世保地区に発表されたことを知り,舵輪の船尾側にある背もたれ付きのいすに腰掛け,体を少し後ろに反らせて痛みが和らぐ姿勢をとり,手動操舵により平戸瀬戸を通航し,23時30分ごろ同瀬戸南口の青砂埼に並航したとき自動操舵とし,平戸島東岸に沿って南下した。
翌13日01時08分A受審人は,牛ヶ首灯台から227度(真方位,以下同じ。)860メートルの地点に至り,針路を寺島水道北口に向く140度に定め,機関を回転数毎分330の全速力前進にかけ,9.0ノットの対地速力で,いすに腰掛けて自動操舵のまま進行し,睡眠不足気味のうえ,いすに腰掛けた姿勢で船橋当直にあたらなければならない体調であり,緊張が緩むと覚醒度が急速に低下し,居眠りに陥るおそれがあったが,眠気を感じないので居眠りすることはあるまいと思い,手動操舵としたり,操舵室のドアを開けて冷気を入れたりするなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
その後,A受審人は,注意報と異なり,佐世保港西方の海上が穏やかで視界も良好であったこと,周囲に錨泊船以外の船舶を認めなかったこと及び次の転針地点までしばらく間があったことから緊張が緩み,覚醒度が急速に低下し,01時39分面高白瀬灯台を右舷正横700メートルに認めたのち,いつしか眠気を覚える間もなく居眠りに陥り,同時49分半寺島水道に向かう転針予定地点に達したが,このことに気付かず,同じ針路のまま進行し,01時53分高後埼灯台から189度1.9海里の地点において,三洋丸は,原針路,原速力のまま,同水道北口東側の松山埼の岩礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の北寄りの風が吹き,海上は穏やかで視界は良好であり,潮候は下げ潮の末期で,長崎県佐世保及び東彼地区に波浪,濃霧注意報が発表されていた。
A受審人は,いすに腰掛けた姿勢のまま,乗揚の衝撃で目覚め,事後の措置にあたった。
乗揚の結果,左舷船首船底外板に破口を伴う凹損を,船尾船底外板に凹損をそれぞれ生じたほか,シューピース及び舵頭材に曲損を生じたが,来援したタグボートに曳かれて離礁し,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,長崎県佐世保港西方沖合を同県寺島水道に向けて南下中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同水道北口の松山埼に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,長崎県佐世保港西方沖合を同県寺島水道に向けて南下中,単独の船橋当直にあたる場合,腰痛により睡眠不足気味であったうえ,痛みを和らげるためにいすに腰掛けた姿勢で同当直にあたっていたのであるから,緊張が緩む状況となったときに覚醒度が低下し,居眠り運航とならないよう,手動操舵とするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,眠気を感じないので居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,自動操舵で進行中,周囲に錨泊船以外の船舶を認めなかったことなどから緊張が緩み,眠気を感じる間もなく居眠りに陥り,予定の転針地点を航過し,寺島水道北口の松山埼に向かって進行して乗揚を招き,左舷船首船底外板に破口を伴う凹損を,船尾船底外板に凹損をそれぞれ生じさせたほか,シューピース及び舵頭材に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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