(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月10日03時30分
山口県櫃島(ひしま)
(北緯34度30.8分 東経131度23.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船神漁丸 |
総トン数 |
13.54トン |
全長 |
18.03メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
467キロワット |
3 事実の経過
神漁丸は,船尾に操舵室を設けたFRP製漁船で,昭和49年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得し,平成16年12月に一級小型船舶操縦士及び特殊小型船舶操縦士免許に更新したA受審人ほか,甲板員1人が乗り組み,刺し網漁の目的で,船首0.45メートル船尾2.17メートルの喫水をもって,平成17年6月9日18時30分山口県大島漁港を発し,同県見島北方の漁場に向かった。
A受審人は,22時30分ごろ目的の漁場に至り,憩流の時機を見計らい,長さ600メートル幅18メートルで,底部に錘及び上端にプラスチック製浮き玉を取り付けた刺し網を船尾から繰り出して海底に展張したのち,1回の操業でいさき30キログラムほどを漁獲して水揚げのため帰航することとし,翌10日01時00分見島北灯台から011度(真方位,以下同じ。)13.8海里の地点を発進し,山口県萩港に向かった。
ところで,A受審人は,長年の経験から,萩港が満潮時である01時ごろの櫃島付近には東方に向かう潮流のあることを知っており,航行中は自動操舵のまま針路を調整しながら同港に接近するつもりでいた。
A受審人は,漁場から南下ののち,見島東方3.5海里付近で,6海里レンジとしたレーダーにより櫃島西岸に向けて航行し,03時04分虎ケ埼灯台から340度9.0海里の地点で,針路を同島西岸が船首やや左となる157度に定め,機関を全速力前進にかけ,13.5ノットの対地速力で,自動操舵によって進行した。
A受審人は,操舵室の窓を閉めた状態で,甲板員が同室内の床に横になって休息する中,操舵輪後方に置いた椅子に腰を掛けてコーヒーを飲むなどしているうち,気候が良くて風も弱く,通い慣れた航海で気持ちが緩み,03時15分虎ケ埼灯台から341度6.5海里の地点に達したころ,眠気を感じるようになったが,まさか居眠りすることはないものと思い,直ちに椅子から立ち上がり操舵室の外に出て外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,椅子に腰掛けたまま続航中,いつしか居眠りに陥った。
こうして,神漁丸は,A受審人が居眠りに陥ったまま,折からの東流で圧流されていることに気付かず,櫃島に著しく接近する進路となって続航し,03時30分虎ケ埼灯台から349度3.2海里の櫃島南西の浅所に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近には弱い東流があった。
A受審人は,衝撃で目を覚まして乗揚を知り,漁業無線により各所に連絡するなどの事後の措置をとった。
乗揚の結果,プロペラに曲損,ビルジキールに圧損及び船底中央部に破口を生じて機関室に浸水したが,サルベージ船により引き下ろされ,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,山口県見島北方の漁場から萩港に向け帰航中,居眠り運航の防止措置が不十分で,櫃島に接近する進路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,萩港に向け櫃島西岸が船首やや左となる針路で帰航中,眠気を感じた場合,居眠り運航とならないよう,直ちに椅子から立ち上がり操舵室の外に出て外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,圧流されて櫃島に接近する進路のまま進行していることに気付かず,同島南西の浅所に乗り揚げる事態を招き,神漁丸のプロペラに曲損,ビルジキールに圧損及び船底中央部に破口を生じさせ,機関室に浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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