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平成18年門審第17号
件名

貨物船第七十八親力丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年5月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小金沢重充)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:第七十八親力丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:第七十八親力丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
船底外板の船底部ほぼ全面にペイント剥離を伴う擦過傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年11月9日04時18分
 大分県姫島南岸
 (北緯33度43.0分 東経131度39.7分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七十八親力丸
総トン数 1,449トン
全長 89.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第七十八親力丸(以下「親力丸」という。)は,船尾船橋型の鋼製貨物船で,A,B両受審人のほか4人が乗り組み,水砕スラグ2,763トンを積載し,船首4.3メートル船尾5.9メートルの喫水をもって,平成17年11月9日01時00分大分港を発し,新潟県姫川港へ向かった。
 ところで,B受審人は,前日8日19時00分に親力丸が大分港沖合に着いて時間調整したのち21時15分に着岸し,その20分後に積荷役が開始されており,着岸作業に引き続き2時間ばかりかかる積荷役の監視と積荷終了後約1時間半かけて乗組員全員で行う積荷のならし作業に従事し,その後直ちに離岸作業に取り掛かったので,入港中まとまった休息時間がとれていない状況であった。
 A受審人は,離岸操船を指揮したのち,01時15分岸壁からほぼ2海里離れた地点に達したとき,船首甲板での離岸作業を終えて昇橋してきたB受審人に船橋当直を引き継ぐことにしたが,積荷役の監視は特に肉体労働ということでもなくて疲労は少ないだろうから,居眠り運航について注意を与えるまでもないと思い,眠気を催した際には2人当直を厳守するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示することなく,同人に船橋当直を任せ,降橋して自室で休息した。
 B受審人は,自身の直ぐ後に昇橋してきた相直の甲板員とともに船橋当直に就いて北上し,03時13分わずか過ぎ国東港南防波堤灯台から093度(真方位,以下同じ。)2.9海里の地点で,針路を姫島水道に向かう323度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.5ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 03時48分B受審人は,相直者が食事の準備のために降橋したので,その後単独の船橋当直となり,舵輪後方に設置された肘掛けと背もたれ付きのいすに座った姿勢で当直を続けた。
 03時59分わずか前B受審人は,姫島灯台から179度3.6海里の地点に達したとき,海上平穏で視界もよく,前路に気になる他船も見当たらないことからの気の緩みと入港中まとまった休息時間がとれなかったこととが重なったものか,眠気を催すようになったが,手動操舵に切り替えて転舵する地点が近いので,それまで眠気を我慢できるものと思い,いすから立ち上がるなり,相直者を呼び戻して2人当直を続けるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航したところ,間もなく居眠りに陥った。
 04時14分少し前B受審人は,予定転針地点を航過したが,居眠りをしていてこのことに気付かず,針路を転じることができないまま進行中,04時18分姫島港東防波堤灯台から104度1,170メートルの地点において,親力丸は,原針路原速力のまま,姫島の南岸至近の浅瀬に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。A受審人は,B受審人から乗り揚げた旨の電話連絡を受けて直ちに昇橋し,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底外板の船底部ほぼ全面にペイント剥離を伴う擦過傷を生じ,来援した僚船に瀬取りして離礁したのち,瀬取り荷を積み戻して姫川港に向かった。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,大分県国東半島沖合を姫島水道へ向け北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同県姫島に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,眠気を催した際に居眠り運航の防止措置をとるよう指示しなかったことと,同当直者が,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,大分県国東半島沖合を姫島水道へ向け北上中,B受審人に船橋当直を引き継ぐ場合,同人が着岸作業から積荷役の監視と積荷のならし作業及び離岸作業に引き続いての当直であったから,居眠り運航とならないよう,眠気を催した際には2人当直を厳守するなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示すべき注意義務があった。しかるに,A受審人は,積荷役の監視は特に肉体労働ということでもなくて疲労は少ないだろうから,居眠り運航について注意を与えるまでもないと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとるよう指示しなかった職務上の過失により,B受審人が居眠りに陥って居眠り運航となり,姫島に向首進行して乗揚を招き,船底外板の船底部ほぼ全面にペイント剥離を伴う擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,大分県国東半島沖合を姫島水道へ向け北上中,相直者が食事の用意で降橋しているときに眠気を催すようになった場合,居眠り運航とならないよう,いすから立ち上がるなり,相直者を呼び戻して2人当直を続けるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,手動操舵に切り替えて転舵する地点が近いので,それまで眠気を我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いすに座ったまま単独の船橋当直中に居眠りに陥り,姫島に向首進行して乗揚を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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