(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月11日19時35分
瀬戸内海伊予灘
(北緯33度46.95分 東経132度23.45分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船至幸丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
76.097メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
至幸丸は,平成3年12月に進水した,航行区域を限定沿海区域とする,全通二層甲板船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか3人が乗り組み,合成樹脂1,335トンを積載し,船首3.50メートル船尾5.00メートルの喫水をもって,平成17年1月11日17時30分愛媛県松山港を発し,福井県敦賀港に向かった。
ところで,至幸丸は,船橋当直体制を00時から04時及び12時から16時を甲板当直部員が,04時から08時及び16時から20時をA受審人が,08時から12時及び20時から24時を船長がそれぞれ単独で行うようにしていた。
A受審人は,風邪気味であったところから,午前中,自室で休息をとり,その後,14時ごろから出港前まで貨物の積み込みに立ち会い,出港作業を終えたのち,18時05分少し過ぎ釣島灯台から130.5度(真方位,以下同じ。)3.3海里の,松山港の港界付近で昇橋し,出港操船を終えた船長と船橋当直を交替して伊予灘を西行した。
18時48分少し前A受審人は,由利島灯台から145度1,800メートルの地点に達したとき,折からの西北西風が強かったことから,予定の246度の針路とすべきところ,風圧流の影響を4度ばかりと見込んで,針路を250度に定め,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,1度ばかり左方に圧流されながら,自動操舵により進行した。
A受審人は,定針後,暖房を効かせた操舵室で舵輪船尾方に置いた肘掛け付きのいすに腰掛けて当直に当たっているうち,周囲に他船を認めなかったことから気が緩るみ,18時53分ごろから眠気を催すようになったが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,立ち上がって外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
こうして,至幸丸は,A受審人がいつしか居眠りに陥り,小水無瀬島北岸に向首していることに気付かず,原針路,原速力のまま進行中,19時35分小水無瀬島灯台から345度580メートルの地点で小水無瀬島北岸に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力4の西北西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,球状船首船底外板に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,瀬戸内海伊予灘を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,小水無瀬島北岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,瀬戸内海伊予灘を西行中,暖房を効かせた操舵室でいすに腰を掛けたまま船橋当直を続けているうち眠気を覚えた場合,居眠り運航とならないよう,いすから立ち上がって外気に当たるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,いつしか居眠りに陥り,小水無瀬島北岸に向首進行して同岸への乗揚を招き,球状船首船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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