(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月13日10時38分
和歌山県湯浅湾千田漁港西南西方沖合
(北緯34度03.7分 東経135度08.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
測量船うずしお |
総トン数 |
30トン |
全長 |
21.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
746キロワット |
(2)設備及び性能等
うずしおは,平成7年11月に神奈川県横浜市で進水した限定沿海区域を航行区域とする,3機2軸の鋼製測量船で,前部甲板上に操舵室が設けられ,同室前部中央に舵輪を,同左舷側に機関制御盤を,同右舷側にレーダー,GPS及び電子海図を,同室中央部左舷側に海図台を,同室後部に各種観測機器をそれぞれ備えていた。そして,主に大阪湾内で,潮流,海水温度,透明度及び水深調査等の観測作業に従事していた。
3 事実の経過
うずしおは,A受審人ほか2人が乗り組み,海洋調査専門官1人を乗せ,船首1.2メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,和歌山県日ノ御埼から同県宮崎ノ鼻に至る区域のESI調査を行う目的で,平成17年10月13日07時00分同県田辺港を発し,調査海域に向かった。
ところで,ESI調査とは,沿岸海域環境保全情報整備の一環として,海岸の形態に応じて,油が漂着した場合の影響の程度を自然の浄化能力,除去作業の困難性などにより分類し,環境脆弱性指標の評価を行うために,海岸線について調査するものであり,同調査を行うためには,砂浜や岩礁などの入り組んだ海岸線の写真撮影などが必要となり,距岸200メートルばかりのところを航行しなければならなかった。
通常の航行中,A受審人は,操舵室中央の操縦席に座って見張り及び操舵操船に,同人の右隣の椅子に座った主任航海士がレーダー監視及び右舷方の見張りに,同左隣の椅子に座った機関長が機関制御盤の監視及び左舷方の見張りにそれぞれ当たる当直体制をとっていた。また,電子海図を見ることにより,船位,進行方向,等深線及び危険水域の存在等を瞬時に知ることができた。そして,海岸線至近や危険水域付近を航行する必要があるときには,水路調査や針路選定などに余裕を持たせるため,約7ノットに減速することとしていた。
A受審人は,発航後,通常の航行中の当直体制をとって北西方に進行し,08時40分ごろ日ノ御埼沖に到着して12.0ノットの対地速力として調査を始め,操縦席に腰を掛けたまま,手動操舵で海岸線に沿って北上を開始した。このとき,主任航海士が海図台脇に立って海岸線の状況調査を,海洋調査専門官が後部甲板上で写真撮影などをそれぞれ始めた。
その後,A受審人は,主任航海士から周囲の状況についての報告が得られなかったため,初めての調査海域で,自ら周囲の状況を確認する必要があり,操舵操船に加えて周囲の見張り,水路調査,針路選定,船位の確認などを行いながら,浅所が多数散在する海域での単独の操舵操船が長時間に及んだ。
A受審人は,10時35分半タケノシ鼻南西沖400メートルばかりのところで,宮崎ノ鼻に至る最終調査区域沖を航行することとして船首を北方に向けたとき,電子海図で前路の水路状況を確認したところ,逢井港西防波堤灯台から110度(真方位,以下同じ。)1.6海里のところに位置する干出岩が左舷前方に存在し,同岩の周囲150メートルの範囲が水深5メートル以下の危険水域として,また,右舷側の海岸線から約200メートル沖合のところに5メートル等深線がそれぞれ表示され,その5メートル等深線と左舷前方の干出岩周囲の危険水域との間に幅約60メートルの水路があることを知り,右舷前方には千田漁港があり,危険水域付近を航行することとなったものの,もう少しで調査が終了することから気がゆるみ,主任航海士を見張りに就けて右舷前方の見張り要員を複数確保することも,減速することも失念したまま,10時36分少し前同灯台から119度1.9海里の地点で,同水路中央付近に向けて針路を350度に定め,12.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
10時37分少し過ぎA受審人は,電子海図により右舷側の5メートル等深線まで約40メートルとなったことを認め,これより少し遠ざかるつもりで左舵3度をとって左転を始め,そのまま左転を続けると危険水域に進入する状況であったが,右舷前方の千田漁港からの出航船の有無に気をとられ,同方向を注視していて,電子海図を活用するなどして船位の確認を十分に行っていなかったので,この状況に気付かなかった。
うずしおは,左転中,10時38分逢井港西防波堤灯台から107度1.65海里の地点において,310度を向首したとき同じ速力のまま浅所に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果,船底中央部に凹損及び推進器翼の曲損などを生じたが,自力離礁し,のち,修理された。
(本件発生に至る事由)
1 初めての調査海域であったこと
2 浅所が多数散在する海域で単独の操舵操船が長時間に及んだこと
3 右舷前方の見張り要員を複数確保しなかったこと
4 千田漁港からの出航船の有無に気をとられていたこと
5 減速しなかったこと
6 船位の確認を十分に行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,船位の確認を十分に行っていたならば,危険水域に向かって進行していることが分かり,乗揚を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,千田漁港からの出航船の有無に気をとられ,船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
減速しなかったこと及び右舷前方の見張り要員を複数確保しなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,A受審人が,操縦席の右前にある電子海図に目をやるだけで船位の確認が瞬時にできたことを考慮すると,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
初めての調査海域であったこと及び浅所が多数散在する海域で単独の操舵操船が長時間に及んだことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,和歌山県湯浅湾において,ESI調査の目的で沿岸部を航行する際,船位の確認が不十分で,左転しながら浅所に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,和歌山県湯浅湾において,ESI調査の目的で沿岸部を航行する場合,浅所等が散在する海域を航行していたのであるから,搭載していた電子海図を活用して,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,右舷前方の千田漁港からの出航船の有無に気をとられ,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,左転しながら浅所に向かっていることに気付かず進行して乗揚を招き,船底中央部に凹損及び推進器翼の曲損などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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