(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月19日10時13分
静岡県石廊埼東方沖合
(北緯34度36.3分 東経138度51.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
遊覧船豆州丸 |
総トン数 |
17トン |
全長 |
16.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
220キロワット |
(2)設備及び性能等
豆州丸は,昭和61年6月に進水したFRP製旅客船で,静岡県下田港と同県石廊崎漁港間を往復運航する遊覧船や石廊崎漁港を発着して伊豆半島最南端の石廊埼の岬めぐりをする遊覧船などの予備船で,乗客が多い時期の増便や石廊崎漁港が干潮の時に喫水が深い遊覧船B丸の代船として運航され,当時は石廊崎漁港入港が大潮の干潮時にあたり,同船の代船として運航されており,マグネットコンパスのみが装備されていた。
3 石廊埼東方沖合の険礁等について
石廊埼東方沖合は,多数の水上岩及び干出岩などが散在する険礁海域で,石廊埼灯台から東方約900メートルのところに,イタヅラと称する水上岩があり,その周辺50メートル以内は,暗岩などの浅所が存在していた。
4 基準航路について
下田港石廊崎漁港航路は,伊豆半島南東岸沖合の景観を楽しみながら航行するもので,石廊崎漁港行き基準航路は,下田港を出て陸岸に沿って南下し,石廊埼東方約1海里沖合の黒根とその西方約600メートルのところにある牛ヶ瀬の間を通り,牛ヶ瀬を右舷正横に航過して同じ針路で航行し,イタヅラの南方約200メートル沖合で石廊埼灯台に向ける針路となっており,基準航路を大きく外れた針路を選定すると,前示浅所に接近するおそれがあった。
5 事実の経過
豆州丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,乗客15人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成17年8月19日09時40分下田港を発し,石廊崎漁港に向かった。
A受審人は,操舵室のいすに腰掛けて操船に当たり,10時10分石廊埼灯台から073度(真方位,以下同じ。)1.0海里の地点において,針路を236度に定め,機関を回転数毎分1,900の全速力前進にかけ,12.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,手動操舵により進行した。
10時11分半A受審人は,牛ヶ瀬南端を右舷正横に航過したのち,南寄りの風浪を左舷船首方から受けるようになり,船体の横揺れが大きくなってきたので,機関を回転数毎分1,700に落として航行するうち,折からの南西風と北東流により16度右舷方に圧流され,252度の実効針路及び10.0ノットの速力となり,基準航路から次第に外れてイタヅラに近づき,その南東方の浅所に向首進行する状況となったが,イタヅラから南方約50メートルのところにある潮目にかからないくらい離せば大丈夫と思い,基準航路に戻すなど,針路の選定を適切に行うことなく続航した。
こうして,A受審人は,前示浅所に向首進行していることに気付かないまま進行中,10時13分石廊埼灯台から083度910メートルの地点において,豆州丸は,原針路,原速力で,同浅所に乗り揚げ,これを乗り切った。
当時,天候は晴で風力4の南西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,付近には約1.5ノットの北東流があった。
乗揚の結果,シューピースに凹損を生じたが,のち修理され,乗客7人及び乗組員1人が打撲などの負傷を負った。
(本件発生に至る事由)
1 南西風と北東流により圧流されたこと
2 イタヅラから南方約50メートルのところにある潮目にかからないくらい離せば大丈夫と思ったこと
3 針路の選定を適切に行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,イタヅラに接近しないよう,針路の選定を適切に行っておれば,イタヅラ南東方の浅所に乗り揚げることはなかったものと認められる。
したがって,A受審人がイタヅラから南方約50メートルのところにある潮目にかからないくらい離せば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
南西風と北東流により圧流されたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗揚は,静岡県石廊埼東方沖合の険礁が散在する海域において,南下する際,針路の選定が不適切で,イタヅラの南東方に存在する浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,静岡県石廊埼東方沖合の険礁が散在する海域において,南下する場合,基準航路を外れるとイタヅラの南東方に存在する浅所に接近するおそれがあったから,基準航路に戻すなど,針路の選定を適切に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,イタヅラに接近しても同岩から南方約50メートルのところにある潮目のあたりまで離せば大丈夫と思い,針路の選定を適切に行わなかった職務上の過失により,イタヅラの南東方に存在する浅所に向首進行して乗揚を招き,シューピースに凹損を生じさせ,乗客7人及び乗組員1人に打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
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