(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月10日01時30分
大畠瀬戸大磯北方沖合
(北緯33度57.3分 東経132度10.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
押船ツーナス3 |
石灰石運搬船ツーナス2 |
総トン数 |
136トン |
942トン |
全長 |
20.49メートル |
64.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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3 事実の経過
ツーナス3は,平成16年5月に進水した,航行区域を限定沿海区域とする鋼製押船で,その船首部をツーナス2の船尾凹部に嵌合して一体型プッシャーバージを形成し,A受審人ほか4人が乗り組み,ライトサンド1,083トンを積載し,船首2.90メートル船尾4.10メートルの喫水をもって,平成17年5月9日18時25分山口県小野田港を発し,大畠瀬戸を経由する進路をとって広島県大竹港に向かった。
ところで,大畠瀬戸の大島大橋西側には,総トン数5トン以上の東行船の指定経路区域の南端を示す大磯灯台があり,その北方から北西方にかけての沖合には離岩が散在して戒善寺礁を形成していることから,戒善寺礁の北方を航行するよう,海上保安庁により告示されており,また,戒善寺礁の北側沖合には,航行の安全を確保するために戒善寺礁灯浮標が設置されていた。
23時ごろA受審人は,ホウジロ灯台から280度(真方位,以下同じ。)6.7海里の地点で,船橋当直を前直者と交替し,甲板員1人を相当直に入れて周囲の見張りに当たらせ,機関を全速力前進にかけ,海図上に記載された推薦航路線に沿う進路として自動操舵により進行した。
翌10日01時13分少し前A受審人は,大磯灯台から256度1.5海里の地点に達したとき,針路を069度に定め,折からの強い下げ潮流の影響を受けて7.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航し,同時16分半同灯台から258.5度1.0海里の地点に至り,ほぼ正船首方3海里ばかりのところに,南下中の第三船(以下「反航船」という。)の緑,白2灯を認め,同船の動向に注意を払いながら進行した。
01時22分半A受審人は,大磯灯台から284度600メートルの地点に達したとき,著しく接近する態勢の反航船と戒善寺礁北側の狭い指定経路区域で行き会う状況となったが,速力を減じれば同船と無難に航過できるものと思い,機関を半速力前進として4.4ノットの速力に減じただけで,速やかに右転するなどして狭い指定経路区域への進入を中止することなく続航した。
01時27分少し前A受審人は,大磯灯台から351度350メートルの地点に至り,依然,緑,白2灯を表示して接近する反航船に不安を覚えるようになり,急遽,右舵をとって回頭を始めたところ,折からの強い下げ潮流により右方に圧流され,01時30分その船首が234度を向いたとき,大磯灯台から321度80メートルの地点で,ほぼ原速力のまま,大磯北方に拡延する戒善寺礁の離岩に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮のほぼ中央期で,付近水域には3.6ノットの西流があった。
乗揚の結果,ツーナス2の船底外板全体に凹損を伴う擦過傷を,及びツーナス3の推進器翼に欠損を伴う曲損をそれぞれ生じた。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,大畠瀬戸西口付近を東行中,戒善寺礁北側の狭い指定経路区域で反航船と行き会う状況となった際,速やかに同区域への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,大畠瀬戸西口付近を東行中,戒善寺礁北側の狭い指定経路区域で著しく接近する態勢の反航船と行き会う状況となった場合,速やかに狭い指定経路区域への進入を中止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,速力を減じれば反航船と無難に航過できるものと思い,狭い指定経路区域への進入を中止しなかった職務上の過失により,速力を減じただけで同区域内に進入し,依然,緑,白2灯を表示して接近する反航船に不安を覚えるようになり,急遽,右舵をとって回頭を始めたものの,折からの強い下げ潮流によって右方に圧流され,大磯北方に拡延する戒善寺礁の離岩への乗揚を招き,ツーナス2の船底外板全体に凹損を伴う擦過傷を,及びツーナス3の推進器翼に欠損を伴う曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
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