(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月29日02時40分
石川県輪島市猿山岬西方沖
(北緯37度19.5分 東経136度43.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船瑞穂丸 |
総トン数 |
6.99トン |
登録長 |
12.06メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
3 事実の経過
瑞穂丸は,昭和55年4月に進水し,船体中央に操縦室を備えたFRP製漁船で,船首部にサイドスラスター,中央船底に魚群探知用スキャニングソナー(以下「ソナー」という。)の送受波機が装備されており,平成14年10月に交付された一級小型船舶操縦士の海技免状を受有するA受審人が1人で乗り組み,まき網漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年8月28日19時00分他の5隻の漁船と船団を組んで石川県富来漁港を発し,同県輪島市猿山岬西方沖合の漁場に向かった。
ところで,同船団のまき網漁業は,毎年8月から11月までの間行われ,決まった休みである第3金曜日と盆休みなどのほか,海上がしけ模様のときは休漁していたが,それら以外の日は,毎日夕刻18時ごろ出港し,翌朝06時ごろ入港していた。
A受審人は,入港後出港するまでの昼間に6時間程度の睡眠をとることができたが,操業中は,魚群の探知や網船の援助作業などで休息が取れなかったので,疲労を感じていた。
発航後,船団各船は,5ノットほどの対地速力(以下「速力」という。)で,船の間隔を1海里ほどとって同じ針路で,羽咋市南西沖まで南下しながら魚群の探索を行ったあと,北上に転じて探索を続けて進行した。
翌29日00時50分A受審人は,猿山岬灯台から215度(真方位,以下同じ。)9.2海里の地点に至ったとき,同灯台に向けて針路を035度に定め,5.0ノットの速力として,自動操舵で,猿山岬灯台付近まで魚群を探索することとし,操縦室の椅子に腰掛けて右舷前方のソナーの画面を見つめているうち,しだいに眠気を催すようになったが,なんとか我慢できるものと思い,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,続航した。
01時55分A受審人は,猿山岬灯台から215度3.7海里の地点に達したとき,椅子に腰掛けてソナーの画面を見つめていたが,いつしか居眠りに陥り,同岬西方の干出浜に向首したまま進行し,02時40分同灯台から270度100メートルの地点において,原針路,原速力のまま,猿山岬西方の干出浜に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力1の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,船首部のサイドスラスター付近外板に亀裂を,中央船底のソナー送受波機に破損をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,石川県猿山岬南西方沖合において,同岬に向かって魚群を探索しながら北上中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同岬西方の干出浜に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,石川県猿山岬南西方沖合において,同岬に向かって魚群を探索しながら北上中,眠気を催すようになった場合,操業中は休息が取れずに疲労を感じていたのだから,居眠り運航とならないよう,立ち上がって外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,なんとか我慢できるものと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,操舵室の椅子に腰掛けたままソナーの画面を見つめているうち,いつしか居眠りに陥って乗揚を招き,瑞穂丸の船首部のサイドスラスター付近外板に亀裂などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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