(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年3月16日21時30分
玄界灘
(北緯33度36.0分 東経129度59.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第七十二源福丸 |
押船第五永光丸 |
総トン数 |
287トン |
19トン |
全長 |
54.25メートル |
14.25メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット |
735キロワット |
船種船名 |
押船ひろ丸 |
はしけ永光 |
総トン数 |
19トン |
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全長 |
13.50メートル |
49.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
529キロワット |
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(2)設備及び性能等
ア 第七十二源福丸
第七十二源福丸(以下「源福丸」という。)は,昭和58年5月に進水した船尾船橋型鋼製の大中型まき網漁業付属船(運搬船)で,船首端より船橋前面までの距離が約39メートルで,船首楼後部から船橋前面にかけての船体には,前方から左右と中央に分かれた冷水槽,漁具庫,氷艙,及び順に1番ないし7番の魚艙を備えていた。
建造時の操縦性能試験によると,初速12.36ノットでの舵角35度による旋回性能は,左転及び右転ともに,最大縦距が170メートル,最大横距が160メートルであり,360度旋回するのに要する時間が,左転で120秒,右転で122秒であった。
イ 第五永光丸
第五永光丸(以下「永光丸」という。)は,昭和58年2月に進水し,専ら永光をひろ丸とともに押航し,有明海及び八代海で採取船から海砂を積み取って港湾建設現場へ運搬する業務に従事していた。
船体は,永光の船首端より船橋前面までの距離が約43メートルで,甲板上の高さ8.1メートルの櫓に船橋が設置され,船橋の屋根にサーチライト1個を備え,両舷側中央部に油圧式嵌合装置を装備していた。
ウ ひろ丸
ひろ丸は,昭和60年5月に進水し,専ら永光丸とともに永光を押航していて,永光丸の船橋に引き込まれた主機及び舵の遠隔操縦装置によって制御されていた。
エ 永光
永光(以下「はしけ」という。)は,平成4年に進水した1,340トン積み非自航式の鋼製はしけで,旋回式ジブクレーン装置を前部上甲板に,発電機室を後部上甲板にそれぞれ設け,灯火設備としてマスト灯2個及び両舷灯を備え付けていた。また,船尾には櫛型の嵌合部が設けられていて,同部の左舷側に専ら永光丸を嵌合させ,同船の油圧式嵌合装置及び同船の船尾両舷から取った直径40ミリメートルのワイヤロープによって,また,同部の右舷側に専らひろ丸を嵌合させ,同船の船尾両舷から取った直径40ミリメートルのワイヤロープによって,はしけと結合して一体となった全長54.25メートルの押船列(以下「永光丸押船列」という。)を構成していた。
3 本件発生海域
当該海域は,唐津湾北方沖合の玄界灘で,関門海峡を経由して長崎県及び熊本県諸港に通う船舶と,九州北方海域で操業して佐賀県唐津港に出入りする漁船が行き交う,最強1.3ノットの東西方向への潮流があるところであった。
4 事実の経過
源福丸は,船長及びA受審人ほか5人が乗り組み,唐津港において,水揚げを終え,氷200トンを積み,船首2.4メートル船尾4.7メートルの喫水をもって,平成16年3月16日20時40分同港を発し,船団が操業する対馬北東沖合の漁場に向かった。
21時10分少し前A受審人は,呼子平瀬灯台から118度(真方位,以下同じ。)5.0海里の地点で,出航操船を終えた船長と交替して単独の船橋当直に就き,針路を348度に定め,機関を全速力前進にかけ,10.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,法定の灯火を点じて進行した。
A受審人は,21時18分以降,折からの微弱な東北東流によって1度ほど右方に圧流されながら続航していたところ,21時21分呼子平瀬灯台から097度4.1海里の地点に達したとき,右舷船首31度2.0海里のところに,永光丸押船列が表示する白,白,白,紅,紅5灯を視認できる状況で,その後,前路を左方に横切る態勢の同押船列と,その方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近したが,そのことに気付かないまま進行した。
21時25分半A受審人は,ほぼ同方位1.0海里のところに永光丸押船列の灯火のうち,白,白,紅3灯をようやく初認したが,一瞥しただけで,前路を左方に横切る態勢であるものの,衝突のおそれのない内航貨物船であるものと臆断し,その後の動静監視を行わず,座っていたいすから降り,左舷後方に置いてあったまき網漁業各船団の漁況が記載されたファックス受信紙を懐中電灯で照らして読み始め,同押船列と互いに方位が変わらず,衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,その後,右転するなどして同押船列の進路を避けることなく続航した。
A受審人は,その後もファックス受信紙の漁況に見入っていて,永光丸押船列が行ったサーチライトの点滅にも気付かないまま進行していたところ,21時30分少し前ようやく右舷前方150メートルに迫った同押船列に気付き,手動操舵に切り替えて左舵一杯としたが及ばず,21時30分呼子平瀬灯台から074度3.9海里の地点において,源福丸は,320度に向首し,原速力のまま,その右舷後部がはしけの左舷船首に後方から40度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,付近海域には,0.3ノットの東北東流があり,視界は良好であった。
また,永光丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,空倉で船首1.0メートル船尾1.3メートルの喫水となったはしけの左舷船尾に嵌合し,また,喫水が船首1.2メートル船尾2.6メートルで1人が乗り組んだひろ丸をはしけの右舷船尾に嵌合し,結合して一体となった永光丸押船列を構成して同月16日12時00分関門港田野浦区を発し,熊本県阿村港に向かった。
21時00分B受審人は,呼子平瀬灯台から072度7.3海里の地点で,永光丸の船橋に昇橋し,同船橋に引き込んだ遠隔操縦装置によってひろ丸の主機及び舵をも制御しながら,単独で永光丸押船列の船橋当直に就き,針路を250度に定め,永光丸及びひろ丸の機関を全速力前進にかけ,折からの微弱な東北東流を受けて6.7ノットの速力とし,永光丸のマスト灯1個,船尾灯及び両舷灯を,はしけのマスト灯2個及び両舷灯をそれぞれ点じ,法定の灯火よりマスト灯1個及び両舷灯1組を余分に表示し,自動操舵により進行した。
21時21分B受審人は,呼子平瀬灯台から073度4.9海里の地点に達したとき,左舷船首50度2.0海里のところに源福丸の白,白,緑3灯を初認し,その後,前路を右方に横切る同船と,互いに方位が変わらず,衝突のおそれのある態勢で接近するも,同船が十分な避航動作をとっていることに疑いがあることを認めたが,警告信号を行うことなく,21時29分わずか前同船が左舷船首46度500メートルに接近してサーチライトを点滅させたので,避航するものと思い,その後,衝突を避けるための協力動作をもとることなく続航した。
B受審人は,21時29分半源福丸が避航しないまま,なおも左舷前方200メートルに接近したので,再度サーチライトを点滅させ,永光丸とひろ丸の機関を微速力前進に減じ,右舵一杯,続いて全速力後進としたが及ばず,船首が280度に向き,約3ノットの速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,源福丸は右舷側後部外板に破口を伴う凹損を生じ,はしけは左舷船首に破口を伴う凹損を生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は,玄界灘において,北上する源福丸と西行する永光丸押船列が衝突したもので,適用すべき航法について検討する。
本件発生海域において,港則法及び海上交通安全法の適用はないので,一般法の海上衝突予防法が適用されることになる。
本件は,源福丸が,348度の一定針路で1度ほど右方に圧流されながら航行していたところ,衝突少し前に左舵一杯として,また,永光丸押船列が,250度の一定針路で航行していたところ,衝突の約30秒前に右舵一杯として衝突したものである。
両船が,衝突の9分前,互いに2.0海里に相手船の航海灯を視認することができる状況になって以降,両船の方位に変化がなかったこと,両船の大きさ,操縦性能から,その後に源福丸が十分に永光丸押船列の進路を避け衝突を回避することが可能であったこと,また,永光丸押船列が源福丸の衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑いがあることを認めて警告信号を行い,更に衝突を避けるための協力動作によって衝突を未然に防止することが可能であったことが,それぞれ認められる。
したがって,本件は,両船間に横切り船の航法を適用する見合い関係があったと認めることができ,海上衝突予防法第15条,第16条及び第17条の規定を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 源福丸
(1)A受審人が,前路を左方に横切る態勢の永光丸押船列の灯火を一瞥しただけで,衝突のおそれがないものと臆断し,その後,漁況の記載されたファックス受信紙を読んでいて動静監視を行わなかったこと
(2)永光丸押船列の進路を避けなかったこと
2 永光丸
(1)結合して一体となった押船列が表示すべき法定の灯火以外に,マスト灯1個及び両舷灯1組を余分に表示していたこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,源福丸が前路を左方に横切る態勢の永光丸押船列を視認したのち,その動静監視を行い,衝突のおそれのある同押船列の進路を避けていたなら,防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が永光丸押船列を視認したのち,その動静監視を行わなかったこと及び同押船列の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
他方,永光丸押船列が,前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する源福丸が衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑いがあることを認めた際,警告信号を行い,さらに接近して衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,本件を防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,前路を右方に横切る態勢の源福丸との方位変化がないことを認めた際,警告信号を行わなかったこと,さらに接近して衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
永光丸押船列が,結合して一体となった押船列が表示すべき法定の灯火のほかにマスト灯1個及び両舷灯1組を余分に表示していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,当時,A受審人がそれらのことに気付いておらず,同押船列が前路を左方に横切る態勢であることを認識しており,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難発生防止の観点から,法定の灯火のみを表示するよう是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,玄界灘において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上中の源福丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切る永光丸押船列の進路を避けなかったことによって発生したが,西行中の永光丸押船列が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,玄界灘において,漁場へ向け北上中,前路を左方に横切る態勢の永光丸押船列を認めた場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥しただけで衝突のおそれがないものと臆断し,その後,漁況の載ったファックス受信紙を読んでいて,同押船列に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,右転するなどして同押船列の進路を避けず,同押船列との衝突を招き,源福丸の右舷側後部外板に破口を伴う凹損を,はしけの左舷船首に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,玄界灘において,西行中,前路を右方に横切る態勢の源福丸と衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,サーチライトを点滅したので避航するものと思い,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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