(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月3日11時48分
長崎県壱岐島海豚鼻南方沖合
(北緯33度41.9分 東経129度43.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第二十一壱岐丸 |
漁船星宝丸 |
総トン数 |
122トン |
3.3トン |
全長 |
45.00メートル |
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登録長 |
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10.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
316キロワット |
66キロワット |
3 事実の経過
第二十一壱岐丸(以下「壱岐丸」という。)は,昭和60年6月に進水した,長崎県郷ノ浦港と博多港間を定期で運航する船尾船橋型鋼製貨物船で,A受審人ほか2人が乗り組み,雑貨約10トンを積載し,船首1.20メートル船尾2.75メートルの喫水をもって,平成17年10月3日11時20分郷ノ浦港を発し,博多港に向かった。
ところで,壱岐丸では,片道約4時間の航海を船長とA受審人の2人が交互に1時間ないし1時間半の船橋当直に就いていた。
船長は,離岸操船ののち防波堤を替わり,細埼と烏帽子埼との中間を南下し,11時34分半海豚埼灯台から272度(真方位,以下同じ。)2.1海里の地点に達したとき,食事交替を告げにきたA受審人に対し,約40分後に戻ることを言い渡して降橋した。
A受審人は,船体中央部に装備された制限加重3トンの電動油圧クレーンにより船首方5度の範囲で見通しに死角を生じていたことから,平素は船橋内を左右に移動して同死角を補う見張りを行っていた。
船長と交替ののちA受審人は,11時35分海豚埼灯台から270度2.0海里の地点で,針路を100度に定め,機関を全速力前進にかけて回転数毎分375とし,折からの潮流に乗じて11.4ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は,正船首方2.1海里に,漂泊中の星宝丸を認めることができたものの,右舷側窓際で前を向いて立ちながら物思いに耽り,左右に移動して双眼鏡を用いるなり,3海里レンジで作動していたレーダーを監視するなりの見張りを行わなかったので,同船に気付かなかった。
A受審人は,11時45分半少し前海豚埼灯台を左舷正横650メートルに航過したとき,星宝丸が,正船首方800メートルとなり,そのまま続航すると,同船と衝突するおそれがあったが,死角を補う見張りを十分に行うことなく,海豚鼻との航過距離を確かめるつもりでレーダー画面を覗き,中心点から0.5海里の範囲が白濁していたことから,輝度,感度,同調,海面反射などのレーダー調整をすることに気を取られていて同船に気付かず,その後一旦同調整を止めて海豚鼻沖航過の記事を航海日誌に記入するなどし、星宝丸を避けないで進行した。
11時47分A受審人は,星宝丸が正船首方320メートルとなったが,依然見張り不十分で,このことに気付かずに続航中,11時48分海豚埼灯台から135度1,150メートルの地点において,壱岐丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が,星宝丸の右舷船首部に前方から30度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の北東風が吹き,視界は良好で,付近には1.5ノットの東流があった。
また,星宝丸は,昭和58年12月に進水し,船体中央やや後方の操舵室にモーターホーンを備えた,一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(平成16年10月一級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士の免許取得)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.45メートル船尾1.55メートルの喫水をもって,同日04時20分佐賀県星賀港を発し,壱岐島南方の漁場に向かった。
B受審人は,海豚鼻東方沖合で操業したものの,釣果が良くないので漁場を変えることとし,10時30分郷ノ瀬と呼ばれる水上岩の南西方600メートルほどに当たる,海豚埼灯台から268度1.4海里の地点に至り,機関を停止し,先端に赤色浮標と10キログラムの錘を取り付けた直径約7メートルのナイロン製シーアンカーを船尾から投入後,曳索を15メートルほど延出して船尾たつに止め,北東風により船首が250度を向いた状態で,折からの東流に圧流されながらたいの一本釣りを始めた。
B受審人は,救命胴衣を着用し,操舵室前方に縦2列,横4列で配置された魚倉中,左前から2番目のふたの上に台を置いて腰を掛け,左舷正横方を向いて右手で手釣りを行い,付近は博多港に向かう船舶の航行する海域であったものの,1隻の瀬渡船が釣り客を運んで郷ノ瀬に立ち寄った以外に見掛ける船がない状況下,250度を向いたまま次第に圧流されて11時45分半少し前,海豚埼灯台から139度1,020メートルの地点に達したとき,右舷船首30度800メートルに,壱岐丸を認めることができる状況で,その後同船が自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが,瀬渡船以外に見掛けなかったことから,接近する他船はいないものと思い,右舷船首方の見張りを十分に行わなかったので,壱岐丸に気付かず,警告信号を行うことも,シーアンカーを解き放って移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもしないで釣りを続けた。
11時47分B受審人は,海豚埼灯台から136度1,100メートルの地点に達したとき,壱岐丸が自船に向首のまま320メートルに接近したが,依然このことに気付かずに釣りを続行中,突然衝撃を受けて右舷側に倒れ,星宝丸は,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,壱岐丸は球状船首部に擦過傷を生じ,星宝丸は右舷船首部を大破して浸水したが,海上保安部の巡視艇によって郷ノ浦港に引きつけられたのち修理され,B受審人が1週間の安静加療を要する腰部打撲を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,長崎県壱岐島海豚鼻南方沖合において,博多港に向け東航中の壱岐丸が,見張り不十分で,漂泊して一本釣りをしている星宝丸を避けなかったことによって発生したが,星宝丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,海豚鼻南方沖合を東航中,船橋当直に就く場合,船首方に死角を生じていたから,前路で漂泊中の星宝丸を見落とすことのないよう,左右に移動するなどの死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船橋窓際に立ちながら物思いに耽り,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,星宝丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,壱岐丸の球状船首部に擦過傷を生じさせ,星宝丸の右舷船首部に破口を生じさせて浸水させ,B受審人に腰部打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,海豚鼻南方沖合において,シーアンカーにより漂泊して一本釣りをする場合,付近は博多港に向かう船舶が往来する海域であったから,接近する壱岐丸を見落とすことのないよう,右舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,瀬渡船以外に見掛けなかったことから,接近する他船はいないものと思い,右舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,壱岐丸に気付かないまま釣りを続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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