(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年11月13日14時30分
大分県佐賀関漁港東方沖合
(北緯33度14.5分 東経131度53.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船隆盛丸 |
モーターボート亮雄丸 |
総トン数 |
2.6トン |
|
登録長 |
8.51メートル |
4.55メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
120キロワット |
36キロワット |
3 事実の経過
隆盛丸は,操舵室を船体中央やや後部に設け,持ち運び式遠隔操舵装置並びに同室内右舷前方及び同室外右舷後方に主機操縦レバーを備えたFRP製漁船で,平成15年7月に一級(5トン限定),特殊及び特定の小型船舶操縦免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,同17年11月13日06時大分県佐賀関漁港を発し,蔦島(つたしま)東方1.5海里の漁場で一本釣り漁を行ったのち,13時30分水揚げのために一旦(いったん)帰港し,漁獲量が少なかったことから,操業の目的で,船首0.43メートル(m)船尾1.15mの喫水をもって,14時20分再び同漁場へ向けて出港した。
ところで,A受審人は,隆盛丸が8.0ノット以上の速力(対地速力,以下同じ。)で航行すると船首が浮上し,操舵室内では前方に死角を生じないものの,同室外右舷後方に立った姿勢で前方を見ると,左舷8度右舷5度の範囲で死角が生じることを知っていた。
14時27分少し前A受審人は,佐賀関漁港幸の浦南防波堤灯台(以下,灯台については「佐賀関漁港幸の浦」の冠称を省略する。)から180度(真方位,以下同じ。)70mの地点に達し,針路を097度に定め,8.0ノットの速力で,自動操舵によって進行し,このとき,ほぼ正船首600mのところに亮雄丸が船首を南南西方に向けて漂泊していたが,当日前回の漁から帰航する際には蔦島北方に他船を認めなかったことから,前方に他船はいないものと思い,操舵室内から前方を一瞥(いちべつ)したのみで亮雄丸を見落とし,その後,同室後方右舷側通路に移動して操舵操船に当たり,同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,船首を左右に振るなど死角を補う見張りを十分に行わず,このことに気付かなかった。
14時29分半A受審人は,南防波堤灯台から103度670mの地点に達したとき,亮雄丸が100mまで接近したが,依然,死角を補う見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けずに続航中,14時30分南防波堤灯台から102度800mの地点において,隆盛丸は,原針路,原速力のまま,その船首が亮雄丸の右舷船首部に後方から67度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力1の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,付近には約1.5ノットの東流があった。
また,亮雄丸は,船外機を備えたFRP製モーターボートで,全長約5mの船体の中央部に座席,同座席の前方に風防ガラス,右舷側座席の前方に操縦ハンドルと船外機遠隔操縦レバーを備え,平成4年12月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.5m船尾0.7mの喫水をもって,同日09時30分佐賀関漁港を発し,蔦島北方沖の釣り場で船外機を停止し,漂泊して釣りを始めた。
14時17分B受審人は,釣果が芳しくないことから,釣り場を南防波堤灯台から143度150mの地点に移動して船外機を停止し,船首中央部でクーラーボックスに腰掛け右手に釣竿を持ち前方を向いた姿勢で,漂泊して釣りを再開した。
14時27分少し前B受審人は,折からの東流によって南防波堤灯台から104度620mの地点に達し,船首が南南東方を向いていたとき,右舷船首6点600mのところに来航する隆盛丸の船首部を視認したが,同船が漂泊している自船を避けるものと思い,動静監視を十分に行わず,その後,隆盛丸が衝突のおそれがある態勢で自船を避けないまま接近したが,釣りに熱中していてこのことに気付かず,呼笛を用いて避航を促す音響信号を行わず,船外機を始動して移動するなど衝突を避けるための措置をとらずに漂泊中,14時29分半右舷方至近に迫った隆盛丸を認めて大声で叫んだが及ばず,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,隆盛丸は船首部に擦過傷を,亮雄丸は右舷前部の舷側を折損,同部ハンドレールに曲損などを生じ,のち修理され,B受審人が溺水と低体温症により2日間の入院加療を受けた。
(海難の原因)
本件衝突は,大分県佐賀関漁港東方沖合において,漁場に向けて航行中の隆盛丸が,見張り不十分で,漂泊中の亮雄丸を避けなかったことによって発生したが,亮雄丸が,動静監視不十分で,避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大分県佐賀関漁港東方沖合を漁場に向けて航行する場合,前方の他船を見落とさないよう,死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,当日前回の漁から帰航する際には蔦島北方に他船を認めなかったことから,前方に他船はいないものと思い,死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,漂泊中の亮雄丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,隆盛丸の船首部に擦過傷を,亮雄丸の右舷前部の舷側に折損,同部ハンドレールに曲損などを生じさせ,B受審人に2日間の入院加療を要する溺水及び低体温症を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,大分県佐賀関漁港東方沖合において,釣りを行いながら漂泊中,来航する隆盛丸を視認した場合,衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船が漂泊している自船を避けるものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で自船を避けないまま接近する隆盛丸に気付かず,漂泊を続けて衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
(拡大画面:15KB) |
|
|