(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月5日03時45分
豊後水道北西部
(北緯33度12.1分 東経132度01.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第七福神丸 |
貨物船オリエンタル フェニックス |
総トン数 |
199トン |
27,658トン |
全長 |
59.20メートル |
158.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
6,619キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 第七福神丸
第七福神丸(以下「福神丸」という。)は,平成8年6月に進水した船尾船橋型鋼製貨物船で,船橋は船尾楼前端付近に配置されて船首端から船橋前面までの距離が46.6メートル(m)で,その間が貨物倉となっていた。
船橋には,前面中央にレピータコンパス,前部中央にジャイロ組込型操舵スタンド,同スタンドの左舷側にGPSプロッター,自動衝突予防援助装置付き1号レーダーと2号レーダー,右舷側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ設けられ,中央部に椅子,後部左舷側に海図台及び後部右舷側にソファーが置かれていた。
イ オリエンタル フェニックス
オリエンタル フェニックス(以下「オ号」という。)は,西暦1985年にC社で進水し,日本と中華人民共和国間の定期航路に就航する船首船橋型鋼製自動車専用船で,固定ピッチプロペラ及びバウスラスターを有し,船首端から船橋前面までの距離が27.524mで,船橋には,自動衝突予防援助装置付きレーダー2台,GPS,音響測深機,ログ,VHF無線電話及びエアーホーンスイッチがそれぞれ設けられ,持ち運び式昼間信号灯が装備されていた。
空倉状態において,港内全速力前進が機関回転数毎分85の1.7ノットで,航海性能表写によれば,同速力前進中における左旋回時の縦距は452m,横距は226m,同右旋回時の縦距は438m,横距は189mで,海上試運転成績書写によれば,最短停止距離は1,058m,所要時間は5分26秒であった。
3 事実の経過
福神丸は,主として瀬戸内海及び九州一円各港と島根県江津港との間の木材チップの輸送に従事しており,A受審人及びB指定海難関係人のほか1人が乗り組み,同チップ500トンを積載し,船首2.8m船尾3.6mの喫水をもって,平成17年6月4日14時35分宮崎県福島港を発し,豊後水道を経由して山口県岩国港に向かった。
出港後,A受審人は,船橋当直を自らと無資格のB指定海難関係人とで単独5時間交替の2直制とし,翌5日01時50分鶴御埼灯台の南東方沖合付近で,B指定海難関係人に船橋当直を行わせることとしたが,同人は海上経験が長いことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,気を付けて航行するよう言ったのみで,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示することなく,船橋当直を交替し,船橋右舷後部のソファーに横になって休息した。
02時03分B指定海難関係人は,鶴御埼灯台から089度(真方位,以下同じ。)2.0海里の地点で,針路を341度に定め,機関を全速力前進にかけ,潮流に乗じて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で自動操舵によって進行した。
02時30分B指定海難関係人は,先ノ瀬灯台から354度2.1海里の地点で,右舷後方2.8海里のところに北上するオ号を初認し,やがて同船が自船を追い越して船尾灯を見せ先航する状況となったことから,そのまま速吸瀬戸方面に向かうものと思い,オ号の動静監視を十分に行うことなく続航し,03時30分同船が右舷船首39度1.9海里のところで針路を左に転じたことに気付かなかった。
03時38分B指定海難関係人は,高甲岩灯台から359度4.2海里の地点に達したとき,オ号が右舷船首27度0.9海里のところで減速し,その後同船の方位がほとんど変わらず,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,船橋左舷後部に立ち,速吸瀬戸及び関埼の方向から南下してきた左舷側の反航船に気を奪われ,オ号の動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,右転するなど同船の進路を避けないまま進行した。
B指定海難関係人は,03時45分わずか前反航船が後方にかわったのを確かめ,船橋中央部に移動して椅子に腰掛け,前方を見たところ,船首方至近にオ号の船影を認め,急いで手動操舵に切り替え,機関を後進にかけたが効なく,03時45分高甲岩灯台から355度5.3海里の地点において,福神丸は,原針路,原速力のまま,その船首が,オ号の左舷船尾に後方から50度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力4の北北西風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の中央期にあたり,付近には弱い北流があった。
また,オ号は,インド人の船長,二等航海士ほか船員5人,フィリピン人船員19人が乗り組み,空倉のまま,船首5.3m船尾7.1mの喫水をもって,同年5月22日20時05分(現地時間)ニュージーランドネルソン港を発し,豊後水道を経由して広島県土生港に向かった。
越えて6月5日00時50分(以下,日本時間)船橋当直中の二等航海士は,土佐沖ノ島灯台から258度10.5海里の地点で,針路を336度に定め,13.3ノットの速力で自動操舵によって進行した。
二等航海士は,02時45分高甲岩灯台から127度6.2海里の地点で,機関室に水先人乗船予定地点着1時間前を知らせ,燃料切替えのため機関を港内全速力前進にかけ,潮流に乗じて12.5ノットの速力で,同じ針路のまま続航中,03時15分高甲岩灯台から050度3.1海里の地点に達したとき,左舷後方1.9海里のところに北上する福神丸の白2灯と緑1灯を初認し,このころ昇橋してきた船長にその旨を報告した。
船長は,03時30分高甲岩灯台から012度4.8海里の地点で,自ら操船の指揮をとり,水先人乗船予定地点に向け針路を291度に転じ,速力を8.0ノットとし,潮流により右方に1度圧流されながら実効針路292度で,手動操舵によって進行した。
船長は,転針したとき,後続する福神丸を左舷正横1.9海里のところに認め,同船の方位が船尾方向に変化したことから,水先人乗船予定地点に向かっていることを同船が理解したものと思い,後進試験を開始することとした。
船長は,03時38分高甲岩灯台から000度5.1海里の地点に達したとき,後進試験を終えて機関を極微速力前進にかけ,速力を5.2ノットに減じたところ,福神丸を左舷船尾77度(左舷正横後13度)0.9海里に見るようになり,その後同船の方位がほとんど変わらず,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,自船が保持船の立場にあったことから,警告信号を行わず,更に接近したとき,右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
オ号は,03時45分わずか前船長が至近に迫った福神丸を認め,急いで左舵一杯を令し,機関を港内全速力前進にかけたが効なく,03時45分原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果,福神丸は,右舷船首部及び船首ブルワークに曲損を,オ号は,左舷船尾部外板に凹損及び擦過傷をそれぞれ生じた。
(航法の適用)
本件は,豊後水道北西部において,北上する福神丸と西行するオ号とが衝突したもので,同海域は港則法及び海上交通安全法の適用外であるから,一般法である海上衝突予防法の航法が適用される。
福神丸及びオ号の両船は,夜間,互いに他の船舶の視野の内にある状況下,互いに進路を横切る態勢で接近して衝突したものであるが,衝突の7分前にあたる03時38分に,両船の距離が0.9海里に接近し,福神丸がオ号を右舷船首27度に,オ号が福神丸を左舷船尾77度(左舷正横後13度)にそれぞれ見る態勢にあり,このときから衝突まで,両船とも一定の針路,速力で,互いに進路を横切り,方位の変化がほとんどないまま接近しており,同時刻に衝突のおそれが発生している。
衝突のおそれが発生してから衝突までの経過時間及び両船の航行距離は,両船が航法を判断して衝突を回避する動作をとるのに十分な時間と距離であったと認められる。
したがって,両船とも行動の自由を制約されず,かつ,避航動作をとる十分な余裕がある衝突の7分前を航法適用の時期としてとらえ,本件は,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法によって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 福神丸
(1)A受審人が,無資格のB指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる際,同人は海上経験が長いことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示しなかったこと
(2)B指定海難関係人が,左舷側の反航船に気を奪われ,オ号の動静監視を十分に行わなかったこと
(3)オ号の進路を避けなかったこと
2 オ号
(1)針路を転じたこと
(2)減速したこと
(3)警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,福神丸が,オ号の動静監視を十分に行っていれば,衝突のおそれがある態勢で接近していることを知り,右転するなどして同船の進路を避けることができたものと認められる。
したがって,A受審人が,B指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる際,同人は海上経験が長いことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示しなかったことと,B指定海難関係人が,左舷側の反航船に気を奪われ,オ号の動静監視を十分に行わず,同船の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,オ号が,福神丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った際,速やかに警告信号を行い,更に接近したとき,右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとっていれば,本件は発生しなかったものと認められる。
したがって,オ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
オ号が,針路を転じたこと,減速したことは本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも本件発生と相当な因果関係があると認められない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,豊後水道北西部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,北上する福神丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るオ号の進路を避けなかったことによって発生したが,西行するオ号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
福神丸の運航が適切でなかったのは,船長が,無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせる際,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示しなかったことと,同甲板員が,オ号の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,夜間,豊後水道北西部において,北上中,無資格のB指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる場合,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示すべき注意義務があった。ところが,同受審人は,同指定海難関係人は海上経験が長いことから,特に指示しなくても大丈夫と思い,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう明確に指示しなかった職務上の過失により,同指定海難関係人がオ号の動静監視を十分に行わず,衝突のおそれがある態勢のまま接近していることに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,自船の船首部及び同部ブルワークに曲損を,オ号の左舷船尾部外板に凹損及び擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,オ号の動静監視を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,他船を認めたときにはその動静監視を十分に行うよう努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
(拡大画面:30KB) |
|
|