(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月17日07時35分
広島県尾道糸崎港
(北緯34度23.87分 東経133度04.87分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船幸運丸 |
総トン数 |
198.11トン |
全長 |
40.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
661キロワット |
3 事実の経過
幸運丸は,広島県尾道糸崎港第6区のフェリー桟橋(以下「三原桟橋」という。)と同県瀬戸田港の佐木島向田地区のフェリー桟橋(以下「向田桟橋」という。)との間で1日に5便定期運航に従事する,船首にランプドアーを備えた旅客船兼自動車渡船で,A及びB両受審人ほか1人が乗り組み,旅客5人及び車両1台を乗せ,船首1.20メートル船尾2.80メートルの喫水をもって,平成17年8月17日07時00分向田桟橋を発し,三原桟橋に向かった。
ところで,三原桟橋は,尾道糸崎港6区の北西奥部の内航船船だまり内に位置し,同桟橋への着桟方法は,可航幅約60メートルの水路に沿って西進し,同船だまりの手前約100メートルの地点に達したときに減速して,三原桟橋南方沖合160メートル付近で同桟橋に向かって右回頭し,船首を桟橋の西端から5メートルばかりのところに向け,機関を中立運転として惰力で進み,桟橋から約30メートルの地点に差し掛かったときに機関を後進にかけ,行きあしを徐々に減じて着桟するものであった。
また,A受審人は,平成10年2月にB受審人を雇用し,雇い入れの手続きを行わないまま甲板員として乗り組ませ,同人が自分より上級の免許を受有して内航貨物船の船長経験があったことから,乗船後1箇月ほどして操船に慣れてきたので任せても大丈夫と思い,同年3月から,B受審人に操船を任せ,自ら操船の指揮をとっていなかった。
B受審人は,向田桟橋発航時から操船に当たって尾道糸崎港に至り,前示水路内を295度(真方位,以下同じ。)の針路及び5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ)で進行し,07時31分三原市城町所在のNTT電波塔(地上高68メートル)(以下「電波塔」という。)から166度320メートルの地点で,速力を3.0ノットに減じ,07時33分少し前電波塔から203度260メートルの地点に達したとき,右舵をとって三原桟橋に向首し,機関を中立運転として続航した。
07時32分ごろA受審人は,録音テープを使用して車両甲板への立入禁止や,着桟が終了するまで席を立たないことなどについての船内放送を行ったものの,着桟が終了するまで旅客が席を立つことのないように周知徹底するなど適切な旅客誘導を行わなかった。
07時34分半B受審人は,三原桟橋まで約30メートルの地点に至ったとき,船首が同桟橋の西端に向首していることを認め,いつもの位置へ着けるために着桟態勢を立て直すこととしたが,桟橋の至近で機関を後進にかければ行きあしを減じることができるものと思い,安全な速力で着桟できるよう,機関を後進にかけて一旦行きあしを止めたのち,着桟態勢を立て直すなどの適切な操船を行うことなく,右舵一杯をとり,機関を微速力前進にかけて2.0ノットの速力で進行した。
07時35分少し前B受審人は,三原桟橋まで20メートルの地点に達し,機関を半速力後進にかけたとき,船首配置のA受審人が手を振って合図をしているのを認めて,行きあしが過大であることに気付き,07時35分わずか前同桟橋から10メートル付近で,機関を全速力後進にかけたが効なく,07時35分電波塔から238度140メートルの地点において,船首が042度を向いたとき,1.5ノットの残存速力で,その左舷船首部が,三原桟橋に衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は上げ潮の末期であった。桟橋衝突の結果,幸運丸は,左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を,桟橋は上端角部に損傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
また,着桟終了前に席を離れて階段に立っていた旅客1人が衝突のショックで転倒し,右鎖骨骨折及び外傷性脳出血を負った。
(海難の原因)
本件桟橋衝突は,広島県尾道糸崎港において,三原桟橋に船首付けで着桟操船中,着桟態勢を立て直す際の操船が不適切で,過大な行きあしで同桟橋に接近したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が自ら操船の指揮をとらなかったことと,甲板員が,着桟態勢を立て直す際の操船が不適切で,過大な行きあしで桟橋に接近したこととによるものである。
なお,旅客が負傷したのは,船長が旅客誘導を適切に行っていなかったことによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島県尾道糸崎港において,三原桟橋に船首付けで着桟する場合,自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,B受審人が自分より上級の免許を所有して内航貨物船の船長経験があったことから操船を任せても大丈夫と思い,自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により,B受審人が,着桟態勢を立て直す際の操船が不適切で,過大な行きあしで同桟橋に接近して衝突を招き,左舷船首部外板に亀裂を伴う凹損を,三原桟橋の上端角部に損傷をそれぞれ生じさせ,階段に立っていた旅客1人が衝突のショックで転倒し,右鎖骨骨折及び外傷性脳出血を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,広島県尾道糸崎港において,三原桟橋に船首付けで着桟操船中,着桟態勢を立て直す場合,安全な速力で着桟できるよう,機関を後進にかけて一旦行きあしを止めたのち,着桟態勢を立て直すなどの適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,桟橋の至近で機関を後進にかければ行きあしを減じることができるものと思い,安全な速力で着桟できるよう,機関を後進にかけて一旦行きあしを止めたのち着桟態勢を立て直すなどの適切な操船を行わなかった職務上の過失により,過大な行きあしで桟橋に接近して衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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