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平成17年広審第142号
件名

遊漁船千弘丸モーターボート昭丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(橋本 學,原 清澄,島 友二郎)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:千弘丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a
受審人
B 職名:昭丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
千弘丸・・・損傷ない
昭丸・・・右舷船尾部に破口を生じて沈没,船長が腰部を挫傷

原因
千弘丸・・・視界制限状態時の航法(信号・レーダー・速力)不遵守
昭丸・・・視界制限状態時の航法(信号・速力)不遵守

主文

 本件衝突は,千弘丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったことと,昭丸が,視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月8日07時05分
 島根県浜田港沖合
 (北緯34度53.0分 東経132度00.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船千弘丸 モーターボート昭丸
総トン数 8.29トン 2.2トン
全長   10.10メートル
登録長 13.45メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 334キロワット 86キロワット
(2)設備及び性能等
ア 千弘丸
 千弘丸は,昭和56年7月に進水した,レーダー1台,GPS及び音響信号装置を有する,航海速力15.5ノットのFRP製遊漁船で,主として浜田港沖合において,月に2週間程度の割合で釣り客を乗せて営業していた。
イ 昭丸
 昭丸は,平成14年11月に新規登録された,レーダー及び音響信号装置を装備していない,航海速力18.0ノットのFRP製モーターボートで,主として浜田港沖合において,魚釣りに使用されていた。

3 事実の経過
 千弘丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年4月8日06時45分島根県浜田港長浜桟橋奥の係留地を発し,同港西方沖合10海里付近にある高島周辺の釣り場へ向かった。
 発航後,A受審人は,微速力前進で同港新西防波堤の南端と桶島の間を通過して防波堤の外へ出たのち,06時55分浜田港シャックリ灯標から198度(真方位,以下同じ。)0.4海里の地点に達したとき,針路を270度に定め,機関を半速力前進の回転数毎分1,500にかけ,9.5ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,遠隔操縦装置を使用して,手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,A受審人は,視程が約100メートルとなり,視界が制限された状態であったことから,航海灯及び黄色回転灯を点灯したうえ,レーダーを作動させたものの,霧中信号を行うことも,安全な速力に減ずることもなく続航した。
 そして,07時02分A受審人は,浜田港シャックリ灯標から252度1.2海里の地点に至ったとき,昭丸が左舷船首18度930メートルのところに存在し,やがて,同船と著しく接近することが避けられない状況となったが,当該海域に濃霧注意報が発表されていたことから,他の遊漁船やモーターボートなどは魚釣りに出ていないものと思い,レーダーの監視を疎かにしたまま,見張りを十分に行わなかったので,そのような状況となったことに気付かず,針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも,また,必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 こうして,A受審人は,その後も,見張りを十分に行うことなく続航中,07時05分浜田港シャックリ灯標から257度1.7海里の地点において,千弘丸は,原針路,原速力で,その船首が昭丸の右舷船尾部に直角に衝突した。
 当時,天候は霧で風力2の西南西風が吹き,衝突地点付近海域の視程は約50メートルであった。
 また,昭丸は,B受審人が1人で乗り組み,魚釣りの目的で,船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって,同日06時50分浜田港内周布川の係留地を発し,前示衝突地点付近の釣り場へ向かった。
 07時00分B受審人は,釣り場に到着したところ,視程が50ないし100メートルとなり,視界が制限された状態であったものの,魚群探知機を作動させ,07時01分浜田港シャックリ灯標から251度1.8海里の地点で,針路を000度に定め,機関を極微速力前進にかけ,3.0ノットの速力で,手動操舵によって進行した。
 針路を定めたとき,B受審人は,自船にはレーダー設備がなく,濃霧の中で他船を認知する手段を有していなかったのであるから,視程が回復するまで,打音が良く響く船体部分を叩くなりして,自船の存在を知らせるための有効な音響信号を行い,その場に留まることが求められる状況であったが,同信号を行うことも,その場に留まることもなく,視程が急激に逓減しつつある状況の下,魚群探索を行いながら続航した。
 そして,07時02分B受審人は,浜田港シャックリ灯標から252.5度1.7海里の地点に至ったとき,千弘丸が,右舷船首72度930メートルのところに存在し,やがて,同船と著しく接近することが避けられない状況となったが,魚群を探すことに気を取られ,依然として,その場に留まることなく進行した。
 こうして,B受審人は,その後も,同じ針路及び速力のまま続航中,07時05分わずか前至近に迫った同船の船首を認めたものの,どうすることもできず,昭丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,千弘丸は損傷を受けなかったものの,昭丸は右舷船尾外板に破口を生じて沈没するとともに,B受審人が腰部挫傷などの傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,島根県浜田港沖合において,霧のため視程が約50メートルとなった状況の下,西行中の千弘丸と北上中の昭丸が衝突したものである。
 よって,海上衝突予防法第19条に規定された「視界制限状態における船舶の航法」を適用して律することとする。

(本件発生に至る事由)
1 千弘丸
(1)霧中信号を行わなかったこと
(2)安全な速力に減じなかったこと
(3)A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと
(4)A受審人が,昭丸の存在に気付かなかったこと
(5)針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったこと

2 昭丸
(1)B受審人が,魚群を探すことに気を取られていたこと
(2)有効な音響信号を行わなかったこと
(3)視程が回復するまでその場に留まらなかったこと

(原因の考察)
 千弘丸は,島根県浜田港沖合において,釣り場へ向けて航行中,付近海域は霧のために視界が制限された状態であったから,霧中信号を行うことが求められる状況であり,さらに,安全な速力としたうえ,レーダーによる見張りを十分に行っていたならば,昭丸の存在に容易に気付き,同船を認知した際,直ちに,針路を保つことができる最小限度の速力に減じ,また,必要に応じて行きあしを止めて,衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,霧中信号を行わなかったこと,安全な速力としなかったこと,レーダーによる見張りを十分に行わなかったこと,及び針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,昭丸は,島根県浜田港沖合において,釣り場に到着後,魚群探索を行う場合,付近海域は霧のために視界が制限された状態であったうえ,レーダー設備を有していなかったのであるから,打音が良く響く船体部分を叩くなりして有効な音響信号を行い,視程が回復するまでその場に留まっていたならば,千弘丸と著しく接近することはなく,衝突を避けることは可能であったものと認められる。
 したがって,B受審人が,有効な音響信号を行わなかったこと,視程が回復するまで,その場に留まらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,島根県浜田港沖合において,霧のため視程が約50メートルとなり,視界が制限された状態の下,西行する千弘丸が,霧中信号を行わず,安全な速力としなかったばかりか,レーダーによる見張りが不十分で,昭丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減じず,また,必要に応じて行きあしを止めなかったことと,北上する昭丸が,有効な音響信号を行わず,視程が回復するまで,その場に留まらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,島根県浜田港沖合において,霧のため視程が約50メートルとなり,視界が制限された状態の下,釣り場へ向けて航行する場合,他船と著しく接近することがないよう,霧中信号を行い,安全な速力としたうえ,レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,当該海域に濃霧注意報が発表されていたことから,遊漁船やモーターボートなどは魚釣りに出ていないものと思い,霧中信号を行わず,安全な速力としなかったばかりか,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,昭丸の存在に気付かず,同船と著しく接近することが避けられない状況となった際,針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも,また,必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して衝突を招き,自船は損傷を受けなかったものの,昭丸の右舷船尾部外板に破口を生じさせて沈没させるとともに,B受審人に腰部挫傷などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,島根県浜田港沖合において,霧のため視程が約50メートルとなり,視界が制限された状態の下,魚群探索を行う場合,自船にはレーダー設備がなく,他船の存在を認知する手段がなかったのであるから,他船と著しく接近することがないよう,打音が良く響く船体部分を叩くなりして有効な音響信号を行い,視程が回復するまで,その場に留まるべき注意義務があった。ところが,同人は,魚群を探すことに気を取られ,有効な音響信号を行わなかったばかりか,視程が回復するまで,その場に留まらなかった職務上の過失により,魚群探索を続けながら北上して衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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