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平成18年神審第11号
件名

遊漁船白富士丸遊漁船さゞなみ丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,清重隆彦,甲斐賢一郎)

理事官
稲木秀邦

受審人
A 職名:白富士丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
白富士丸・・・左舷船首ローラー台及び船首両舷縁材に折損等
さゞなみ丸・・・左舷ブルワークに亀裂

原因
白富士丸・・・動静監視不十分,船員の常務(至近で転針して向首したこと)不遵守

主文

 本件衝突は,白富士丸が,動静監視不十分で,錨泊中のさゞなみ丸の至近で転針したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月29日07時49分
 京都府久美浜港北東方沖合
 (北緯35度42.1分 東経134度57.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船白富士丸 遊漁船さゞなみ丸
総トン数 6.73トン 4.6トン
全長 14.20メートル 14.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 308キロワット 264キロワット
(2)設備及び性能等
ア 白富士丸
 白富士丸は,昭和56年4月に第1回の定期検査を受けた最大とう載人員13人のFRP製遊漁船で,船体中央部やや後方に操舵室を有し,操舵室後方外壁に手動用の舵輪が装備されていた。操舵室には,中央から右舷側にかけて一段高くなった台の上に操縦席があり,前面に操舵装置,磁気コンパス,GPSプロッタ,魚群探知機が装備されていた。
 航海速力は,機関回転数毎分2,000で前進速力20.0ノット,同1,700で17.0ノット,同1,200で6.5ノット,アイドリング回転数が毎分1,000であった。
 操舵装置は,自動・手動・遠隔操縦の切替えが可能で,自動に切り替えると操舵装置盤上のダイヤル式つまみにより,目的の針路に設定するとその針路に向かうもので,大きな針路変更をする場合には,数回に分けて針路変更を繰り返さなければならなかった。また,手動操舵で操縦するには,手動に切り替えて操舵室外の舵輪を使用するか,遠隔操縦に切り替えて遠隔操縦装置の舵角つまみを使用することができた。
 また,白富士丸の旋回径は,最大舵角約30度において30ないし40メートルであった。
イ さゞなみ丸
 さゞなみ丸は,平成4年5月に第1回定期検査を受けた,最大とう載人員13人のFRP製遊漁船で,船体中央部に操舵室を有し,その後方に客室を配置していた。操舵室内には,舵輪,磁気コンパス,GPSプロッタ及び主機遠隔操縦装置が装備されていた。

3 事実の経過
 白富士丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客3人を乗せ,たい釣りの目的で,船首0.35メートル船尾1.00メートルの喫水をもって,平成17年4月29日07時25分京都府久美浜港を発し,同港北東方沖合5.5海里の釣り場に向かった。
 A受審人は,操縦席に座って前方の見張りに当たり,07時33分少し過ぎ久美浜港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から035度(真方位,以下同じ。)1,000メートルの地点において,針路をGPSプロッタに記録してある釣り場に向けて041度に定め,機関を回転数毎分1,700にかけて17.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,自動操舵によって進行した。
 07時41分少し前A受審人は,南防波堤灯台から040度2.7海里の地点に達したとき,船首方1.5海里付近のところに船首を北西方に向けた遊漁船を,左舷方に2隻,右舷方に4隻認め,釣りの様子を見るため同遊漁船群に約50メートルまで接近したところで左転するつもりで,自動操舵のまま,速力を13.0ノットに減じて続航した。
 07時46分半A受審人は,南防波堤灯台から040度3.9海里の地点に達したとき,左舷船首4度500メートルのところに錨泊するさゞなみ丸及び右舷船首2度同距離に錨泊する第三船を確認したので,速力を6.5ノットに減じ,さゞなみ丸の船尾を40メートル離して航過する態勢となったが,第三船に接近することに気をとられ,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行うことなく,同速力で進行した。
 07時48分半少し過ぎA受審人は,南防波堤灯台から040度4.1海里の地点に達したとき,さゞなみ丸を左舷船首25度50メートルに認め得る状況であったが,依然,第三船に気をとられ,さゞなみ丸の存在を失念したまま,第三船に50メートルに接近したので,自動操舵のつまみを左に約20度回して転針したところ,回頭しながらさゞなみ丸の船尾至近に向かっていることに気付かず続航した。
 07時49分わずか前A受審人は,ふと左舷前方を見たとき間近に迫ったさゞなみ丸を認め,あわてて,前示つまみを左に1回転させたが,及ばず,自動操舵装置が大角度変針に追従できないまま,同船に向首進行し,07時49分白富士丸は南防波堤灯台から040度4.2海里の地点において,船首が349度を向いたとき,同速力で,さゞなみ丸の左舷後部に白富士丸の船首が後方から45度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力2の東北東風が吹き,付近には南東に流れる弱い潮流があり,潮候は上げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
 また,さゞなみ丸は,B船長が1人で乗り組み,釣り客4人を乗せ,遊漁の目的で,船首尾ともに0.6メートルの喫水をもって,同日05時00分久美浜港を発し,同港北東方沖合4.0海里付近に至り,しばらく釣りを行ったのち,釣り場を移動した。
 07時10分B船長は,水深51メートルの前示衝突地点付近において,錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げ,左舷船首ローラー台から重さ38キログラムの錨に直径7ミリメートルの錨鎖10メートル,さらに,直径17ミリメートルの合成繊維製の錨索70メートルをつないで延出し,船首を北西に向けて錨泊した。
 B船長は,船首甲板及び船尾甲板の各舷に1人ずつ釣り客を配置し,船尾甲板で釣り客と雑談中,07時41分左舷正横少し前方1.5海里付近に北東進中の白富士丸を初めて認め,その後,自船の船尾方至近40メートルを航過する態勢で進行する同船の動静監視を続けた。
 07時48分半少し過ぎ,B船長は間近に迫った白富士丸が,突然,左転し始めたのを認め,この海域では仲間同士船を寄せて潮の様子などを聞く習慣があったので,自船に潮でも聞きに来るのかと一瞬思ったものの,減速する様子もなく回頭しながら接近する白富士丸に対し,危険を感じたので,急いで操舵室に入り,機関を前進にかけたが,及ばず,さゞなみ丸は,船首が304度のとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,白富士丸は左舷船首ローラー台及びかんぬき取付部付近の両舷の舷縁材に折損を,さゞなみ丸はキャビン後方付近の左舷ブルワークに亀裂をそれぞれ生じ,のち,いずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,京都府久美浜港の北東方沖合において,釣り場に向けて航行中の白富士丸と錨泊して遊漁中のさゞなみ丸とが衝突したもので,航行中の動力船と錨泊船との衝突であり,海上衝突予防法にはこれら両船に適用する個別の航法規定が存在しないことから,船員の常務によるのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 遊漁船群に接近したこと
2 遊漁船群に接近する際,自動操舵のまま進行したこと
3 遊漁船群に接近する際,6.5ノットの速力のまま進行したこと
4 釣りの様子を見るため船首方の第三船に接近することに気をとられ,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行っていなかったこと
5 錨泊中のさゞなみ丸の至近で転針して同船に向首進行したこと

(原因の考察)
 白富士丸が,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行っていれば,錨泊中の同船に向けて転針することはなく,同船と衝突することはなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,釣りの様子を見るため船首方の第三船に接近することに気をとられ,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行うことなく,錨泊中のさゞなみ丸の至近で転針して同船に向首進行したことは,本件発生の原因となる。
 白富士丸が,遊漁船群に接近する際,自動操舵のまま進行したことについては,自動操舵では迅速な転針が困難であったから,速やかに船体の制御ができるよう手動操舵として操縦すべきであり,また,6.5ノットの速力のまま進行したことについては,接近する遊漁船に不安を抱かせないよう,手前でいったん行きあしを止めるなどしてから接近すべきであるが,いずれも,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行っていれば,錨泊船を50メートル離して適切に転針することができ,同船に向けて転針することはなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,遊漁する船に接近する際,自動操舵のまま接近したこと及び6.5ノットの速力のまま進行したことは,いずれも,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 白富士丸が,遊漁船群に接近したことについては,この海域では遊漁船同士,船を寄せて潮の様子などを聞く習慣があり,遊漁船同士そのことを認識していたのであり,互いに接近することは問題とならない。
 したがって,A受審人が,遊漁船群に接近したことは,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,京都府久美浜港北東沖合において,白富士丸が,動静監視不十分で,錨泊中のさゞなみ丸の至近で転針して同船に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,京都府久美浜港北東沖合において,遊漁船群に接近中,錨泊しているさゞなみ丸を認めた場合,同船に向けて至近で転針しないよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣りの様子を見るため船首方の第三船に接近することに気をとられて,さゞなみ丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船の至近で転針して同船に向首進行して衝突を招き,白富士丸の左舷ローラー台及び船首かんぬき取付部付近の両舷の舷縁材に折損,さゞなみ丸のキャビン後方付近の左舷ブルワークに亀裂をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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