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平成18年神審第6号
件名

漁船第二大西丸漁船浜石丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年6月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(加藤昌平,雲林院信行,横須賀勇一)

理事官
稲木秀邦

受審人
A 職名:第二大西丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:浜石丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二大西丸・・・左舷後部外板及びブルワーク凹損
浜石丸・・・船首部に亀裂を伴う凹損

原因
浜石丸・・・見張り不十分,船員の常務(新たな衝突のおそれ)不遵守(主因)
第二大西丸・・・動静監視不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,浜石丸が,見張り不十分で,無難に航過する態勢の第二大西丸に対し,新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが,第二大西丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月12日23時30分
 兵庫県浜坂漁港北方沖合
 (北緯35度41.1分 東経134度27.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二大西丸 漁船浜石丸
総トン数 90トン 9.32トン
登録長 27.69メートル 14.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 507キロワット  
漁船法馬力数   110
(2)設備及び性能等
ア 第二大西丸
 第二大西丸(以下「大西丸」という。)は,昭和58年7月に進水した船尾トロール型の鋼製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室を配し,同室前面に接して棚を設け,同棚中央部に磁気コンパスを,左舷側にレーダー及びGPSプロッターを,右舷側にレーダー及び主機遠隔操縦装置を,同棚中央部に接してジャイロコンパスを備えた操舵スタンドを備え,操舵方法として,操舵スタンドでの切替えにより自動,手動及び遠隔操舵を行うことのできるものであった。
 海上公試並び復原性試験成績表写によると,旋回径は,左右いずれも船丈の2倍で,360度旋回に要する時間は,1分1秒であり,全速力前進中に後進を発令してから船体停止までに要する時間は,0分35秒であった。
イ 浜石丸
 浜石丸は,昭和50年11月に進水したいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,船体ほぼ中央部に操舵室を配し,甲板上の左右各舷には,船首から船尾にかけてそれぞれ4機のいか釣り機を備え,船首マストから船尾マストに渡したロープに,3キロワットの集魚灯18個を取り付けていた。
 操舵室内には,手動油圧式の舵輪,自動操舵装置,レーダー,GPSプロッター,磁気コンパス及び主機遠隔操縦装置を備え,集魚灯を点灯する際には,主機を停止回転としたのちクラッチを推進器側から発電機側に切り替えて発電機を運転して行うもので,同灯消灯にあたっては,主機回転数を低下させて集魚灯のスイッチを切ったのち,クラッチを発電機側から推進器側に切り替えて推進力を得るものであった。

3 事実の経過
 大西丸は,A受審人ほか7人が乗り組み,底引き網漁を行う目的で,船首1.3メートル船尾3.5メートルの喫水をもって平成16年12月7日10時00分兵庫県香住漁港を発し,同日17時ごろ島根県日御碕北方30海里ばかりの漁場に至って操業を行い,その後,山口県見島北方50海里ばかり沖合に移動して操業を繰り返し,越えて12日09時30分かれい300キログラムを獲たところで同漁場を発進し,帰航の途についた。
 同12日22時00分A受審人は,浜坂港矢城ケ鼻灯台(以下「矢城ケ鼻灯台」という。)から281度(真方位,以下同じ。)14.6海里の地点で昇橋し,甲板長を見張りに就けて船橋当直にあたり,針路を089度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)とし,法定の灯火を掲げ自動操舵により進行した。
 23時25分A受審人は,矢城ケ鼻灯台から355度2.95海里の地点に達したとき,左舷船首8度1,600メートルのところに,明るい集魚灯を点灯した浜石丸とその北方に数隻の漁船の灯火を視認し,そのままの針路で進行すると近距離で浜石丸を航過することとなるものの,集魚灯を点灯して操業中ですぐに動き出すことはないものと思い,その後,同船の動静監視を行うことなく続航した。
 23時28分少し過ぎA受審人は,矢城ケ鼻灯台から005.5度2.95海里の地点に至ったとき,左舷船首20度670メートルとなった浜石丸が集魚灯を消灯し,その後移動を開始するのを認めることのできる状況であったが,動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず,同一針路,速力で進行した。
 23時29分少し過ぎA受審人は,矢城ケ鼻灯台から008.5度3.0海里の地点に達したとき,左舷船首40度350メートルのところで,反転を終えた浜石丸が自船の前路に向首して進行を開始し,衝突のおそれがある態勢となって接近したが,依然,動静監視を十分に行っていなかったので,このことに気付かず,警告信号を行うことも,右転するなどして衝突を避けるための措置をとることもなく続航し,23時30分わずか前,左舷船首間近に浜石丸の白灯及び緑灯を視認して右舵一杯としたが及ばず,23時30分矢城ケ鼻灯台から011度3.0海里の地点において,099度に向首したとき,大西丸の左舷後部に浜石丸の船首が直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風力4の北風が吹き,潮候は上げ潮の中央期で,視界は良好であった。
 また,浜石丸は,B受審人が単独で乗り組み,いか一本釣り漁を行う目的で,船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,12日16時30分兵庫県浜坂漁港を発し,17時00分同漁港北方沖合3海里ばかりの漁場に至り,3キロワットの集魚灯18個を点灯し,船首からシーアンカーを投入して漂泊しながら操業を開始した。
 23時10分B受審人は,矢城ケ鼻灯台から011.5度3.1海里の地点で000度に向首していたとき,北風が強まったので操業を終えて帰航することとして漁具及びシーアンカーの片付けを開始した。
 23時28分B受審人は,前示地点を発進するために操舵室に入ったとき,左舷船尾71度690メートルのところで,大西丸が自船の船尾方を無難に航過する態勢で接近しており,そのまま反転して浜坂漁港に向け進行すると,同船と衝突のおそれを生じさせることとなる状況であったが,22時ごろ浜坂漁港から沖合に向けて出港した漁船以外に船を見かけなかったので,付近に支障となる他船はいないものと思い,23時28分少し過ぎ集魚灯を消灯したのち,暗さに目を慣らしてから周囲を確認するなどして見張りを十分に行わず,感度調整を行っていなかったレーダー画面の中心付近は海面反射で白くなっていたので,このことに気付かなかった。
 23時29分少し前B受審人は,法定の灯火を掲げ,左舵をとって増速しながら反転を開始し,23時29分少し過ぎ矢城ケ鼻灯台から011度3.1海里の地点で,回頭を終えて針路を189度に定め,全速力前進の10.0ノットの速力として自動操舵により進行を開始したとき,右舷船首40度350メートルのところに大西丸のマスト灯と左舷灯を視認でき,同船と新たな衝突のおそれを生じさせる状況となったが,依然として見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず続航し,23時30分原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大西丸は左舷後部外板及びブルワークを凹損し,浜石丸は船首部に亀裂を伴う凹損を生じたが,のち,いずれも修理された。

(航法の適用)
 適用される航法を考える場合,衝突のおそれのある見合関係が生じてから,通常の運航方法をもって避航動作をとる十分な距離的,時間的余裕が必要であり,両船の針路からすると横切りの態勢となるが,本件は,発生の1分足らず前,反転した浜石丸が大西丸の前路に向け進行を始めるまでは,無難に航過する態勢であったもので,その後,避航動作をとる十分な距離的,時間的余裕があるとは認められず,海上衝突予防法第38条及び39条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 大西丸
(1)浜石丸と近距離で航過する針路で進行したこと
(2)浜石丸を認めたのち,動静監視を十分に行わなかったこと
(3)警告信号を行わなかったこと
(4)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 浜石丸
(1)集魚灯を消灯したのち,暗さに目を慣らすなどして周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)レーダーの感度調整を行っておらずレーダー画面の中心付近が海面反射で白くなっていたこと
(3)大西丸の前路に向けて進行したこと

(原因の考察)
 本件は,浜石丸が,発進前に十分な見張りを行っていたなら,接近する大西丸を発見することができ,同船の前路に向け進行して新たな衝突のおそれを生じさせることはなかったものと認められる。
 したがって,B受審人が,夜間,漁場を発進する際,集魚灯を消灯したのち,暗さに目を慣らすなどして周囲の見張りを十分に行わず,大西丸の前路に向けて進行したことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,レーダーの感度調整を行っておらずレーダー画面中心付近に海面反射を生じていたことは,暗さに目を慣らすなどして目視による周囲の見張りを十分に行っていれば,接近する大西丸の灯火を視認することができたと認められるから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 大西丸が,前路で集魚灯を点灯した浜石丸を初認したのち,動静監視を行っていたなら,その後,同船が集魚灯を消灯して反転し,本件発生の1分足らず前自船の前路に向けて進行し,衝突のおそれがある態勢となって接近するのを認めることができ,警告信号を行い,衝突を避けるための措置をとって本件の発生はなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,浜石丸がすぐに移動することはないものと思って動静監視を十分に行わず,警告信号を行うことなく,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 大西丸が,浜石丸と近距離で航過する針路で進行したことは,先に認定したとおり,浜石丸の長さの10倍以上となる230メートルの距離を隔てており,両船の大きさから考えると,無難に航過できる態勢であったものと認められ,浜石丸が漁場を発進して反転したのち,新たな衝突のおそれを生じさせたものであることから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,兵庫県浜坂漁港北方沖合において,浜石丸が,操業を終えて漁場を発進する際,周囲の見張りが不十分で,無難に航過する態勢の大西丸の前路に向け進行して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが,大西丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,夜間,兵庫県浜坂漁港北方沖合において,操業を終えて漁場を発進する場合,接近する大西丸を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,接近する他船はないものと思い,集魚灯を消灯したのち,暗さに目を慣らすなどして周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,無難に航過する態勢の大西丸と新たな衝突のおそれを生じさせて同船との衝突を招き,大西丸の左舷後部外板及びブルワークに凹損を生じさせ,浜石丸の船首部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は,夜間,前路で集魚灯を点灯して操業中の浜石丸を認めた場合,同船が移動して衝突のおそれが生じたことを見落とさないよう,動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
 しかしながら,同人は,操業中ですぐに移動することはないものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,浜石丸が集魚灯を消灯して移動を開始し,同船と衝突のおそれが生じたことに気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,懲戒を免除する。これは,同人が国土交通大臣から表彰された閲歴を酌量したものである。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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