(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月24日19時05分
三重県四日市港
(北緯34度58.6分 東経136度39.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
油送船宝栄丸 |
モーターボート カイト |
総トン数 |
99トン |
1.3トン |
全長 |
33.20メートル |
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登録長 |
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6.39メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
588キロワット |
29キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 宝栄丸
宝栄丸は,平成10年11月に進水し,航行区域を沿海区域とする船首楼付き一層甲板の船尾船橋型油送船で,専ら三重県四日市港から伊勢湾,三河湾及び熊野灘付近の諸港への軽油やA重油の輸送に従事していた。
操舵室は,その前方に見張りの妨げとなる構造物がなく,航海計器としてレーダー1台,磁気コンパス及びGPSプロッターを備えていた。
灯火は,操舵室上部甲板の後部左右両舷端に各舷灯が,同室後方のマストに船尾灯が設置され,宝栄丸の全長が50メートル未満であったものの,船首楼後部及び操舵室上部甲板の各マストにそれぞれマスト灯1個が設置されていた。
操縦性能は,航海速力が機関を回転数毎分370として約10ノット,半速力前進が約9ノット,微速力前進が約5ノット,極微速力前進が約4ノットで,船舶件名表抜粋写中の海上試運転成績によると,機関を全速力前進にかけて速力が9.6ノットのとき,全速力後進をかけて船体が停止するまでに35秒を要し,360度回頭するのに右旋回及び左旋回ともに約70秒を要した。
イ カイト
カイトは,平成14年10月に第1回定期検査を受けた最大とう載人員7人の無蓋のFRP製モーターボートで,船体中央から少し後方に舵輪や機関操縦装置を備えた操舵スタンドを有し,同スタンドで船尾に取り付けた船外機を操作するようになっており,航海計器としてGPSプロッター及び魚群探知機を備えていた。
速力は,機関を回転数毎分5,000にかけると毎時35キロメートルで,同毎分2,500ないし2,600では毎時10キロメートルであった。
灯火は,操舵スタンド前部に設置したマストの,水面上高さ1.8メートルの頂部に白色全周灯が,舵輪前方にあたる同高さ0.8メートルのところに両色灯がそれぞれ設置され,夜間点灯しても取り付けられた遮蔽物(しゃへいぶつ)によりいずれも見張りの妨げになることはなかった。
3 霞西1号桟橋付近の海域の状況について
霞西1号桟橋は,四日市市の霞一丁目地区とその西岸の霞ケ浦町及び南岸の三郎町などの地区に挟まれて霞一丁目地区の南西端(以下「霞南西端」という。)沖で屈曲した南北方向の長さ1,700メートル,東西方向の長さ200メートルのL字形の水路(以下「霞ケ浦水路」という。)の北部に位置し,油送船などの係留地として使用されていた。
霞ケ浦水路は,北口には霞大橋が架けられ東西両岸の距離が約50メートルで,水深も十分でなかったので,南口が油送船などの通航路となっており,東岸の霞一丁目地区には霞西1号桟橋のほか南部に霞桟橋K1及びK3が設けられ,西岸の霞ケ浦町地区には小型船舶用の桟橋しかなく,霞大橋南側から霞桟橋K1に至る海域に水深4メートルの掘下げ済区域が存在し,同区域が少し東岸に偏していたことから,船舶は,桟橋や護岸との距離や水深などを考慮し,可航域の中央部にあたる水路の少し東岸寄りを航行していた。
霞ケ浦水路南口は,東方の四日市港第3区に開き,南北両岸間にはC社午起霞連絡配管橋及び霞共同午起霞連絡配管橋が架けられ,両配管橋の橋脚が北岸から100メートル,南岸から50メートルのところにそれぞれ設けられて可航幅が120メートルで,両連絡配管橋下の通航路(以下「配管橋下通航路」という。)の中央,右側端及び左側端並びに橋脚の位置を示す各橋梁灯が両配管橋にそれぞれ設置され,船舶は,反航船などを認めないときには配管橋下通航路の中央部付近を航行していた。
また,霞ケ浦水路南口に近い霞南西端沖は,四日市市内を南東方に流れる海蔵川の河口にあたっていて水深が4メートルに掘り下げられておらず,河口に近い同水路の西岸及び南岸寄りの水深が同川によって運ばれた堆積物などで変化することから,船舶は,可航域の中央部にあたる水路の東岸寄りあるいは北岸寄りを航行して配管橋下通航路との間を行き来していた。
4 事実の経過
宝栄丸は,A受審人ほか1人が乗り組み,A重油100キロリットルを積み,平成16年12月24日09時30分四日市港を発し,愛知県三河港に向かい,同港で揚荷役を行ったのち,空倉のまま,船首0.6メートル船尾2.2メートルの喫水をもって,14時25分同港を発進して四日市港の霞西1号桟橋に向け帰途についた。
A受審人は,出航操船に続いて船橋当直にあたり,三河湾及び伊勢湾を西行したのち,18時45分機関を全速力前進にかけ,左右両舷灯,船尾灯及びマスト灯2個を表示して四日市港の第1航路に入り,その後同航路に続き午起航路を経て同港第3区を北上した。
18時59分A受審人は,霞一丁目地区の南東端にある第二航路私設信号塔(以下「私設信号塔」という。)から248度(真方位,以下同じ。)1,280メートルの地点で,針路を353度に定め,機関を回転数毎分250にかけて6.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
19時03分少し前A受審人は,霞ケ浦水路南口に接近し,私設信号塔から279度1,290メートルの地点に達したとき,針路を配管橋下通航路のほぼ中央部付近を斜航して霞南西端沖の可航域中央部付近に向く312度に転じるとともに,機関を回転数毎分200とし,速力を4.5ノットに減じて続航した。
A受審人は,19時04分わずか過ぎ配管橋下通航路の中央部付近を通り霞南西端沖の屈曲部付近に差し掛かったころ,右舷船首42度410メートルのところにカイトの紅灯を初めて視認し,白灯を認めなかったものの,同紅灯の状況やその方位が霞ケ浦水路に沿ってゆっくりと左方に変わることから,同船が小型船舶で,宝栄丸がそのまま同水路に沿って進行すると互いに左舷を対して無難に航過することを知り,19時04分半私設信号塔から285度1,510メートルの地点に達したとき,同水路に沿って右転を始めた。
A受審人は,19時05分わずか前カイトが左舷灯を見せたまま,宝栄丸の正船首を左舷方に替わって左舷船首至近のところに接近したとき,宝栄丸の前路に向け左転を始めたのを認めて衝突の危険を感じ,機関を停止したものの,効なく,19時05分私設信号塔から286.5度1,560メートルの地点において,宝栄丸は,357度に向首したとき,原速力のまま,その左舷船首部が,カイトの左舷船首部に前方から25度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力1の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
また,カイトは,B受審人が単独で乗り組み,釣り場を下見する目的で,船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日18時59分法定灯火を表示して四日市港Dマリーナを発し,霞ケ浦水路を経由して同港東防波堤北部の海域に向かった。
B受審人は,舵輪後方に立ったまま見張りにあたって霞ケ浦水路を南下し,19時00分私設信号塔から328度1.3海里の地点で,針路を189度に定め,全速力前進から少し落とした10.8ノットの速力で,可航域中央部にあたる同水路の少し東岸寄りを手動操舵により進行した。
19時04分わずか過ぎB受審人は,私設信号塔から328度1.3海里の地点に達したとき,船首方の三郎町地区に多数の照明灯の明かりが存在したものの,左舷船首15度410メートルのところに配管橋下通航路から出てきた宝栄丸の白,白,緑3灯を視認できる状況であったが,係留地を離れたあと霞ケ浦水路を航行する他船を見かけなかったことから,同水路を入航する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので,宝栄丸の灯火にも,そのまま同水路に沿って航行すると互いに左舷を対して無難に航過することにも気付くことなく,可航域中央部付近を続航した。
B受審人は,19時04分半宝栄丸が右転を始めたものの,このことにも気付かないまま,19時05分わずか前霞南西端を左舷正横110メートルに見て航過したのち,配管橋下通航路の中央部付近に向けるつもりで左転を始めたところ,宝栄丸の前路に進出する状況となり,カイトは,152度に向首したとき,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,宝栄丸は,左舷船首部外板に擦過傷を,カイトは,左舷船首部及び船尾部外板に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じたが,のちいずれも修理された。
(本件発生に至る事由)
1 宝栄丸
霞ケ浦水路の可航域中央部付近を航行していたこと
2 カイト
(1)霞ケ浦水路を入航する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)霞ケ浦水路の可航域中央部付近を航行していたこと
(3)衝突の直前左転して宝栄丸の前路に進出したこと
3 その他
(1)霞ケ浦水路南口の南岸に多数の照明灯の明かりが存在したこと
(2)霞ケ浦水路南口の西岸寄り及び南岸寄りの水深が海蔵川により運ばれた堆積物などによって変化すること
(原因の考察)
本件は,宝栄丸及びカイトの両船が霞ケ浦水路を互いに左舷を対して無難に航過する態勢で航行中,カイトが,見張りを十分に行っていれば,宝栄丸を認めることができ,衝突の直前左転して同船の前路に進出しなかったものと認められる。
したがって,B受審人が,霞ケ浦水路を入航する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わず,衝突の直前左転して宝栄丸の前路に進出したことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,霞ケ浦水路の可航域中央部付近を航行していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
A受審人が,霞ケ浦水路の可航域中央部付近を航行していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
霞ケ浦水路南口の南岸に多数の照明灯の明かりが存在したこと及び西岸寄り及び南岸寄りの水深が海蔵川により運ばれた堆積物などによって変化することは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,三重県四日市港第3区の霞ケ浦水路において,南口に向けて出航するカイトが,見張り不十分で,無難に航過する態勢で入航する宝栄丸の前路に進出したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,三重県四日市港第3区の霞ケ浦水路において,南口に向けて出航する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同水路を入航する他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,無難に航過する態勢で入航する宝栄丸に気付かず,左転して,同船の前路に進出して衝突を招き,宝栄丸の左舷船首部外板に擦過傷を,カイトの左舷船首部及び船尾部外板に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図1
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参考図2
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