(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月14日03時36分
青森県八戸港港外
(北緯40度33.6分 東経141度33.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第一稲荷丸 |
貨物船ボニー スター |
総トン数 |
9.7トン |
4,124トン |
全長 |
19.10メートル |
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登録長 |
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98.14メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
496キロワット |
3,353キロワット |
3 事実の経過
第一稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)は,船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で,A受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年6月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)ほか4人が乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年10月12日08時30分宮城県気仙沼港を発し,青森県八戸港北東方約50海里沖合の漁場へ向かった。
A受審人は,21時ごろ漁場に至って操業を始め,翌13日夜間に操業を終えて水揚げのため八戸港へ向かうこととし,21時00分鮫角灯台から036度(真方位,以下同じ。)52.5海里の地点を発進し,乗組員を休ませて単独の船橋当直に就き,GPSによって針路を八戸港へ向く217度に定めて自動操舵とし,燃料節約のため機関を半速力前進にかけ,8.0ノットの対地速力で進行した。
ところで,A受審人は,乗組員には適宜休暇を与えていたものの,自らは夏期と年末年始の数日間を休むだけで,荒天時以外は年間を通して操業に当たっており,発進に先立ち,操業中に5時間ばかりの睡眠をとったが,疲労が蓄積している状況であった。
A受審人は,翌々14日02時00分ごろ八戸港の北東方約14海里沖合で,いか釣り漁に従事している漁船群に出会ったので,一旦手動操舵に切り替えて同漁船群を避け,02時21分鮫角灯台から027度10.5海里の地点で,再び自動操舵に切り替えて針路を215度に定め,このころ眠気を感じたものの,操舵室右舷側の椅子に腰掛け,同じ速力で続航した。
03時13分ころA受審人は,一旦椅子から立ち上がり,目視とレーダーで八戸市街の灯火や,八戸港港外の検疫錨地にボニー スター(以下「ボ号」という。)を含む数隻の船舶が錨泊しているのを確認した。
A受審人は,このとき,前路約3海里に錨泊していたボ号に向首していたが,もう少し近付くまで様子を見るつもりで,レーダーを3海里レンジにかけ,レーダー一体型の自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)を,物標が2海里に接近したら警報を発するように設定し,依然として眠気を感じていたものの,間もなく入港準備のため乗組員を起こしたり手動操舵に切り替えるつもりであったことから,まさかそれまでの間に居眠りに陥ることはないものと思い,乗組員を起こして2人で船橋当直に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,再び椅子に腰掛けたところ,間もなく居眠りに陥った。
A受審人は,03時21分ボ号が正船首2.0海里となってアルパが警報音を発し,その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,居眠りに陥っていてこれに気付かず,同船を避けずに進行中,03時36分鮫角灯台から320度1.6海里の地点において,稲荷丸は,原針路,原速力のまま,その船首がボ号の右舷船尾部に後方から45度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は高潮時で視界は良好であった。
A受審人は,衝突の衝撃で目覚め,初めて衝突したことを知り,後進をかけてボ号から離れ,自力で八戸港へ入港して事後の処置に当たった。
また,ボ号は,中華人民共和国(以下「中国」という。),大韓民国(以下「韓国」という。)及び日本の諸港間におけるコンテナ貨物輸送に従事する鋼製貨物船で,韓国籍船長Bほか同国籍船員10人及び中国籍船員3人が乗り組み,コンテナ貨物2,856トンを載せ,船首5.6メートル船尾6.8メートルの喫水をもって,同月13日北海道釧路港を発し,八戸港に向かった。
B船長は,13日夜間に八戸港の沖合に至り,翌14日同港へ入港着岸する予定で,同港の港域からわずかに外れた検疫錨地に右舷錨を投下し,停泊灯や甲板上の照明等を点灯して錨泊中,ボ号は,船首が260度を向いていたとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,稲荷丸は,船首部を圧壊し,ボ号は,右舷船尾のハンドレール及び通風管をそれぞれ曲損した。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,八戸港港外において,同港に向けて南西進する稲荷丸が,居眠り運航の防止措置が不十分で,検疫錨地で錨泊中のボ号を避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,八戸港港外において,同港に向けて南西進中,眠気を催した場合,連続した操業によって疲労が蓄積していたのだから,居眠りに陥らないよう,乗組員を起こして2人で船橋当直に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,間もなく入港準備のため乗組員を起こすつもりでいたので,まさかそれまでの間に居眠りに陥ることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,同港港外の検疫錨地で錨泊中のボ号に衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,これを避けないまま進行して同船との衝突を招き,稲荷丸に船首部圧壊を,ボ号に右舷船尾ハンドレール及び通風管曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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