(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月3日12時10分
福岡県沖ノ島南西方沖合
(北緯34度14.4分 東経130度05.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
遊漁船星龍丸 |
遊漁船流星 |
総トン数 |
6.6トン |
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全長 |
16.24メートル |
12.33メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
423キロワット |
235キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 星龍丸
星龍丸は,平成16年10月に進水した,旅客定員12人の一層甲板型FRP製遊漁船で,船体中央部に操舵室が設けられ,同室右舷側の操縦席から前方に見張りを妨げる構造物はなく,同席の前方に魚群探知機が設置されていた。
イ 流星
流星は,平成12年9月に竣工した,旅客定員7人の一層甲板型FRP製遊漁船で,モーターホーンが装備され,船体中央部の操舵室に錨泊中であることを示す形象物の黒球が備え付けられていた。
また,錨は,重量50キログラムの鉄製で,錨索として長さ200メートル,直径18ミリメートルの化学繊維製ロープを備えていた。
3 事実の経過
星龍丸は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客8人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.50メートル船尾1.14メートルの喫水をもって,平成17年5月3日06時30分福岡県柏原漁港を発し,同時45分同県地ノ島北東方沖合2.5海里ばかりの釣り場に着いたのち,あじを対象魚に遊漁を行い,09時45分同釣り場を発進し,同県沖ノ島沖合のぶりを対象とする釣り場に向かった。
A受審人は,沖ノ島北東方沖合30メートルの地点に達し,その後操縦席に座って操船にあたり,同島を左方に見ながら魚群探知機により魚影を探索しつつ反時計回りに進行し,12時06分半沖ノ島灯台から252度(真方位,以下同じ。)1,700メートルの地点に差し掛かったとき,同島南西方に拡延した瀬の沖合に錨泊中の遊漁船数隻を視認し,これらを右舷前方に見るよう針路を135度に定め,機関を微速力前進にかけ,6.0ノットの対地速力で,わずかに船首を左右に振りながら,手動操舵によって続航した。
定針したときA受審人は,ほぼ船首方630メートルのところに船首を北東方に向けた流星を視認することができ,同船が錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げていなかったものの,その後接近するにつれ,船首から錨索を海面に延出し,左舷側を見せたまま移動していないことから錨泊していることが分かる状況で,同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近していたが,前路に支障となる他船はいないものと思い,魚群探知機による魚影の探索に専念し,前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かなかった。
12時09分半わずか前A受審人は,沖ノ島灯台から233度1,530メートルの地点に達したとき,正船首方100メートルのところに流星を見る態勢になったが,依然として,前路の見張りを十分に行わなかったので,同船に気付かず,これを避けないまま,同じ針路,速力で進行した。
12時10分わずか前A受審人は,正船首方至近に流星を初めて認め,機関を後進にかけたが,効なく,12時10分沖ノ島灯台から230度1,500メートルの地点において,星龍丸は,原針路,原速力のまま,その船首が流星の左舷中央部に直角に衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,視界は良好で,潮候は下げ潮の中央期にあたり,付近にはごく弱い北流があった。
また,流星は,B受審人が1人で乗り組み,釣り客5人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.60メートル船尾1.65メートルの喫水をもって,同日06時00分福岡県唐泊漁港を発し,沖ノ島南西方沖合の釣り場に向かった。
08時30分B受審人は,前示衝突地点に至り,機関を中立とし水深約30メートルのところに錨を投じ,錨索を船首から約35メートル延出して錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げないまま,前部甲板の釣り客1人,後部甲板の釣り客4人のそれぞれに腰を下ろさせ,自ら甲板上で撒(ま)き餌の準備や釣り客の世話にあたり,ときどき周囲を見回しながら,釣りを開始した。
B受審人は,12時06分半船首を風に立て北東に向け,前部甲板に立っていたとき,ほぼ左舷正横方630メートルのところに,星龍丸を初めて認め,その後同船の船首がわずかに左右に振れたものの,自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることを認めたが,釣果を見に来るのであろうと思いながら,その動静を見守った。
12時09分半わずか前B受審人は,星龍丸が左舷正横方100メートルとなったとき,同船が避航の気配がないまま自船に向首して接近するのを認め,不安を感じたものの,依然,釣果を見に来たので間近になったら自船を避けるものと思い,直ちに避航を促すための注意喚起信号を行うことなく,引き続き接近する同船を見ていたところ,12時10分わずか前同船が間近に迫り,ようやく衝突の危険を感じ,釣り客に伏せるよう叫びながら後部甲板に移動した直後,流星は,錨泊したまま,船首が045度に向いているとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,星龍丸は,左舷船首部に塗膜剥離(はくり)を生じ,流星は,左舷中央部外板に破損を生じたほか操舵室が倒壊し,星龍丸によって沖の島漁港に引き付けられ,のち修理された。また,流星の後部甲板の釣り客1人が転倒して2週間の加療を要する脳震盪症(のうしんとうしょう)及び右前腕打撲を負ったほか,流星の前部甲板の釣り客1人が海中に飛び込んだが,間もなく星龍丸によって救助された。
(航法の適用)
本件は,福岡県沖ノ島南西方沖合において,流星が錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げないまま錨泊していたものの,星龍丸は流星に向首進行するようになったのち,同船が船首から錨索を延出し折からの北東風に船首を立て左舷側を見せたまま移動していないことから,錨泊していることが容易に分かる状況にあったので,航行中の星龍丸と錨泊中の流星とが衝突した関係と認められる。
衝突地点海域は,港則法及び海上交通安全法の適用外だから,一般法である海上衝突予防法により律することとなるが,同法には航行中の船舶と錨泊中の船舶との関係についての航法規定は存在しないので,同法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 星龍丸
(1)前路に支障となる他船はいないものと思い,魚群探知機による魚影の探索に専念し,前路の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)錨泊中の流星を避けなかったこと
2 流星
(1)錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げていなかったこと
(2)星龍丸が釣果を見に来たので間近になったら自船を避けるものと思い,避航を促すための注意喚起信号を行わなかったこと
(原因の考察)
本件は,釣り場を移動中の星龍丸が,前路の見張りを十分に行っていたなら,流星を早期に視認でき,錨泊している同船を容易に避けることができたものと認められる。
したがって,A受審人が,前路に支障となる他船はいないものと思い,魚群探知機による魚影の探索に専念し,前路の見張りを十分に行わず,錨泊中の流星を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,錨泊中の流星が,避航の気配がないまま自船に向首して接近する星龍丸を認めたとき,直ちに避航を促すための注意喚起信号を行っていたなら,本件発生を回避できたものと認められる。
したがって,B受審人が,星龍丸が釣果を見に来たので間近になったら自船を避けるものと思い,避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
流星が,錨泊中であることを示す法定の形象物を掲げていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実ではあるものの,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,福岡県沖ノ島南西方沖合において,南東進中の星龍丸が,見張り不十分で,錨泊中の流星を避けなかったことによって発生したが,流星が,避航を促すための注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,福岡県沖ノ島南西方沖合において,釣り場移動のため南東進する場合,前路で錨泊中の流星を見落とさないよう,前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,前路に支障となる他船はいないものと思い,魚群探知機による魚影の探索に専念し,前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中の流星に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,星龍丸の左舷船首部に塗膜剥離を生じさせ,流星の左舷中央部外板に破損を生じ,操舵室を倒壊させたほか,流星の釣り客1人に2週間の加療を要する脳震盪症及び右前腕打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,福岡県沖ノ島南西方沖合において,遊漁のため錨泊中,星龍丸が避航の気配がないまま自船に向首して接近するのを認めた場合,直ちに避航を促すための注意喚起信号を行うべき注意義務があった。ところが,同人は,星龍丸が釣果を見に来たので間近になったら自船を避けるものと思い,直ちに避航を促すための注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により,星龍丸との衝突を招き,前示の損傷を生じさせ,釣り客1人を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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