(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月13日08時05分
島根県江津港
(北緯35度01.3分 東経132度13.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船日昇丸 |
総トン数 |
453トン |
全長 |
60.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
日昇丸は,平成6年3月に進水した船尾船橋型ケミカルタンカーで,製紙工場で使用,生産される化学製品の輸送に従事していたところ,A受審人ほか4人が乗り組み,水酸化マグネシウム400キロリットルを積載し,船首2.4メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,平成17年1月11日10時45分山口県宇部港を発し,江津港に向かい,途中,荒天を避けて島根県浜田港に寄せ,翌々13日07時50分江津港外に至った。
A受審人は,平成13年1月から休暇を挟み継続して日昇丸船長を務め,月間10回ばかり江津港への入港を繰り返しており同地の状況に詳しく,着岸操船時に錨を使用する都合もあって船首部に一等航海士ほか2人,船尾部に機関長を配置して操船指揮に当たり,港内に向かった。
ところで,江津港は,江ノ川河口に位置し,南から北に続く河口左岸の北端部から沖に向けて,港域内に長さ約700メートルの導流堤が築かれ,その基部から約80メートル上流の河岸内側に日昇丸が係留する船だまりがあった。船だまりは,南北に長い長方形の上辺を斜にした形状で,同上辺に該当する河岸から南西方向に入り込んだ長さ約120メートルの岸壁(以下「北岸壁」という。),同岸壁に接続して南に約170メートル延び日昇丸が着岸するもの(以下「西岸壁」という。),それに続き東に約60メートル延びる岸壁,及び同岸壁に直交して北に突出した幅約10メートル長さ約140メートルの突堤から形成され,突堤先端と北岸壁間が幅100メートルばかりの入り口になっていた。
07時55分A受審人は,導流堤先端に近づき,江津灯台から265度(真方位,以下同じ。)760メートルの地点で,機関を微速力前進にかけ,浅所により可航域が制限されることから同地の製紙会社が手配した先導船に従い,4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,舵輪後方に立って手動操舵により導流堤際を溯航し,08時00分江津灯台から229.5度1,040メートルの地点で,船だまりへの回頭に備えて機関を中立とし,169度の針路及び惰力による3.0ノットの速力で続航した。
08時02分A受審人は,船だまり入り口に差し掛かり,機関と舵を併用して右回頭にかかり,そのころ北岸壁端付近に,河流が平素0.5ノット程度のところ,それより強いときに生じる「騒(さい)」と呼ぶ乱流を視認したことから,回頭中に下流に落とされることを懸念して,機関を前進に通常より多数回使ったのち中立とした。
08時04分わずか前A受審人は,江津灯台から218.5度1,250メートルの地点で,回頭を終えて230度に向き,前進惰力により西岸壁に向首接近する態勢になったとき,ふだんより行きあしが強いことを認め,船首と岸壁間が約80メートルで行きあしが3ノットばかりあり,行きあしを制御する必要があったが,左舷側の突堤に近く船尾が振れることを気にかけ,速やかに機関を後進にかけるなど行きあしを適切に制御せず,間もなく右舷錨を投下して1節まで繰り出し岸壁に接近中,行きあしの逓減が遅いことから危険を感じ,全速力後進をかけ右舵一杯をとったが及ばず,08時05分日昇丸は,江津灯台から219.5度1,360メートルの地点において,ほぼ同船首方向,約1.5ノットの速力で,その船首が西岸壁に衝突した。
当時,天候は曇で風力2の南風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
衝突の結果,船首部外板及びバルバスバウに凹損を生じ,西岸壁は,エプロン,車止めなどを破損したが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,島根県江津港において着岸操船中,岸壁に向首接近する際,行きあしの制御が適切でなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,島根県江津港において着岸操船中,前進惰力により岸壁に向首接近する態勢になり,ふだんより行きあしが強いと認めた場合,速やかに機関を後進にかけるなど行きあしを適切に制御すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾が振れるのを気にかけ,行きあしを適切に制御しなかった職務上の過失により,岸壁との衝突を招き,船首部外板,バルバスバウ及び岸壁に損傷を与えるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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