(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月4日20時30分
備讃瀬戸東航路
(北緯34度26.3分 東経134度05.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第八昇辰丸 |
漁船明晃丸 |
総トン数 |
499トン |
4.8トン |
全長 |
75.50メートル |
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登録長 |
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11.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
(2)設備及び性能等
ア 第八昇辰丸
第八昇辰丸(以下,昇辰丸という。)は,平成5年3月に進水した航海速力10.0ノットの鋼製貨物船で,主従2台のレーダー及びジャイロコンパスを装備し,主として愛媛県新居浜港で銅製品を積み,京浜港並びに鹿児島港で揚げる航路に就航していた。
イ 明晃丸
明晃丸は,平成5年4月に進水した航海速力10.0ノットのFRP製漁船で,レーダー,GPS及び魚群探知器などを備え,専ら岡山県沖の瀬戸内海において小型底びき網漁業に従事していた。
3 事実の経過
昇辰丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,銅製品470トンを積み,船首2.0メートル船尾3.5メートルの喫水をもって,平成15年11月4日15時30分新居浜港を発し,京浜港へ向かった。
出港後,A受審人は,船橋当直を一等航海士,同受審人及び甲板長の順番による単独3時間交替3直制に定めて瀬戸内海を東行し,19時00分備讃瀬戸南航路の香川県丸亀市沖合で昇橋して,前直の一等航海士から当直を引き継ぎ,20時23分備讃瀬戸東航路(以下「航路」という。)の男木島灯台から003度(真方位,以下同じ。)0.5海里の地点に達したとき,針路を100度に定め,機関を回転数毎分230の全速力前進にかけ,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,法定灯火を表示し,手動操舵によって進行した。
そして,A受審人は,20時25分男木島灯台から038度0.5海里の地点に至ったとき,右舷船首54度1.0海里のところに明晃丸が表示する白,紅の2灯を視認したことから,これを注視していたところ,同船が航路を横断する態勢で接近し,やがて衝突のおそれがある状況となったが,自船が航路をこれに沿って航行していたうえ,明晃丸が小回りが効く小型船であったことから,間際まで接近したならば避けてくれるものと思い,警告信号を行うことなく,同じ針路及び速力で続航した。
こうして,20時28分半わずか過ぎA受審人は,明晃丸が,その方位に明確な変化がないまま,自船から500メートルのところまで接近したものの,依然として,警告信号を行わず,さらに接近しても,機関を使って行きあしを停止するなりして,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中,20時30分少し前明晃丸が至近に迫ったことから,衝突の危険を感じ,急きょ,右舵一杯としたが,効なく,20時30分男木島灯台から077度1.2海里の地点において,昇辰丸は,原針路,原速力で,その右舷船尾に明晃丸の船首が後方から72度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
また,明晃丸は,B受審人が1人で乗り組み,小型底びき網漁業に従事する目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同月4日05時30分岡山県前島北岸の係留地を発し,同県牛窓港南東方沖合1.5海里付近の漁場へ向った。
05時50分B受審人は,漁場に到着して直ちに操業を始め,1回約1時間半に渡る操業を3回行ったところ,11時00分漁網を投網及び揚網するネットローラに不具合が生じたことから,これを修理するため,12時00分操業を中止して香川県高松港へ向かい,19時50分同港の鉄工所で修理を終えたのち,発航地へ向けて帰途に着いた。
そして,B受審人は,女木島の東方を北上したのち,20時25分男木島灯台から123度0.9海里の地点に達したとき,針路を028度に定め,機関を回転数毎分3,200の全速力前進にかけ,10.0ノットの速力で,法定灯火を表示し,自動操舵によって進行した。
針路を定めたとき,B受審人は,航路を横断する態勢となった自船の左舷船首54度1.0海里のところに,昇辰丸が表示する白,白,緑の3灯を視認することができ,やがて,同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが,付近に航行の支障となるような船舶を認めなかったことから,大丈夫と思い,船橋左舷側に備えられたいすに腰を掛けた姿勢のまま,見張りを十分に行わなかったので,作動させていたレーダーの監視や窓枠の陰となった死角の解消などが疎かとなり,背景となる島々の明かりに紛れていた昇辰丸の灯火を見落としたまま,その存在に気付くことなく続航した。
こうして,20時28分半わずか過ぎB受審人は,昇辰丸が,その方位に明確な変化がないまま,自船から500メートルのところまで接近したが,依然として,見張りを十分に行わず,航路をこれに沿って航行している同船の進路を避けることなく進行中,明晃丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,昇辰丸は右舷船尾外板に擦過傷を伴う凹損を生じ,明晃丸は船首外板を圧壊した。
(航法の適用)
本件は,海上交通安全法が適用される瀬戸内海において,航路を東行していた昇辰丸と,航路を南から北へ横断する態勢の明晃丸が衝突したものであり,以下,適用される航法について検討する。
昇辰丸及び明晃丸の両船が,前示関係で衝突したことは,明白な事実であり,疑う余地はない。
よって,海上衝突予防法第41条第1項特別法優先の規定により,海上交通安全法第3条第1項をもって律することとする。
(本件発生に至る事由)
1 昇辰丸
(1)A受審人が,自船が航路をこれに沿って航行していたうえ,明晃丸が小回りが効く小型船であったことから,間際まで接近したら避けてくれると思ったこと
(2)明晃丸に対して警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 明晃丸
(1)B受審人が,いすに腰を掛けた姿勢で船橋当直に当たっていたこと
(2)B受審人が,付近に航行の支障となるような船舶を認めなかったことから,大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかったこと
(3)B受審人が,昇辰丸の存在に気付かなかったこと
(4)昇辰丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
昇辰丸は,海上交通安全法が適用される海域である瀬戸内海において,航路をこれに沿って航行中,船橋当直に当たっていた船長が,航路を横断する態勢で接近する明晃丸を認めていたのであるから,同船と衝突のおそれがある状況となったならば,速やかに警告信号を行い,さらに間近に接近した際,衝突を避けるための協力動作をとることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,明晃丸に対して,警告信号を行わず,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,明晃丸は,同海域において,航路を横断中,船橋当直に当たっていた船長が,付近に航行の支障となるような船舶を認めない場合であっても,漫然といすに腰を掛けることなく,見張りを十分に行っていたならば,航路をこれに沿って航行していた昇辰丸が表示する灯火に容易に気付き,同船の進路を避けることは十分に可能であったものと認められる。
したがって,B受審人が,見張りを十分に行わず,昇辰丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
B受審人が,いすに腰を掛けた姿勢で船橋当直に当たっていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,瀬戸内海において,航路を横断する態勢の明晃丸が,見張り不十分で,航路をこれに沿って航行する昇辰丸の進路を避けなかったことによって発生したが,昇辰丸が,明晃丸に対して警告信号を行わず,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,夜間,瀬戸内海において,航路を横断する態勢で航行する場合,航路をこれに沿って航行する船舶を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,付近に航行の支障となるような船舶を認めなかったことから,大丈夫と思い,いすに腰を掛けた姿勢のまま,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,作動させていたレーダーの監視や窓枠の陰となった死角の解消などが疎かとなり,背景となる島々の明かりに紛れていた昇辰丸の存在に気付かず,その進路を避けることなく進行して,同船との衝突を招き,自船の船首を圧壊させるとともに,昇辰丸の右舷船尾外板に擦過傷を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,夜間,瀬戸内海において,航路をこれに沿って航行中,航路を横断する態勢で接近する明晃丸と衝突のおそれがある状況となった場合,同船に対して速やかに警告信号を行い,さらに間近に接近した際,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,自船が航路をこれに沿って航行していたうえ,明晃丸が小回りが効く小型船であったことから,間際まで接近したならば避けてくれるものと思い,警告信号を行わず,さらに間近に接近しても,衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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