(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月23日22時00分
播磨灘北東部
(北緯34度42.7分 東経134度42.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船第六丸岡丸 |
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総トン数 |
432トン |
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全長 |
58.92メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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船種船名 |
引船第二十三協栄丸 |
はしけダイシン702 |
総トン数 |
199.81トン |
299トン |
積トン数 |
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680トン |
全長 |
28.35メートル |
35.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,103キロワット |
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(2)設備及び性能等
ア 第六丸岡丸
第六丸岡丸(以下「丸岡丸」という。)は,平成12年5月に進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で,主に瀬戸内海及び大阪湾の各港間の苛性ソーダ輸送に従事していた。
船橋には,左から2号レーダー,自動衝突予防援助装置(以下「ARPA」という。),GPS及び電子海図の組み込まれた1号レーダー,ジャイロコンパスの組み込まれた操舵装置,主機コントロール盤が配置されていた。
イ 第二十三協栄丸
第二十三協栄丸(以下「協栄丸」という。)は,昭和48年7月に進水した限定沿海区域を航行区域とする,コルトノズル付旋回式推進器を2個装備し,船体ほぼ中央部に操舵室を有する鋼製押船兼引船で,広島,東京,函館など日本各地の港を不定期に就航していた。
操舵室には,中央に操舵スタンドが,その前方に磁気コンパスが,同スタンドの左側にARPAの組み込まれたレーダー及び国際無線電話機が,右側にGPSが,右舷側後部に海図台が配置されていた。
操舵室天井には,左側に汽笛レバーが,右側に探照灯の操作ハンドルが備えられていた。
操舵室上部には,右側に探照灯が,両舷に各舷灯が,後部中央にマストがそれぞれ設置され,マスト前方には垂直線上にマスト灯3個が,また,マスト後方には船尾灯及び引き船灯が備えられていた。
操舵室後方は,機関室囲壁が続き,船尾端から9.5メートル前方の同囲壁後端中央部に曳航用フックが備えられていた。
ウ ダイシン702
ダイシン702は,昭和44年10月に進水した船体中央部に船倉を有する非自航式鋼製はしけで,甲板上には船首部中央に曳航用ビット及び高さ2メートルの位置に40ワットの白色作業灯並びに船尾部中央に2メートル四方の高さ2メートルの居住用構造物があり,その屋上船首側中央に両色灯,同構造物の両端及び船尾端にそれぞれ白色作業灯が設備されていた。
3 事実の経過
丸岡丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,空倉のまま,船首1.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって,平成17年6月22日12時00分境港を発し,関門海峡経由で東播磨港に向かった。
A受審人は,船橋当直を二等航海士,一等航海士及び同人による4時間交替の3直輪番制として瀬戸内海を東行し,翌23日20時00分播磨灘北航路第5号灯浮標付近で一等航海士から当直を引き継ぎ,航行中の動力船の灯火を表示して単独で当直に就き,21時10分尾崎鼻灯台から001度(真方位,以下同じ。)0.6海里の地点に達したとき,1号レーダーを作動して針路を東播磨港外に向ける085度に定め,機関を全速力前進として10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
ところで,A受審人は,空調装置を運転していたことから,船橋の扉及び窓を閉鎖するとともに,ARPAを作動すると通航船が多く頻繁に警報が鳴る状態であったことから,ARPA機能を停止していた。
21時45分A受審人は,上島灯台から292度2.7海里の地点で,作業灯を点灯した底引き網漁船を船首方両舷に認め,それらの漁船の間を抜けるため,針路を078度に転じて続航した。
21時54分A受審人は上島灯台から317度1.8海里の地点に達したとき,右舷船首13度1.5海里のところに,協栄丸引船列の白,白,紅3灯及びダイシン702の白,紅2灯を視認できたが,周囲を一瞥しただけで付近には支障となる他船はいないものと思い,双眼鏡を使用するなどして周囲の見張りを十分に行っていなかったので,同引船列を認めず,その後,4海里先に近づいた東播磨港外の錨地の様子を見るため1号レーダーの後方に立って3海里レンジのオフセンターとした画面を覗いたものの,錨地周辺の確認に気をとられ,レーダー画面に映った協栄丸引船列の映像に気付かずに進行した。
A受審人は,協栄丸引船列が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが,依然,これに気付かず,また,同引船列が発する警告信号及び照射灯にも気付かず,その進路を避けないまま続航し,22時00分わずか前,ふと前を見たとき,至近に迫った同引船列の灯火を初めて認め,あわてて手動操舵に切り替えて右舵一杯とし,機関を中立としたものの,効なく,22時00分上島灯台から351度1.5海里の地点において,丸岡丸は,原針路,原速力のまま,協栄丸引船列の曳航索に前方から50度の角度で衝突し,その直後,自船の右舷船首部付近とダイシン702の右舷船首部とが衝突した。
当時,天候は晴で風力1の南西風が吹き,潮候は上げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
また,協栄丸は,B受審人ほか3人が乗り組み,船首2.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,作業員Cが1人で乗組みくず鉄約640トンを積載して船首尾ともに2.8メートルの喫水となったダイシン702の曳航用ビットと協栄丸の曳航用フックとの間に,直径70ミリメートル長さ50メートルの合成繊維製の曳航索をとり,協栄丸の船尾端からダイシン702の船尾端までの長さが75メートルとなる引船列を構成し,同月23日15時25分大阪港を発し,姫路港に向かった。
B受審人は,船橋当直を単独6時間交替の2直制とするところ,7時間程度の航海であったので,1人で船橋当直に当たるつもりで出港操船に引き続いて当直に当たり,明石海峡に差し掛かったころ,小型漁船が増えてARPAの警報が頻繁に鳴るので同警報装置を切り,一等航海士を見張りに就けて東播磨港沖合を北西進し,21時10分上島灯台から096度4.4海里の地点で,針路を293度に定め,機関を全速力前進にかけて6.0ノットの速力で,船舶その他の物件を引いている航行中の動力船の灯火を表示して自動操舵により進行した。
21時54分B受審人は,上島灯台から014度1.3海里の地点に達したとき,左舷船首22度1.5海里のところに丸岡丸の白,白2灯及び緑1灯を視認し,その後,同船が前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近することを認めて続航した。
21時56分B受審人は,丸岡丸が自船を避けずに同じ方位のまま1.0海里となったとき,避航を促す目的で,探照灯を同船に向けて照射するとともに汽笛により警告信号を吹鳴し,21時57分少し過ぎ,1,200メートルに接近しても,丸岡丸に避航の気配がなかったが,いずれ自船を避けてくれるものと思い,機関を減速するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行し,22時00分少し前,至近に迫った丸岡丸にあわてて右舵15度をとったものの,効なく,協栄丸引船列は,同じ速力で,右回頭中,協栄丸の船首が308度を向いたとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,丸岡丸は右舷船首部に亀裂を,協栄丸の曳航索に切断を,ダイシン702は右舷船首部に破口をそれぞれ生じ,ダイシン702のC作業員が右膝大腿骨顆部軟骨欠損等を負った。
(航法の適用)
本件は,夜間,播磨灘北東部において,東播磨港に向かって東行中の丸岡丸と,姫路港に向かって北西進中の協栄丸引船列が衝突したもので,同海域は海上交通安全法の適用海域であるが,同法による特別な航法規定はなく,互いに視認できる状況下,航行中の法定灯火を表示していたもので,海上衝突予防法第15条の規定によって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 丸岡丸
(1)ARPAの機能を停止していたこと
(2)錨地周辺の確認に気をとられていたこと
(3)レーダーを十分に活用しなかったこと
(4)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(5)船橋の扉や窓を閉鎖していたこと
(6)協栄丸の汽笛に気付かなかったこと
(7)協栄丸引船列の進路を避けなかったこと
2 協栄丸引船列
衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,丸岡丸が十分な見張りを行っていたなら,協栄丸引船列の存在に気付き,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることが分かり,同引船列の進路を避けていたものと認められる。
したがって,A受審人が双眼鏡を使用するなどして周囲の十分な見張りを行わず,協栄丸引船列の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
ARPA機能を停止していたこと,錨地周辺の確認に気をとられていたこと及びレーダーを十分に活用していなかったことは,いずれも見張りを十分に行っていれば協栄丸引船列の存在に気付き,衝突を回避できたのであるから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。
船橋の扉や窓を閉鎖していたこと,協栄丸の汽笛に気付かなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,船橋の扉や窓を開けていれば,協栄丸引船列の警告信号が聞こえた可能性があるので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
一方,協栄丸引船列が,前路を右方に横切る態勢で接近する丸岡丸に対し,警告信号を行っても丸岡丸に避航の気配がないときに,衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,本件は回避されていたものと認められる。
したがって,B受審人が,警告信号を行っても丸岡丸に避航の気配がないことを知った際,速やかに衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,播磨灘北東部において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際,東行する丸岡丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る協栄丸引船列の進路を避けなかったことによって発生したが,北西進する協栄丸引船列が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,播磨灘北東部を東播磨港に向けて東行中,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲を一瞥しただけで付近に支障となる他船はいないものと思い,双眼鏡を使用するなどして周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する協栄丸引船列に気付かず,同引船列の進路を避けずに進行して衝突を招き,丸岡丸の右舷船首部に亀裂を,協栄丸の曳航索に切断を,ダイシン702の右舷船首部に破口をそれぞれ生じせしめ,作業員に右膝大腿骨顆部軟骨欠損等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,夜間,播磨灘北東部を姫路港に向けて北西進中,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する丸岡丸を認め,警告信号を行っても同船に避航の気配が認められなかった場合,衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,いずれ自船を避けてくれるものと思い,速やかに減速するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により,丸岡丸との衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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