(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月14日16時00分
愛知県豊浜漁港中洲地区
(北緯34度42.5分 東経136度55.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート榎本丸 |
水上オートバイ惣一丸 |
総トン数 |
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0.1トン |
登録長 |
5.94メートル |
2.70メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
電気点火機関 |
出力 |
29キロワット |
106キロワット |
3 事実の経過
榎本丸は,FRP製プレジャーモーターボートで,船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,平成17年8月11日18時00分ごろ愛知県豊浜漁港中洲地区の岸壁に係船索を船首から,船尾からはアンカーブイにそれぞれとって船首付けで係留されたのち,無人の状態で停泊していたところ,越えて14日16時00分豊浜港中洲西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から042度(真方位,以下同じ。)120メートルの地点において,その左舷後部に惣一丸が曳航していたチューブボートと称するビニール製ほぼ円形の浮体(以下「チューブ」という。)が衝突した。
当時,天候は晴で風力3の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,視界は良好であった。
また,惣一丸は,FRP製水上オートバイで,A受審人(平成15年11月二級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)が1人で乗り組み,船首尾0.2メートルの等喫水をもって,直径10ミリメートル長さ15メートルのチューブの合成繊維製曳航索を船尾にとり,これに友人2人を搭乗させ,遊走の目的で,同日15時40分豊浜漁港中洲地区を発し,南方100メートルばかり沖合に向かった。
ところで,チューブは,直径1.5メートル深さ0.3メートルで,2組の取手と座席が設けられ,後ろ向きに搭乗者がこれに座り,水上オートバイの船尾に係止されたロープによって曳航されるもので,同オートバイが旋回すると,遠心力により同オートバイの旋回圏から外方に大きく振り出されることから,停泊船の近くで旋回するときにはチューブの旋回運動に十分配慮し,早期に旋回を開始して航過距離を大きくしたり,速力を大幅に減速したりするなど,停泊船との衝突を避けるための措置をとることが必要であった。
これより先A受審人は,同日午前中に仕事を終え,友人に呼ばれていた豊浜漁港中洲地区でのバーベキューと水上オートバイ遊走の集まりに参加し,14時00分ごろから用意されていた水上オートバイを1人で遊走してから,友人をバナナボートに乗せ,これを曳航して旋回を数回行い遊走を楽しんだのち係船場所に戻っていて,休憩をとっているとき友人からチューブ搭乗の依頼を受け,チューブを初めて曳航することにしたものであった。
A受審人は,豊浜漁港中洲地区南方沖合100メートル付近に出て時速40キロメートルばかりで大きく右旋回を数回行って遊走を楽しんだのち戻ることにし,15時59分半少し過ぎ西防波堤灯台から131度10メートルの地点で,針路を035度に定め,速力を時速35キロメートルとし,北東方140メートルの係船場所に向かって進行した。
定針したころA受審人は,榎本丸が船首方110メートルにあり,過大な速力で停泊中の同船の近くで右旋回を行うと,チューブが遠心力により外方に大きく振り出されて同船との衝突のおそれがあったが,バナナボートを曳航して停泊中のモーターボート付近で旋回したときには同ボートが外方に大きく振り出されなかったことから,チューブでも大丈夫と思い,曳航しているチューブの旋回運動に十分配慮し,早期に右旋回を開始して航過距離を大きくしたり,大幅に減速したりするなど,チューブと榎本丸との衝突を避けるための措置をとることなく続航した。16時00分わずか前A受審人は,西防波堤灯台から045度75メートルの地点で,速力を時速22キロメートルとして右旋回を開始し,榎本丸を航過してふと左舷船尾方を見ると,チューブが外方に大きく振り出されて同船に向かっているのでスロットルレバーを緩めたが効なく,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,榎本丸は,船尾が右方に振れて右舷側に係留中の他船と接触し両舷後部外板に圧損を生じたが,のち修理され,惣一丸のチューブ搭乗者2人は,頭部外傷,骨盤骨折などを負った。
(海難の原因)
本件衝突は,愛知県豊浜漁港中洲地区において,惣一丸が,友人を乗せたチューブを曳航し右旋回を行って着岸する際,被引浮体の旋回運動に対する配慮が不十分で,チューブと停泊中の榎本丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,愛知県豊浜漁港中洲地区において,友人を乗せたチューブを曳航し右旋回を行って着岸する場合,過大な速力で停泊中の榎本丸の近くで右旋回を行うと,遠心力により外方に大きく振り出されたチューブが同船と衝突するおそれがあったから,被引浮体の旋回運動に十分配慮し,早期に右旋回を開始して航過距離を大きくしたり,大幅に減速したりするなど,チューブと榎本丸との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,バナナボートを曳航して停泊中のモーターボート付近で右旋回したときには同ボートが外方に大きく振り出されなかったことから,チューブでも大丈夫と思い,被引浮体の旋回運動に十分配慮し,早期に右旋回を開始して航過距離を大きくしたり,大幅に減速したりするなど,チューブと榎本丸との衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,チューブと榎本丸との衝突を招き,同船の両舷後部外板に圧損を生じさせ,惣一丸のチューブ搭乗者2人に頭部外傷,骨盤骨折などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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