(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月8日20時50分
瀬戸内海安芸灘
(北緯34度06.1分 東経132度50.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船美保丸 |
貨物船ヤン バオ1 |
総トン数 |
4.99トン |
1,305トン |
全長 |
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73.05メートル |
登録長 |
9.98メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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735キロワット |
漁船法馬力数 |
15 |
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3 事実の経過
美保丸は,船体中央部に操舵室を配置し,レーダー及びGPSプロッターを装備していたが,汽笛不装備のFRP製漁船で,A受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許取得,平成16年2月一級小型船舶操縦士免許及び特殊小型船舶操縦士免許に更新)が船長として甲板員1人と乗り組み,小型機船底びき網漁の目的で,船首0.30メートル船尾1.60メートルの喫水をもって,平成17年3月8日05時00分愛媛県今治港を発し,安芸灘の漁場に向かった。
A受審人は,06時30分前示漁場に到着して操業を繰り返し,19時00分来島梶取鼻灯台(以下「梶取鼻灯台」という。)から241度(真方位,以下同じ。)6.3海里の地点で,針路を075度に定め,機関を回転数毎分2,800にかけて2.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力として,トロールにより漁ろうに従事している船舶の灯火を表示し,手動操舵によって進行した。
20時40分A受審人は,梶取鼻灯台から247度2.8海里の地点に達したとき,左舷船首27度1.6海里のところに,ヤン バオ1(以下「ヤン バオ」という。)の表示する灯火を視認できる状況であったが,周囲を一瞥して他船の灯火を認めなかったことから航行に妨げとなる他船はいないものと思い,操舵室の床に座り,周囲の見張りを十分行っていなかったので,ヤン バオに気付かなかった。
20時45分A受審人は,梶取鼻灯台から246.5度2.65海里の地点に差し掛かったとき,ヤン バオの方位が変わらないまま,0.8海里となり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然周囲の見張りが不十分でこのことに気付かず,警告信号を行わず,更に間近に接近しても機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し,20時50分梶取鼻灯台から246度2.5海里の地点において,美保丸は,原針路,原速力のまま,その船首部にヤン バオの右舷船首部が,前方から35度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好であった。
また,ヤン バオは,専ら日本,大韓民国及び中華人民共和国間で貨物の輸送に従事する船尾船橋型の貨物船で,中華人民共和国の国籍を有するBが船長としてほか7人と乗り組み,スクラップ804トンを積載し,船首2.10メートル船尾3.50メートルの喫水をもって,3月8日18時50分愛媛県今治港を発し,中華人民共和国海門港に向かった。
B船長は,20時13分来島海峡航路西口付近に差し掛かるころ単独の船橋当直に就き,20時40分梶取鼻灯台から270度1.4海里の地点で,針路をほぼ安芸灘南の推薦航路線に沿う220度に定め,機関を全速力前進にかけて8.0ノットの速力とし,法定の灯火を表示して,自動操舵により進行した。
定針したときB船長は,右舷船首8度1.6海里のところに,美保丸の表示する灯火を視認できる状況であったが,右舷船首方の見張りを十分に行っていなかったので,これに気付かなかった。
20時45分B船長は,梶取鼻灯台から254度1.9海里の地点に達したとき,美保丸の方位が変わらないまま,0.8海里となり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然見張り不十分でこのことに気付かず,その進路を避けることなく続航し,ヤン バオは,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
B船長は,衝突に気付かないまま進行し,翌9日00時05分海上保安部から停船を命じられ,衝突したことを知った。
衝突の結果,美保丸は船首部に損傷を,ヤン バオは右舷船首部に擦過傷をそれぞれ生じた。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,安芸灘において,南西進中のヤン バオが見張り不十分で,漁ろうに従事している美保丸の進路を避けなかったことによって発生したが,美保丸が見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,安芸灘において,漁ろうに従事する場合,接近する他船を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,周囲を一瞥して他船の灯火を認めなかったことから航行に妨げとなる他船はいないものと思い,操舵室の床に座り,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれのある態勢で接近するヤン
バオに気付かず,機関を使用して行きあしを止めるなど,衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き,美保丸の船首部に損傷を,ヤン バオの右舷船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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