(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月6日03時40分
北海道様似港南方沖合
(北緯42度06.2分 東経142度54.2分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
第三十六誇漁丸 |
第8大亀丸 |
総トン数 |
9.7トン |
4.84トン |
登録長 |
14.72メートル |
9.86メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
470キロワット |
|
漁船法馬力数 |
|
70 |
(2)設備及び性能等
ア 第三十六誇漁丸
第三十六誇漁丸(以下「誇漁丸」という。)は,平成10年7月に進水し,はえなわ漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に操舵室があるFRP製漁船で,同室にはレーダー,GPSプロッター及び魚群探知機などが設置されていた。
イ 第8大亀丸
第8大亀丸(以下「大亀丸」という。)は,昭和55年4月に進水し,はえなわ漁業などに従事する,ほぼ船体中央部に操舵室があるFRP製漁船で,同室にはレーダー,GPSプロッターなどが設置されていた。
また,前部甲板に作業灯5灯,操舵室上部に探照用ライト2灯と四隅に作業灯各1灯,後部甲板に作業灯2灯をそれぞれ備え,前部甲板左舷側に揚縄機が設置され,その側には機関及び操舵の遠隔操縦装置が備えられていた。
3 事実の経過
誇漁丸は,A受審人ほか3人が乗り組み,つぶかごはえなわ漁の目的で,船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成17年10月6日03時30分北海道様似港を発し,法定灯火を表示して同港南方沖合15海里ばかりの漁場に向かった。
ところで,様似港内のエンルム岬南南西方沖合には,様似港外東防波堤灯台(以下「外東防波堤灯台」という。)から127度(真方位,以下同じ。)1,300メートルの地点から203度方向に幅370メートル長さ約1,380メートルの定置網漁業区域が設定され,同区域の範囲を示すため6箇所に白色点滅の簡易標識灯(以下「標識灯」という。)が設置されていた。
03時35分わずか前A受審人は,外東防波堤灯台から270度10メートルの地点で針路を191度に定め,機関を全速力前進にかけて14.0ノットの対地速力(以下,速力という。)とし,操舵室左舷側の操舵位置に立ち,乗組員1人を同室させて自動操舵により進行した。
03時38分A受審人は,外東防波堤灯台から191度1,350メートルの地点に達したとき,ほぼ正船首方820メートルのところに,漁ろうに従事していることを示す灯火を掲げず,航行中の動力船が表示する灯火のほか,多数の作業灯を点灯してほぼ停留状態の大亀丸の灯火を認め得る状況で,その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが,定針したころから左舷方に視認していた定置網の標識灯に気をとられ,前方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かずに続航した。
こうして,A受審人は,大亀丸を避けずに進行中,03時40分わずか前船首至近に大亀丸の作業灯を視認したがどうすることもできず,03時40分外東防波堤灯台から191度1.2海里の地点において,誇漁丸は,原針路原速力のまま,その船首部が大亀丸の左舷船尾部に後方から11度の角度で衝突した。
当時,天候は晴れで風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
また,大亀丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,たこ箱はえなわ漁の目的で,船首0.6メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同日02時40分様似港を発し,同港南方沖合1.3海里の漁場に向かった。
大亀丸のたこ箱はえなわ漁は,操業期間が7月1日から10月9日の間で,直径10ミリメートル長さ560メートルの幹縄に,直径8ミリメートル長さ2.3メートルの枝縄に結んだたこ箱40個を13.5メートル間隔で取り付けたはえなわを,海底に12本沈めておくもので,1本のはえなわの投縄に7分から10分,揚縄に20分から23分要していた。
B受審人は,02時50分ごろ漁場に着き,1本目のはえなわの揚縄を終えたのち,03時23分半外東防波堤灯台から188度1,830メートルの地点で機関を中立運転とし,航行中の動力船が表示する灯火のほか,作業灯11灯を点灯したものの,漁ろうに従事する船舶が掲げる灯火を表示しないまま,揚縄機の船尾側に立って,傍らに遠隔操縦装置を置き,揚縄機の巻き揚げによるわずかな速力で南南西方に向かって当日2本目のはえなわの揚縄を再開した。
03時38分B受審人は,外東防波堤灯台から191度2,170メートルの地点において,船首を180度に向けてほぼ停留状態で揚縄中,左舷船尾10度820メートルのところに誇漁丸の白,緑及び紅3灯を視認でき,その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが,揚縄に気をとられ,後方の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,避航を促す音響信号を行うことも,クラッチを入れて右転するなど衝突を避けるための措置をとることもなく操業中,大亀丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果,誇漁丸は,球状船首部に凹損を生じ,大亀丸は左舷船尾部外板に破口を生じて様似港まで曳航されたが,港内で浸水により転覆し,B受審人が全治1週間の打撲傷を,大亀丸甲板員Cが全治1箇月の肋骨亀裂骨折及び顔面挫傷等を負った。
(航法の適用)
本件は,夜間,様似港南方沖合において,南下する誇漁丸と機関を中立回転とし,航行中の動力船が表示する灯火のほか多数の作業灯を点灯して,ほぼ停留状態でたこ箱はえなわを揚縄中の大亀丸とが衝突したものであるが,夜間において船舶が灯火を表示するのは,他の船舶に自船の種類,状態,大きさなどを示すとともに,互いに衝突のおそれの有無を判断し,適用すべき航法や避航方法がこれによって決められるのである。
大亀丸は,はえなわによる漁ろうに従事中の状態であったが,夜間に,他船からその状態を認識する手段として海上衝突予防法に規定された灯火を掲げていないので,同法18条に規定する,漁ろうに従事する船舶とは認められない。
したがって,航行船と停留船との関係となり,海上衝突予防法第38条及び第39条の規定によるのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 誇漁丸
(1)A受審人が,左舷方の定置網漁場区域を囲む簡易標識の白色点滅灯に気をとられ,前方の見張りを十分に行っていなかったこと
(2)大亀丸を避けなかったこと
2 大亀丸
(1)作業灯が点灯されていたこと
(2)漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しなかったこと
(3)B受審人が,揚縄機の側で揚縄作業に従事していたこと
(4)B受審人が,揚縄に気をとられ,後方の見張りを十分に行わなかったこと
(5)B受審人が,避航を促す音響信号を行わなかったこと
(6)B受審人が,衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,様似港沖合を南下中の誇漁丸が,前方の見張りを十分に行っていたなら,大亀丸の作業灯などを視認してほぼ停留状態であることを認識し,同船を避けることによって衝突を防止できたものと認められる。
したがって,A受審人が,左舷方の定置網漁業区域の標識灯に気をとられて前方の見張りを行わず,同船を避けなかったことは,本件の原因となる。
一方,大亀丸が,見張りを十分に行っていたなら,自船に向首接近する誇漁丸の灯火を視認し,避航を促す音響信号を行うことで誇漁丸が大亀丸に気付くことがあり,なおも接近するならば機関を使用して移動するなどして衝突を防止できたものと認められる。
したがって,B受審人が,揚縄に気をとられ,後方の見張りを十分に行わず,避航を促す音響信号を行わなかったこと,及びクラッチを入れて右転するなど,誇漁丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
大亀丸が,漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されなければならない。
大亀丸が作業灯を点灯していたこと,B受審人が揚縄機の側で作業に当たっていたことは,操業中の漁船においては通常のことであり,いずれも本件発生にかかわったものとは認められない。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,様似港南方沖合において,漁場に向けて南下する誇漁丸が,見張り不十分で,漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しないまま,前路で停留中の大亀丸を避けなかったことによって発生したが,大亀丸が,見張り不十分で,接近する誇漁丸に対して避航を促す音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,様似港南方沖合において,漁場に向け南下する場合,前路でほぼ停留して揚縄中の大亀丸を見落とすことのないよう,前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,左舷方に設置されていた定置網漁業区域を示す標識灯に気をとられ,前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ほぼ停留して揚縄中の大亀丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,誇漁丸の球状船首部に凹損を,大亀丸の左舷船尾部外板に破口をそれぞれ生じさせ,B受審人が全治1週間の打撲傷を,大亀丸甲板員が全治1箇月の肋骨亀裂骨折等及び顔面挫傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,夜間,様似港南方沖合において,たこ箱はえなわ漁業を行う場合,漁港に近く漁船が航行する海域であるから,接近する誇漁丸を見落とすことのないよう,後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,揚縄に気をとられ,後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近する誇漁丸に気付かず,避航を促す音響信号を行うことも,クラッチを入れて右転するなど衝突を避けるための措置を取ることもなく揚縄を続けて衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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