日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年第二審第5号
件名

貨物船第二龍王丸押船大豊山丸被押バージ大豊山丸1号衝突事件
[原審・門司]

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年5月17日

審判庁区分
高等海難審判庁(山田豊三郎,平田照彦,上中拓治,坂爪靖,長谷川峯清)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第二龍王丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
補佐人
a,b
受審人
B 職名:大豊山丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:  海技免許: 
補佐人
c

第二審請求者
補佐人a及び同c

損害
第二龍王丸・・・右舷中央部に破口等
大豊山丸1号・・・船首部に凹損等

原因
第二龍王丸・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
大豊山丸押船列・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,津久見港において,入航中の第二龍王丸が,右舷前方から出航する態勢の大豊山丸被押バージ大豊山丸1号との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,大豊山丸被押バージ大豊山丸1号が,衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月5日16時25分
 大分県津久見港
 (北緯33度05.2分 東経131度52.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第二龍王丸  
総トン数 1,396トン  
全長 80.83メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
船種船名 押船大豊山丸 バージ大豊山丸1号
総トン数 225トン 4,176トン
全長 29.50メートル 101.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,647キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第二龍王丸
 第二龍王丸(以下「龍王丸」という。)は,平成3年6月に竣工した船尾船橋型鋼製セメント専用船で,可変ピッチプロペラ及びシリングラダーを装備し,船首端から船橋前面までの水平距離が約58メートルで,前部甲板上にホースハンドリングクレーンなどを備えているが大きな構造物はなく,船橋から前方の見通しは良好で,主に津久見港及び山口県徳山下松港で載貨し,国内各港で揚貨する運航形態をとっていた。
 操舵室には,前部中央に操舵装置及び機関遠隔制御装置などを組み込んだコンソール,その左舷側に1号レーダー,同コンソール右舷側に2号レーダー,右舷後部に海図台,後壁中央に灯火設備の配電盤などがそれぞれ設置されていた。
 操縦性能は,海上試運転成績書によれば,連続最大出力の主機回転数毎分330,翼角18.1度における平均速力が13.74ノット,舵角70度における左旋回時の旋回縦距が188メートル,旋回径が203メートル,右旋回時の旋回縦距が206メートル,旋回径が221メートル,初速13.9ノットにおける最短停止時間が2分4秒,同停止距離が456メートルであった。
イ 大豊山丸
 大豊山丸は,平成元年3月に竣工し,コルトノズルラダー付き固定ピッチプロペラを2個装備した鋼製押船で,常時,その船首部を大豊山丸1号の船尾凹部に嵌合して,全長が約120メートルの押船列(以下「大豊山丸押船列」という。)を構成し,大豊山丸1号の船首端から大豊山丸の船橋前面までの水平距離が約98メートルで,船橋から前方の見通しは良好であり,専ら津久見港から徳山下松港への石灰石の運搬に従事していた。
 操舵室には,前面に航海コンソール,後面にエンジンモニタやバラストコントローラなどが設置され,航海コンソールには左舷側から右舷へ向かってカラー映像の主レーダー,機関遠隔操縦装置,中央にコンパスと操舵装置,大豊山丸1号のバウスラスタ遠隔操縦装置,白黒映像の副レーダーなどが順に組み込まれていた。
 大豊山丸1号に石灰石を満載した状態における前進速力は,全速力が9.5ノット,半速力が7.5ノット,微速力が4.5ノット,極微速力が3ノットであった。
ウ 大豊山丸1号
 大豊山丸1号(以下「バージ」という。)は,バウスラスタを装備した載貨重量8,000トンの非自航型鋼製バージで,常時,その船尾凹部に大豊山丸の船首を嵌合して運航されており,大豊山丸からバウスラスタの遠隔操縦ができるようになっていた。

3 津久見港の概要
 津久見港は,大分県東岸の,西方に湾入した津久見湾の奥に位置し,北側の横浦埼と南側の千怒崎との間が港口で,港奥の中央付近から東方へ張り出した岸壁とその先端の箆島(のしま)とによって港域が南北に分けられ,北部港域の西奥が徳浦地区,南部港域の西奥が青江地区となっており,両地区にセメント出荷岸壁,石灰石積出桟橋及び公共岸壁などが集中して設けられていた。

4 事実の経過
 龍王丸は,A受審人ほか8人が乗り組み,空倉のまま,船首1.8メートル船尾3.6メートルの喫水をもって,平成16年3月4日境港を発して津久見港に向かい,翌5日15時30分津久見港千怒A防波堤灯台(以下「A防波堤灯台」という。)から295度(真方位,以下同じ。)850メートルの地点に投錨し,徳浦地区のセメント出荷岸壁に着岸している先船(以下「第三船」という。)の積荷役が終了するまで待機したのち,16時18分抜錨して同岸壁に向かった。
 1人で操船に当たっていたA受審人は,船首を南方に向けた状態で抜錨すると同時に推進器の翼角を微速力前進の6度とし,間もなく船尾配置から昇橋してきた二等航海士を手動操舵に就け,折から横浦埼と箆島の中間に錨泊船があったので,同船の南側を通過することとして,針路を240度とするよう同航海士に指示し,その後翼角を徐々に上げ,16時19分翼角を港内全速力前進の10.5度としてゆっくり右転しながら進行した。
 16時20分半わずか過ぎA受審人は,A防波堤灯台から285度870メートルの地点で,針路を240度に定めたとき,揚錨中から便意を催していたことから,二等航海士に便所に行ってくるのでこのまま航行するよう告げ,港内全速力前進への増速状態のまま降橋した。
 16時21分A受審人は,A防波堤灯台から283度900メートルの地点に達し,速力が4.1ノット(対地速力,以下同じ。)となったとき,大豊山丸押船列が右舷船首21度1,100メートルのところを東進しており,その後,自船が増速しているにもかかわらず,同押船列の方位に明確な変化がなく,衝突のおそれがある態勢で接近していたが,在橋していなかったので,これに気付かなかった。
 16時22分半わずか前A受審人は,A防波堤灯台から275度1,070メートルの地点で,再び昇橋したとき,右舷前方の港奥から第三船に続いて大豊山丸押船列が出航中で,同押船列と衝突のおそれのある態勢で接近しており,二等航海士から右舷前方に出航船がいる旨の報告を受けたが,右舷船首方に見えた第三船のことであると受け取り,同船の後方にあたる右舷船首21.5度750メートルのところを出航中の大豊山丸押船列に気付かず,同じ針路及び増速状態のまま進行した。
 16時23分少し前A受審人は,A防波堤灯台から273度1,120メートルの地点に達し,速力が6.5ノットとなったとき,右舷船首22度640メートルのところに大豊山丸押船列を初めて視認し,直感的に衝突のおそれがあることを感じたが,間もなく同押船列が左転するのではないかと思い,速やかに翼角を後進に入れるなどの衝突を避けるための措置をとることなく,16時23分短音2回を吹鳴して一旦左舵を令したものの,同押船列の左転を期待し,直ぐに舵中央として続航した。
 16時23分半A受審人は,A防波堤灯台から269度1,260メートルの地点に達し,速力が7.5ノットとなったとき,大豊山丸押船列が避航の様子を見せないまま右舷船首24度400メートルに接近したのを認め,衝突の危険を感じて短音3回を吹鳴するとともに翼角を全速力後進としたものの,16時24分速力が約5ノットとなったとき,同押船列の前方をかわせるように感じたことから,港内全速力前進としたが,同時にとった舵角70度の左舵一杯の影響で減速が続き,16時25分A防波堤灯台から264度1,440メートルの地点において,龍王丸は,約4ノットの速力で船首が180度を向いたとき,その右舷中央部に大豊山丸押船列の船首部が後方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,大豊山丸は,B受審人ほか6人が乗り組み,石灰石8,600トンを積載して船首7.12メートル船尾7.42メートルの喫水となったバージと押船列を構成し,船首2.70メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,同月5日16時10分徳山下松港に向けて津久見港徳浦地区の第1桟橋を発した。
 B受審人は,発航時から単独で操船に当たり,離桟後,両舷機を極微速力後進にかけて船尾を左に振りながら後退し,16時15分船首がほぼ北方を向いたとき,左舷機を極微速力前進にかけ,右舵一杯としてバウスラスタを併用し,右舷機を極微速力後進としたまま右回頭しながら前進を開始し,16時18分少し前横浦埼の東方沖に右舷側のホースパイプから海水を流して揚錨中の龍王丸を初めて視認するとともに,右舷機も極微速力前進にかけ,右回頭を続けながら前進した。
 16時18分B受審人は,A防波堤灯台から273度2,180メートルの地点に達し,増速中の速力が1.5ノットとなったとき,昇橋してきた次席一等航海士を手動操舵に就け,針路を錨泊船の南側に向く110度に定め,両舷機の操縦レバーを微速力前進に上げ,右舷後方のセメント出荷岸壁から第三船が離岸出航中であること及び左舷船首30度1,420メートルのところから龍王丸が南下し始めたのをそれぞれ視認しながら進行した。
 16時21分B受審人は,A防波堤灯台から271度1,950メートルの地点に達し,速力が3.3ノットとなったとき,龍王丸を左舷船首29度1,100メートルのところに視認するようになり,その後,自船が増速しているにもかかわらず,龍王丸の方位に明確な変化がなく,衝突のおそれがある態勢で接近しているのを認めたが,右舷側を第三船が追い越しながら同航していることもあって,龍王丸が出航中の自船を避けるものと思い,バージが満載状態で慣性惰力が大きいことを考慮して,早期に機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
 16時22分B受審人は,A防波堤灯台から270度1,840メートルの地点に達し,増速中の速力が3.9ノットとなったとき,龍王丸が左舷船首28.5度850メートルとなったが,依然として機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらず,保針性を向上させるため,両舷機の操縦レバーを半速力前進に上げ,同じ針路のまま進行した。
 B受審人は,16時23分龍王丸の発した短音2回を聞いて衝突の危険を感じ,直ちに機関を停止,続いて全速力後進にかけたが及ばず,大豊山丸押船列は,原針路のまま約2ノットの前進惰力で,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,龍王丸は,右舷中央部に破口等を生じ,大豊山丸押船列はバージの船首部に凹損等を生じたが,のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件は,港則法適用港である津久見港内において,両船が横切り態勢で衝突したものであり,以下,本件に適用される航法について検討する。

1 海上衝突予防法(以下「予防法」という。)第15条の適用について
 龍王丸は,衝突の7分前に抜錨し,針路を240度に定めたのが衝突の約4分半前で,定針前から翼角を港内全速力前進として増速しながら進行しており,衝突の4分前大豊山丸押船列が右舷船首21度1,100メートルとなったときも,依然増速の過程にあり,その後も増速が続いたが,同押船列の方位に明確な変化がないまま接近した。
 一方,大豊山丸押船列は,機関を後進にかけて離桟後,前進に切り換えて極微速力で右回頭しながら進行し,針路を110度に定めるとともに機関を微速力前進としたのが衝突の7分前で,そのまま増速しながら進行し,衝突の4分前龍王丸が左舷船首29度1,100メートルとなったときも増速の過程にあり,衝突の3分前龍王丸が左舷船首28.5度850メートルとなったとき,機関を半速力前進として更に増速したものであった。
 このように両船は,衝突の4分前両船間の距離が1,100メートルとなって以降,互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが,速力は両船ともずっと増速の過程にあったものであり,かつ,両船の大きさ及び操縦性能からみて,十分な距離的余裕があったとは認められず,本件に同条を適用するのは相当でない。

2 予防法第9条の適用について
 狭い水道の定義については,法的な規定はなく,一般に地形的な定義として,幅が約2海里以下のところで,長さは要しないとされているが,一方,狭い水道とは,その水道に沿って航行する船舶交通の流れがあるところであり,予防法第9条は,通航船舶に対し,できるだけ右側端に寄って航行させることにより,船舶交通の流れを維持しながらその安全を図ろうとするところに意義がある。
 本件発生場所付近は,徳浦地区へ出入航する船舶が東西方向に航行する場所であり,また,青江地区へ出入航する船舶が南北方向に航行する場所でもあり,更に箆島から徳浦地区にかけて東西方向に並んでいる岸壁へ入航着岸しようとする船舶にとっては当該岸壁に向けて着岸態勢に入る操船水域であり,それらの岸壁から離岸出航しようとする船舶にとっては離岸後,回頭したりする操船水域でもある。
 したがって,本件発生場所付近は,港内の狭い水域ではあるが,狭い水道ではなく,本件に同条を適用するのは相当でない。

3 港則法第17条の適用について
 当時,横浦埼と箆島の中間に錨泊船があって,その錨泊船を,龍王丸は右舷側に見て入航する状況であり,大豊山丸押船列は左舷側に見て出航する状況であった。
 大豊山丸押船列は,当時,港奥から自船の右舷側を追い越しつつ出航する第三船があったことから,箆島よりも錨泊船寄りを航行していたものであり,龍王丸としても,出航船がない前提で錨泊船の南側を通航することとし,きりの良い240度の針路としたもので,錨泊船にできるだけ近寄って航行していたものではないが,両船の航行状況が同条に違反しているとまではいえず,本件に同条を適用するのは相当でない。

4 港則法第15条の適用について
 同条は,汽船が港の防波堤の入口又は入口付近で他の汽船と出会うおそれがあるときに同入口を一方通航とし,出航船優先とした規定である。その立法趣旨は,防波堤の内側が狭く,船舶交通が輻輳し,操船の余地が少ない水域であるのに対し,防波堤の外側は広く,自由に操船できる余地のある水域であることから,入航船に防波堤の外で避航する義務を課し,船舶交通の安全を図ろうとするものである。
 そして,防波堤の入口とは,両側にある防波堤の突端で挟まれた水域をいい,これには,片側が防波堤で,他の側が岬や護岸などの陸地によって挟まれた水域も該当するが,横浦埼と箆島に挟まれた水域は,幅が約700メートルもあるところで,防波堤の入口と解することはできない。
 以上のことから,予防法及び港則法には本件に適用すべき航法規定がなく,予防法第38条及び第39条の船員の常務によることとなり,いずれの船も衝突を避けるための措置をとるべき立場にあることは否定できないが,地形的な水域の特徴及び当時の交通環境として,
(1)津久見港内の横浦埼と箆島を結ぶ線の西方にあたる港奥側は狭い水域であるが同線の東方にあたる港口側は広い水域である
(2)横浦埼と箆島との中間に錨泊船があって可航水域が狭められていた
(3)港奥から第三船と大豊山丸押船列の2隻が錨泊船と箆島との間の水域に向かって出航中であった
(4)両船は横切りの関係にあって,龍王丸が大豊山丸押船列を右舷側に見る態勢であったという事実に,前述の関係航法規定の立法趣旨を併せて考えたとき,龍王丸が大豊山丸押船列との衝突を避けるための措置をとらなければならない主体的立場にあったと解するのが,船員の常務に沿うものである。

(本件発生に至る事由)
1 龍王丸
(1)抜錨後,A受審人が用便のため一時降橋したこと
(2)A受審人が,用便後,再び昇橋したとき,当直航海士から出航船がある旨の報告を受けたが,右舷船首方に見えた第三船のことであると受け取り,大豊山丸押船列に気付かなかったこと
(3)出航中の大豊山丸押船列を視認したとき,衝突のおそれを感じたが,間もなく同押船列が左転するのではないかと思い,速やかに翼角を後進に入れるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと

2 大豊山丸押船列
 龍王丸が出航する自船を避けるものと思い,早期に機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと

3 その他
(1)横浦埼と箆島の中間に錨泊船が存在したこと
(2)第三船が大豊山丸押船列の右舷側を出航中であったこと

(原因の考察)
 本件は,龍王丸が,箆島とその北方の錨泊船との間の水域を通航する予定で増速しながら入航中,衝突の約2分前,港奥にあたる右舷前方から前路に向かって出航する第三船とそれに続く大豊山丸押船列とを視認し,同押船列と衝突のおそれがあるのを認めたとき,速やかに翼角を後進に入れるなどの衝突を避けるための措置をとっていれば,発生を防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,出航中の大豊山丸押船列を視認したのち,同押船列が左転するのではないかと思い,速やかに同押船列との衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,抜錨後,用便のため一時降橋したこと及び再び昇橋したとき,当直航海士から出航船がある旨の報告を受けたが,右舷船首方に見えた第三船のことであると受け取り,大豊山丸押船列に気付かなかったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,第三船を認めた約20秒後には大豊山丸押船列を視認するとともに衝突のおそれを感じており,この時点における速力が6.5ノットで,最短停止時間が約1分,同距離が約100メートルであることから,速やかに翼角を後進に入れれば衝突を回避できる状況であったと認められるので,本件発生の原因とならない。しかしながら,これらは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 一方,大豊山丸押船列が,増速しながら出航中,衝突の約4分前,左舷前方から接近する龍王丸と衝突のおそれがあるのを認めたとき,満載状態で慣性惰力が大きくなっていることも考慮し,早期に機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとっていれば,本件の発生を防止できたと認められる。
 したがって,B受審人が,衝突の約4分前,衝突のおそれを認めたものの,出航する自船を龍王丸が避けるものと思い,早期に機関を後進にかけるなどの措置をとらず,衝突の2分前になって機関を後進にかけたことは,衝突を避けるための措置が遅れたものと認められ,本件発生の原因となる。
 横浦埼と箆島の中間に錨泊船が存在したこと及び第三船が大豊山丸押船列の右舷側を出航中であったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件衝突は,津久見港において,箆島とその北方の錨泊船との間の水域に向け,港奥から第三船と大豊山丸押船列が出航している状況下,同水域に向かって入航する龍王丸が,右舷前方から出航する態勢の同押船列との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが,大豊山丸押船列が,衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,津久見港において,抜錨後,箆島とその北方の錨泊船との間の水域に向かって増速しながら入航中,港奥の徳浦地区から第三船に続いて大豊山丸押船列が出航してくるのを視認し,右舷に見る同押船列と衝突のおそれがあるのを認めた場合,速やかに翼角を後進に入れるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,間もなく大豊山丸押船列が左転するのではないかと思い,速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同押船列との衝突を招き,龍王丸の右舷中央部に破口等を,バージの船首部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,津久見港において,箆島とその北方の錨泊船との間の水域に向かって増速しながら出航中,左舷前方に衝突のおそれがある態勢で接近する龍王丸を認めた場合,満載状態で慣性惰力が大きかったのであるから,早期に機関を後進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,龍王丸が出航する自船を避けるものと思い,早期に衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,同船との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文 平成17年2月25日門審言渡
 本件衝突は,第二龍王丸が,見張り不十分で,前路を左方に横切る大豊山丸被押バージ大豊山丸1号の進路を避けなかったことによって発生したが,大豊山丸被押バージ大豊山丸1号が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。


参考図
(拡大画面:27KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION