(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月22日22時45分
香川県向島北方沖合
(北緯34度28.5分 東経134度00.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船伸和丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
66.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
(2)設備及び性能等
伸和丸は,平成2年2月に進水した,主として大分港,徳山下松港,大阪港及び千葉港に寄港してキシレンやベンゼンなどを輸送する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で,船橋の前面に貨物槽を8槽備えていた。
船橋内には,レーダー2基のほか衛星航法装置,操舵装置及び主機遠隔操縦装置などが備えられていた。また,海上公試運転成績書によると旋回径は,全長の5倍程度で旋回に要する時間は2分44秒であった。
3 就労状況について
船橋当直は,A受審人,一等航海士及び甲板長による単独4時間交替制で,00時から04時及び12時から16時までを甲板長が,04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士が,08時から12時まで及び20時から24時までをA受審人が,それぞれ当直にあたるほか,同受審人は,狭水道を通過するときや視界制限時などにも昇橋して操船にあたっていた。
A受審人は,10月20日朝から翌21日朝までの間,渥美湾において台風接近のため気象情報の収集などを行ったので殆ど睡眠をとっておらず,その後,22日朝大阪港に入港して補油作業や荷役作業に従事したのち同港を出港したことから,疲労が蓄積して睡眠不足の状態であった。
4 事実の経過
伸和丸は,A受審人ほか5人が乗り組み,空倉のまま,船首0.8メートル船尾3.3メートルの喫水をもって,平成16年10月22日16時30分大阪港を発し,岡山県水島港に向かった。
A受審人は,19時20分播磨灘の鹿ノ瀬の南方で一等航海士と早めに当直交替して小豆島大角鼻の南方沖合に向けて進行し,21時45分備讃瀬戸東航路に入航し,その後同航路中央第6号灯浮標付近に達したとき左転して前方の小型同航船3隻を追い越したところ,備讃瀬戸東航路の東行レーンに入ったので,西行レーンに戻すつもりで22時05分カナワ岩灯標から078度(真方位,以下同じ。)1.2海里の地点で針路を293度に定め,機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で,備讃瀬戸東航路中央第5号灯浮標に並航したら針路を同航路に沿う280度に転じる予定で,自動操舵により続航した。
A受審人は,その後,操舵スタンドに両腕をついてもたれかかった姿勢でいるうち,眠気を催したが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,休息中の乗組員を呼んで当直を替わってもらうなど居眠り運航の防止措置をとることなく進行するうち,いつしか居眠りに陥った。
こうしてA受審人は,22時17分転針予定地点に達しても転針することができず,293度の針路のままで続航するうち,伸和丸は22時45分鞍掛鼻灯台から242度900メートルの地点において,全速力のまま向島北方に敷設された直島漁業協同組合が管理するのり養殖施設に進入した。
本件後A受審人は,のり養殖施設に進入したことにも気付かないままこれを航過し,22時50分鞍掛鼻灯台から276度1.3海里の局島東岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
その結果,のり養殖施設が損傷し,船首船底部に破口などを生じた。
(本件発生に至る事由)
1 睡眠不足の状態であったこと
2 休息中の乗組員を呼んで当直を替わってもらうなど居眠り運航の防止措置が不十分であったこと
(原因の考察)
本件は,夜間,備讃瀬戸東航路を西行中,眠気を催した際,休息中の乗組員を呼んで当直を替わってもらうなど居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,発生していなかったものと認められる。
したがって,A受審人が,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,睡眠不足状態であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべきである。
(海難の原因)
本件のり養殖施設損傷は,夜間,備讃瀬戸東航路を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,香川県向島北方沖合に敷設されたのり養殖施設に進入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,備讃瀬戸東航路を西行中,眠気を催した場合,そのまま当直を続けると居眠り運航に陥るおそれがあったから,休息中の乗組員を呼んで当直を替わってもらうなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,同人が居眠りに陥り,のり養殖施設に進入して同施設を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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