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平成17年広審第123号
件名

引船最上丸引船列のり養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年3月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島 友二郎)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:最上丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
最上丸引船列・・・損傷ない
のり養殖施設・・・損傷

原因
見張り不十分

裁決主文

 本件のり養殖施設損傷は,見張りが十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月22日22時28分
 岡山県米埼南方沖合
 (北緯34度33.9分 東経134度03.3分)

2 船舶の要目
船種船名 引船最上丸  
総トン数 19トン  
全長 17.50メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 はしけ内8 はしけ内303
総トン数 約508トン 約281トン
全長 40.0メートル 36.7メートル

3 事実の経過
 最上丸は,船首部に操舵室を配置し,レーダー及びGPSプロッターを装備した鋼製引船で,A受審人(平成16年8月一級及び特殊小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み,船首1.2メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,イルミナイト800トンを積載して船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水となった鋼製はしけ内8との間に引索50メートルをとり,更にイルミナイト500トンを積載して船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水となった鋼製はしけ内303と内8の間に引索30メートルをとり,最上丸の船尾から内303船尾端までの長さが157メートルの引船列(以下「最上丸引船列」という。)をなし,平成16年11月22日17時30分岡山県水島港を発し,同県西大寺港に向かった。
 ところで,岡山県米埼南方沖合には,県知事が許可した区画漁業免許に基づくのり養殖漁場(以下「のり養殖漁場」という。)が設定され,平成16年4月1日から同21年3月31日までの,毎年9月20日から翌年3月31日までの間,米埼灯台から,それぞれ145度(真方位,以下同じ。)900メートル(地点ア),144度1,550メートル(地点イ),189.5度2,850メートル(地点ウ)及び190.5度2,800メートル(地点エ)の各点を順次結ぶ線によって囲まれた区域内に,のり養殖施設が設置されていた。
 のり養殖漁場の周囲には,その存在を示すため,地点ア,イ,ウ及びエに毎4秒に1回黄色閃光を発し,光達距離が6キロメートルで海面から灯火までの高さが約2メートルの浮標灯が,また,各点を結ぶ線上に100ないし200メートルの間隔で,毎4秒に1回黄色閃光を発し光達距離が3キロメートルで海面から灯火までの高さが約1メートルの浮標灯がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は,水島港から西大寺港に向かうときには,大入埼沖合を北上したのち,米埼沖合の岡山第1号灯浮標(以下「第1号灯浮標」という。)を左舷側至近に見て左転し,岡山水道に入航しており,予定針路線の左舷側に,前示のり養殖漁場が設定され,のり網などの養殖施設が設置されていることを知っていた。
 A受審人は,舵輪後方の仮眠台に腰を掛け,時折3海里レンジとしたレーダー及びGPSプロッターの画面を監視し,専ら目視による見張りを行いながら単独の船橋当直にあたり,21時30分大蛭島灯台から337度0.30海里の地点で,針路を037度に定め,機関を全速力前進にかけて3.8ノットの対地速力で,法定の灯火を表示し,手動操舵により進行した。
 22時00分A受審人は,米埼灯台から192度2.15海里の地点に達したとき,左舷船首方にのり養殖漁場の存在を示す浮標灯の黄色閃光を,正船首少し左2.0海里のところに第1号灯浮標の毎6秒に2閃光の群閃緑光を,右舷船首方に4ないし5隻の操業中の漁船の灯火をそれぞれ認めたが,その後,漁船群の灯火を見ることに気を取られ,同浮標灯及び同灯浮標の灯火から目を離し,周囲の見張りを十分に行わずに続航した。
 22時20分A受審人は,米埼灯台から164度1.14海里の地点に差し掛かったとき,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,正船首少し左0.73海里のところに,再度視認した第1号灯浮標の群閃緑光を漁船の灯火と誤認したばかりか,左舷方にのり養殖漁場が存在することを失念し,漁船を避航するつもりで左舵をとり,針路をのり養殖漁場に向首する016度に転じて進行した。
 こうして,A受審人は,のり養殖漁場に向首接近する態勢となったが,依然周囲の見張り不十分で,このことに気付かないまま続航し,22時26分船首方に白いブイが並んでいるのを認め,同養殖漁場に接近していることに気付き,曳航している内8及び内303がのり養殖漁場に進入することを防ぐため,左転して内8の左舷船首部を押して両はしけの進行方向を変えたが,22時28分米埼灯台から148度0.83海里の地点で,最上丸は221度に向首して,ほぼ行きあしがなくなったとき,のり養殖漁場に乗り入れ,その東端に設置されたのり養殖施設に接触し,プロペラがのり網のセットロープを巻き込んだ。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,視界は良好であった。
 その結果,最上丸及び両はしけに損傷はなかったが,のり養殖施設に損傷を生じた。

(海難の原因)
 本件のり養殖施設損傷は,夜間,岡山県米埼南方沖合において,岡山水道に向け北上中,周囲の見張りが不十分で,米埼南方沖合に設定されたのり養殖漁場に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,岡山県米埼南方沖合において,岡山水道に向け北上する場合,進路左舷方の米埼南方沖合にのり養殖漁場が設定されていることを知っていたのであるから,同養殖漁場に乗り入れることがないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,船首右舷方の漁船群の灯火を見ることに気を取られ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,のり養殖漁場に向首接近することに気付かず,同養殖漁場に乗り入れ,のり養殖施設に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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