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平成17年仙審第13号
件名

引船メイデンIII定置網損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年3月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

指定海難関係人
A 職名:メイデンIII船長

損害
メイデンIII・・・損傷ない
定置網・・・長さ約100メートルにわたり網,ロープなど損傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件定置網損傷は,船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月4日22時30分
 岩手県八木港南東方沖合
 (北緯40度19.7分 東経141度48.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 引船メイデンIII
総トン数 196.33トン
登録長 27.41メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット
(2)設備及び性能等
 メイデンIIIは,昭和50年9月に進水した,船体中央部に機関室を有し,その上部に船橋を配した2機2軸2Zプロペラの鋼製の操船支援用引船で,平成16年8月3日に売船により,日本国籍を喪失し,2004年7月19日から同年9月19日まで有効なモンゴル国の仮国籍証書等を有していた。
 メイデンIIIの船橋中央部の前面窓際に磁気コンパスが,その後方に操舵及び機関操作用ハンドルや計器類などのコンソールが設置され,磁気コンパスの右側にGPS,船橋前部右隅にレーダーがそれぞれ設置されていたものの,自動操舵装置はなかった。速力は,機関回転数毎分550で,独航で9.5ノットであった。

3 事実の経過
 メイデンIIIは,A指定海難関係人ほかインドネシア人5人が乗り組み,船首2.1メートル船尾3.4メートルの喫水をもって,インドネシア共和国ベラワン港へ回航の目的で,予備燃料のドラム缶25本を積み,平成16年8月4日08時45分北海道室蘭港を発し,途中の寄港地である沖縄県石垣港に向かった。
 ところで,A指定海難関係人は,日本の沿岸には漁業施設が多く存在することを知っていたので,離岸距離を3海里以上とすることとし,必要な海図として英国版海図8枚を揃えていた。
 また,岩手県八木港の南東方2海里ばかりのところの,八木港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から124度(真方位,以下同じ。)1.8海里の地点(以下「ア地点」という。),128度2.1海里の地点(以下「ウ地点」という。),138度1.9海里の地点及び135度1.6海里の各地点で囲まれた海域内に定置網が 設置され,ア地点から北及びウ地点から南東のそれぞれ約100メートルの各地点に,高さ3.5メートルの黄色点滅標識灯が設置されていた。
 A指定海難関係人は,船橋当直を単独4時間の3直制としており,自らは08時から12時までと20時から24時までの当直に入ることになっていたので,20時00分鮫角灯台から010度10.2海里の地点(以下「入直地点」という。)で,一等航海士から当直を引き継ぎ,コンソールの後方に用意した,床からの高さが70センチメートル(以下「センチ」という。)となる,木製の箱の上に置いた踏み台に前方を向いて腰掛け,レーダーが故障していたので,GPSプロッタを見ながら当直に就いた。
 20時33分A指定海難関係人は,鮫角灯台から023度5.1海里の地点に達したとき,針路を147度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A指定海難関係人は,22時00分南防波堤灯台から350度3.4海里の地点で,海潮流の影響を受けて離岸距離が1.3海里となり,予定の離岸距離より大幅に海岸に接近し,沿岸に設置された漁業施設に接近する状況となっていたが,船位を海図に記載するのは4時間毎の当直交代時のみとしていたことや,GPSプロッタを見て離岸距離は十分にあると思い,沿岸航海であったので,30分に1回はGPSに表示された船位の値を海図に記入するなど,航行海域に応じた頻度による十分な船位の確認を行うことなく,定めた針路より7度右偏した154度の針路となっていることに気付かないまま続航した。
 A指定海難関係人は,その後も船位を確認しなかったので,沿岸に接近していることに気付かないまま,154度の針路で進行中,22時30分南防波堤灯台から125度1.9海里の地点において,定置網に乗り入れた。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期であった。
 その結果,メイデンIIIは推進器に定置網の網やロープなどを絡めて航行不能に陥ったものの,損傷はなく,のち巡視艇などによって引き出されたが,定置網は長さ約100メートルにわたって損傷を生じた。

(本件発生に至る事由)
1 レーダーが故障して使用できなかったこと
2 GPSの値を海図に記入して船位を確認していたのは4時間毎のみであったこと
3 GPSプロッタを見ていたのみで十分な離岸距離があると思ったこと
4 安全な離岸距離を確保しなかったこと

(原因の考察)
 本件は,船位を十分に確認していれば,安全な離岸距離でなくなっていることを認識し,沖合に向けて変針するなどして発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,GPSプロッタを見ていたのみで安全な離岸距離があると思い,沿岸航海中であることに応じた頻度で,GPSの値を海図に記入して船位を確認せず,安全な離岸距離を確保しなかったことは,本件発生の原因となる。
 レーダーが故障して使用できなかったことは,回航に必要な海図が用意され,GPSが装備されていたので,必要に応じて船位の確認が可能であることにより,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件定置網損傷は,夜間,岩手県八木港南東方沖合において,沖縄県石垣港に向けて南下中,船位の確認が不十分で,八木港南東方沖合に設置された定置網に向首進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,岩手県八木港南東方沖合を南下中,船位の確認が不十分であったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,今後,日本沿岸を航行するときは離岸距離を5から6海里とし,船位の確認を十分に行う旨反省している点に徴し,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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