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平成17年仙審第34号
件名

貨物船ダナ養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄,半間俊士,大山繁樹)

理事官
保田 稔

指定海難関係人
A 職名:ダナ船長

損害
ダナ・・・損傷ない
のり養殖施設・・・養殖筏,のり網等の甚大な損傷

原因
水路調査不十分,見張り不十分

主文

 本件養殖施設損傷は,水路調査が不十分であったばかりか,前路の見張りが不十分で,のり養殖施設に向けて進行したことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月15日17時56分
 宮城県石巻湾
 (北緯38度22.15分 東経141度21.52分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ダナ
総トン数 2,594トン
登録長 107.28メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,030キロワット
(2)設備及び性能等
 ダナは,航海用具としてレーダー2台及びGPSなどを有していた。

3 事実の経過
 ダナは,ロシア連邦に所在のB社が管理する,2機2軸の船尾船橋型鋼製貨物船で,A指定海難関係人ほか22人が乗り組み,材木2,760立方メートルを積載し,船首3.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成17年1月8日16時00分(日本標準時,以下同じ。)ロシア連邦オルガ港を発し,宮城県石巻港に向かった。
 越えて,同月13日13時30分A指定海難関係人は,着岸が同月17日朝の予定であったことから,代理店からの指示どおり,渡波尾埼灯台(以下「尾埼灯台」という。)から264度(真方位,以下同じ。)3.6海里の,石巻港の検疫錨地内に錨鎖を4節繰り出して錨泊し,待機していたところ,同月15日ナブテックスなどの気象予報で三陸沖に海上暴風警報が発表されたのを知り,同錨地では走錨の危険があるものと判断して転錨することにした。
 ところで,石巻湾東部は,尾埼と二角埼を結ぶ線の東側に位置する,荻浜湾のほぼ全域がかきの養殖筏で占められており,同線の西側で,尾埼の南方沖合にはのりの養殖筏が2箇所に設置されており,その各筏西側の要所要所には光達距離約5海里の乾電池式または太陽電池式簡易灯浮標が4箇所にわたって設置されていた。
 A指定海難関係人は,転錨先として石巻湾の二角埼南西方沖合約2海里の広い水域に向かうこととし,同地点に直行するには同水域と自船との間に錨泊船が10数隻いたので,その針路を決めるにあたり,平素には通航しない北側の水域を航行することとしたが,手持ちの海図に養殖施設についての情報が記載されていなかったので,同水域は無難に航行できるものと思い,尾埼南方沖合に設置されたのり養殖筏を十分離して航過できるよう,抜錨前に代理店などに問い合わせて錨地までの航行経路についての情報を得るなど,水路調査を十分に行わなかった。
 こうして,A指定海難関係人は,16時59分半抜錨し,予定の転錨地点に向けて発進し,17時39分尾埼灯台から237.5度1.5海里の地点に達したとき,針路を110度に定め,機関を極微速力前進かけ,3.7ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
 17時51分半A指定海難関係人は,予定錨地に向けて移動中,尾埼灯台から205.5度1.2海里の地点に達したとき,右舷船首20度700メートルばかりのところに,のりの養殖区域を示す黄色点滅灯浮標を視認することができたが,前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま続航した。
 こうして,A指定海難関係人は,前路にのり養殖筏が存在することに気付かないまま進行中,17時56分尾埼灯台から193度1.2海里の地点で,原針路,原速力のまま,同筏に乗り入れた。
 当時,天候はみぞれで風力5の北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,17時30分三陸沖全域に海上暴風警報が発表されていた。また,日没時刻は,16時49分であった。
 のり養殖筏に乗り入れたことを知ったA指定海難関係人は,直ちに機関を停止したものの,のり網などを推進器に絡ませて同筏に損傷を与えながら,惰力と折からの風潮流とで110度に向首したまま続航中,付近で操業中の漁船から錨を入れるよう進言され,19時00尾埼灯台から160.5度1.9海里の同筏内で左舷錨を4節投入し,錨泊した。
 その結果,船体は,損傷がなかったが,のり養殖筏は,甚大な損傷を被った。

(本件発生に至る事由)
1 A指定海難関係人が,転錨する前に周囲の水域の状況を確認しなかったこと
2 A指定海難関係人が,のり養殖施設があることを知らなかったこと
3 周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
4 A指定海難関係人が,のり養殖施設の黄色点滅灯浮標を見落としたこと

(原因の考察)
 本件養殖施設損傷は,A指定海難関係人が,転錨する際,前もって周囲の水域の状況を確認しなかったため,のり養殖筏が設置されていることを知らなかったこと,及び予定錨地に向けて移動する際,前路の見張りを十分に行っていなかったため,のり養殖施設に設置された黄色点滅灯浮標を見落としたことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件養殖施設損傷は,夜間,宮城県石巻湾において,石巻港の検疫錨地で錨泊待機中,強風の連吹が予想される状況下,同錨地から同湾内の二角埼南西方沖合の広い水域に転錨する際,抜錨前の水路調査が不十分であったばかりか,予定の錨地に向けて移動中,前路の見張りが不十分で,のり養殖施設に向けて進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,宮城県石巻湾において,強風の連吹が予想される状況下,検疫錨地から同湾内の二角埼南西方沖合の広い水域に転錨する際,抜錨前に代理店などに問い合わせて航行経路についての情報を得るなど,前もって水路調査を十分に行わなかったばかりか,予定錨地に向けて移動中,前路の見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,転錨する前に海上保安部に連絡して状況を聞いておけばよかった旨の反省をしている点に徴し,勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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