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平成17年仙審第26号
件名

貨物船アファナシーボガティレフ養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年3月10日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
今泉豊光

指定海難関係人
A 職名:アファナシーボガティレフ船長

損害
アファナシーボガティレフ・・・損傷ない
ほたて貝養殖施設・・・幹綱,篭,アンカーロープ,浮子綱等を損傷

原因
船位確認不十分

主文

 本件養殖施設損傷は,船位の確認が不十分で,ほたて貝養殖施設に進入したことによって発生しものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月27日05時55分
 青森港港外
 (北緯40度52.7分東経140度43.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船アファナシーボガティレフ
総トン数 3,736トン
全長 123.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,472キロワット
(2)設備及び性能等
 アファナシーボガティレフ(以下「ア号」という。)は,1973年にロシア連邦で竣工した2機2軸の船尾船橋型鋼製貨物船で,操舵室前部には,レーダー,テレグラフ,ジャイロコンパスレピーター,GPS,プロッター,主機遠隔操縦盤,主機計器盤等を備えていた。

3 青森県陸奥湾のほたて貝養殖施設
(1)たて貝養殖施設の設置
 青森県陸奥湾では,昭和42年からほたて貝養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置され始め,順次拡大して同49年に同湾のほぼ全域で,本件発生当時と変わらない陸岸から数キロメートル沖合まで設置された。養殖施設は,県が関係漁業者から設置の申請を受け,漁場の位置及び区域,漁業の種類,存続期間などを示して区画漁業権を免許し,設置にあたって沖側境界に船舶の進入防止のための灯浮標等の設置を義務づけていた。
(2)青森港付近の養殖施設
 青森港付近の養殖施設は,港内及び港外中央部付近の航路筋を除いた東西水域に設置され,西側の養殖施設は,南端の漁業区画を西区第120号と称し,B組合が区画漁業権を得ていた。
 西区第120号の位置は,青森港沖館西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から038度(真方位,以下同じ。)1.2海里,014度2.0海里,002度4.0海里,337度4.1海里,320度1.3海里及び335度0.5海里の各地点に囲まれた水深20ないし30メートルの海域で,陸岸から沖合境界までの距離が最大2.3海里であった。
 西区第120号の養殖施設は,長さ約200メートルの幹綱が,4個の浮子と同綱両端のアンカーで海面下10ないし20メートルの位置に南北方向に固定され,この幹綱には,ほたて貝入りの篭8ないし10個を取り付けた垂下綱を数百本吊り下げ,これを1施設とし,東西方向に平行して約20メートル間隔で,また,南北方向にはアンカーロープが交差しない程度に離して設置されていた。
(3)西区第120号の灯浮標
 B組合は,西区第120号東側の長さ約3海里にわたる沖合境界に,青森県の養殖施設の設置条件に従って灯浮標を3個設置していた。その内訳は,北端とその南方約2.2海里の2箇所に,フロート部からの高さが1.5メートル,光達距離が3.5キロメートルの灯色が黄光で,4秒1閃光のレーダーレフレクター付きのものを,同施設南端から南へ180メートルの海上に,フロート部からの高さが3.6メートル,光達距離が4.5海里の灯色が紅光で,3秒1閃光のレーダーレフレクター付きのものをそれぞれ設置していた。
 なお,本件時故障している灯浮標はなかった。
(4)養殖施設の周知
ア パンフレットによる周知
 県農林水産部,海上保安部,C組合連合会及びD振興会の4者は,陸奥湾の養殖施設に船舶の進入または接触が多発していることについて協議し,同振興会が,緯度経度及び距離を記入した陸奥湾の海図に養殖施設等の設置位置を明記した,「むつ湾の事故防止のために」と題する注意喚起のためのパンフレットを作成し,国内の船舶運航会社,代理店,海上保安部,フェリー会社等に配布していた。
 また,パンフレットは,外国船による被害も年に1,2件発生して被害も甚大であったことから,日本語版のほかに英語版,ロシア語版及び中国語版も作成され,関係先に配布されていた。
 なお,パンフレットは,養殖施設の変更時などに改訂し,本件発生時の最新パンフレットは,平成13年1月現在のものであった。
イ 外国船への周知
 青森市内には外国船舶を取り扱う代理店として,唯一E社支店があり,同支店は外国船舶に青森港入港数日前にテレックスを入れ,接岸する岸壁のほかパンフレットを参考に,錨泊する場合の地点などを助言していた。

4 事実の経過
 ア号は,A指定海難関係人ほか19人が乗り組み,木材3,899立方メートルを積載し,平成16年11月22日ロシア連邦ハバロフスク州ワニノ港を発し,同月25日08時35分(日本標準時,以下同じ。)青森港堤ふ頭に着岸して荷揚げ作業を開始し,翌26日夕刻木材1,421立方メートルを荷揚げして同作業を終了し,次港の石川県七尾港に向かう予定になっていたところ,同日15時00分低気圧接近の気象ファクシミリを入手したことから,低気圧通過後に出港することにし,青森港港界付近に錨泊待機する目的で,船首3.3メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,17時15分同ふ頭を発して錨地に向かった。
 ところで,E社支店は,これより先同年11月9日ア号の日本側代理店であるF社から代理店業務の依頼を受けたことから,ア号に対して同船がワニノ港を出港する前に,テレックスで青森港接岸岸壁などのほか,錨泊する場合の錨地として,同港港界中央付近の北緯40度52.0分東経140度45.5分を,陸岸寄りには養殖施設があるので,陸岸から3海里以上離して同施設を避けるようにとそれぞれ助言していた。
 A指定海難関係人は,助言された錨泊地点付近に達したとき,同地点付近に他船が錨泊していたことから,17時50分同地点よりも0.8海里ばかり北方の西防波堤灯台から044度2.6海里の地点で左舷錨を投じ,錨鎖6節を繰り出して錨泊し,投錨後,錨泊中の灯火を表示し,航海士を船橋当直に就かせて待機した。
 翌27日05時00分A指定海難関係人は,自室で休息中,当直中の一等航海士から西寄りの強風を受けて東方へ走錨している旨の電話連絡を受け,同時05分昇橋したところ,西防波堤灯台から049度3.2海里の地点まで走錨し,船尾方で錨泊中の他船と0.1海里まで接近していることを知り,同地点より西方に転錨することにした。
 05時20分,A指定海難関係人は,吹雪く暗夜の中で揚錨して針路を264度に定め,機関を微速力前進にかけ,4.7ノットの対地速力とし,レーダーで陸岸との距離を測るなど船位の確認を十分に行わないで進行した。
 ア号は,同一針路速力で続航中,05時44分西防波堤灯台から011度2.1海里の地点で,西区第120号に進入して養殖施設の上方を航過したが,同施設内に入ったことに気付かないまま,05時55分西防波堤灯台から350度1.8海里の地点において,左舷錨を投下して錨鎖を6節繰り出したところ,養殖施設の幹綱,篭等を損傷した。
 当時,天候は雪で風力7の西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,青森市地域には暴風波浪高潮警報が発表されており,日出時刻は06時37分であった。
 A指定海難関係人は,08時00分周囲に浮子を認めて養殖施設に入ったことに気付き,慌てて揚錨を始めたところ,錨や錨鎖に幹綱,篭等が絡まって揚錨できなかったが,同施設内から移動することとして,幹綱等を除去しないまま錨を引きずりながら東方沖合に向かい,09時00分西防波堤灯台から027度1.9海里の西区第120号の東方沖合に投錨した。
 その結果,ア号は,錨及び錨鎖で移動経路にあたる養殖施設の幹綱,篭,アンカーロープ,浮子綱に甚大な被害を及ぼし,12月3日10時30分B組合が手配した潜水業者によって錨や錨鎖に絡まった幹綱,篭等が取り除かれ,船体及び属具に損傷はなかった。

(本件発生に至る事由)
1 青森港付近の陸岸寄りに養殖施設が設置されていたこと
2 走錨したこと
3 レーダーで陸岸との距離を測るなどして,船位の確認を十分に行わなかったこと
4 荒天模様であったこと

(原因の考察)
 本件は,転錨する際,レーダーで陸岸との距離を測るなど船位を十分に確認していれば,養殖施設内に進入することがなく,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,転錨する際,レーダーで陸岸との距離を測るなど船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 青森港付近の陸岸寄りに養殖施設が設置されていたこと,走錨したこと,及び荒天模様であったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件養殖施設損傷は,夜間,青森港港外で錨泊待機中,西からの強風で走錨したため,転錨する際,船位の確認が不十分で,養殖施設に進入したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,青森港港外において錨泊待機中,西からの強風で走錨を認めて転錨する際,同港港外西側に設置された養殖施設に進入することのないよう,レーダーで陸岸との距離を測るなど船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対して勧告しないが,青森港付近に投錨する際には養殖施設に進入することのないよう,レーダーで陸岸との距離を測るなど船位の確認を十分行うよう努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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