(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月15日18時50分
大阪湾中央部
(北緯34度32.6分 東経135度11.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
ヨットエクセル |
登録長 |
9.31メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
17キロワット |
3 事実の経過
エクセルは,FRP製プレジャーヨットで,A受審人が友人1人と共に乗り組み,海面からフィンキールの下端まで1.8メートルの状態で,平成16年10月15日12時00分兵庫県福良港を発し,同県尼崎西宮芦屋港に向かった。
A受審人は,中学生の時からヨットに乗り始め,昭和63年5月に一級小型船舶操縦士免許を取得したのちも趣味でヨット等に乗っていたところ,知人を介してエクセルの回航を依頼されたものであった。
ところで,大阪湾中央部の,神戸灯台から170度(真方位,以下同じ。)9,800メートルの地点から順に,120度2,500メートル,210度2,700メートル,300度2,500メートルの4地点を結んだ線の範囲内に,例年9月から翌年の5月にかけてのり養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設けられ,その周囲には,約200メートルごとに海面上の灯高3.00メートル,黄色光4秒に1閃,光達距離5.5キロメートルの太陽電池式灯浮標が設置されていた。
A受審人は,中学生のころ養殖施設の近くをヨットで航行した経験があったものの,その存在をすっかり忘れており,同乗者も同様の経験しかなかった。
A受審人は,回航前に航海計画を立て,全航程や友ケ島水道の潮流模様及び日没時刻などを調べていたが,夜間に航行することとなる大阪湾の水路事情は,GPSプロッターなどを活用すれば大丈夫と思い,大尺度の海図や財団法人日本水路協会が刊行するヨット・モーターボート用参考図などにより十分な調査を行わず,養殖施設の存在を失念したまま発航した。
A受審人は,発航後,ジブセールと機関を併用して鳴門海峡を南下し,淡路島南岸を経て由良瀬戸に入り,15時15分友ケ島灯台から318度1.7海里の地点に達したとき,養殖施設の存在が記載されていない持参した海図によって針路を目的地に向かう036度に定めたが,水路調査を十分行っていなかったので,同施設に向首する態勢となっていることに気づかないまま自動操舵とし,機関をほぼ全速力前進にかけ,5.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
17時50分ごろA受審人は,同乗者がキャビン内に入って休んだことから,1人でコックピット内の操舵輪船首側に立って当直に当たり大阪湾を北上するうち,18時31分神戸灯台から180度7.6海里の地点に達したとき,前路1海里ばかりに設置された養殖施設を示す灯火のうち数個を認めたものの,養殖施設の範囲を示すものと気づかず,GPSプロッターで船位と針路を確認しただけで,養殖施設を迂回する措置をとることなく続航した。
18時40分A受審人は,風が前方に回って帆走が困難となり,機関のみで航行することとし,ジブセールの巻取り作業を1人で行っていたところ,同時45分養殖施設の南側中央部付近から同施設内に侵入し,その後も原針路,原速力のまま進行中,18時50分エクセルは,養殖施設のほぼ中央部の,神戸灯台から171度6.4海里の地点において,フィンキール及び推進器翼にのり棚区画用ロープを絡ませ,航行不能となった。
当時,天候は晴で風力4の北風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,付近には白波を伴う高さ約1.5メートルの波があった。
その結果,エクセルは,翌朝,救助船に引き出され,自力で尼崎西宮芦屋港に入港したが,養殖施設ののり棚区画用ロープ2本を切断するに至った。
(海難の原因)
本件のり養殖施設損傷は,夜間,大阪湾中央部を尼崎西宮芦屋港に向けて北上する際,水路調査が不十分で,養殖施設に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,友人の依頼を受けて,ヨットを淡路島福良港から尼崎西宮芦屋港のマリーナに回航する場合,夜間に航行することになる大阪湾内の水路事情を,大尺度の海図やヨット・モーターボート用参考図により精査するなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし,同人は,GPSプロッターを活用すれば大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,大阪湾中央部に設置されている養殖施設の存在に気づかないまま進行して同施設内に侵入し,のり棚区画用ロープに推進器を絡ませて切断するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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