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平成17年神審第103号
件名

送船春宝丸のり養殖施設損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年2月15日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄,甲斐賢一郎,横須賀勇一)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:春宝丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:春宝丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
春宝丸・・・船首部を圧壊
のり養殖施設・・・一枠が全損

原因
水路調査不十分,前路灯火の監視不十分

主文

 本件のり養殖施設損傷は,水路調査が十分でなかったばかりか,前路に灯火を視認した際の監視が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月31日06時54分
 瀬戸内海播磨灘家島諸島
 (北緯34度37.5分 東経134度36.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船春宝丸
総トン数 695トン
全長 64.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
(2)設備及び性能等
 春宝丸は,平成6年1月に進水した,限定近海区域を航行区域とする一層甲板船尾船橋型の液化ガスばら積船で,船首から約49メートル後方に操舵室があり,主として京浜地方から沖縄地方にかけての海域において,LPGの輸送に従事していた。
 操舵室には,前部中央にコンソールが設けられ,これにジャイロコンパス,操舵装置及び主機遠隔操縦盤等が配置されているほか,レーダー2台,GPSプロッタ,VHF無線電話等が装備されていた。
 春宝丸は,単暗車,1枚舵を有し,航海速力は,主機回転数毎分250の11.2ノットであり,同速力における右舵35度での最大縦距が189メートル,最大横距が198メートル,左舵35度での最大縦距が200メートル,最大横距が257メートルで,同速力で前進中,全速力後進発令から船体停止に要する距離は船の長さの約5倍であった。

3 発生海域
 本件発生地点は,瀬戸内海東部,播磨灘家島諸島南東端に位置する加島の東側にあたり,同諸島沿岸には区画漁業免許に基づくのり養殖漁場区域(以下「のり養殖区域」という。)が随所に設けられ,このことは海上保安庁刊行の漁具定置箇所一覧図などで一般に周知されていた。加島東側には,男鹿島灯台から140度(真方位,以下同じ。)1,900メートルの地点を基点として,その東方2,000メートル,南方2,100メートルの長方形の海域に,C組合が兵庫県知事から許可を受けたのり養殖区域が設定されており,同区域境界に,灯質が黄色で4秒1閃光,光達距離約3海里の標識灯が多数設置されていた。

4 事実の経過
 春宝丸は,A及びB両受審人ほか5人が乗り組み,プロピレン500トンを積載し,船首3.05メートル船尾4.35メートルの喫水をもって,平成16年12月30日16時25分山口県徳山下松港を発し,兵庫県姫路港に向かった。
 発港に先立ち,A受審人は,姫路港までの航海計画を立てた際,通常,播磨灘を航行するときには推薦航路線沿いに東行したのち,播磨灘航路第4号灯浮標付近から北上して同港に向けるようにしていたところ,到着予定日が翌31日の大晦日で,到着時刻が遅れたときの荷主への迷惑を懸念し,少しでも時間の短縮を図ろうと,播磨灘航路第1号灯浮標付近から家島諸島の加島に接航して姫路港に直航することとした。
 A受審人は,これまで播磨灘を幾度も航行した経験を有していたものの,加島に接航して航行することは初めてであったが,加島を1.5海里離せば大丈夫と思い,事前に漁具定置箇所一覧図を入手して養殖施設の位置を確かめるなど,水路調査を十分に行っていなかったので,加島東方沖合に設置されたのり養殖区域の位置やその存在を示す標識灯の状況を把握しないまま,同区域に向首する針路線を海図W106に記入したばかりか,航海士に船橋当直を任せるにあたり,播磨灘で当直に就く予定のB受審人に対し,前路に灯火を視認したときには,その監視を十分に行うよう夜間命令簿などで指示しなかった。
 発港後,A受審人は,船橋当直を,一等航海士,二等航海士及び自らの3人による単独4時間交替制として瀬戸内海を東行した。
 B受審人は,翌31日03時45分ごろ香川県高松港北方沖合で昇橋し,前直の二等航海士から当直を引き継ぎ,備讃瀬戸を東行して播磨灘に入り,05時17分半播磨灘航路第1号灯浮標の東南東方0.7海里にあたる,大角鼻灯台から154度2.5海里の地点で,海図W106に記入された042度の針路に定め,機関を回転数毎分250の全速力前進にかけ,11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,法定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 06時38分半ごろB受審人は,男鹿島灯台から191度4.4海里付近に達したとき,船首方3海里ばかりのところに多数の黄色灯火を認め,これがのり養殖区域を示すものであったが,A受審人から特別の指示もなかったこともあり,視認した灯火を操業中の漁船の灯火と思い込み,双眼鏡とレーダーを活用するなどして,その監視を十分に行わなかったので,前路にのり養殖区域が存在することに気付かず,同区域から十分に遠ざかる針路としないまま,同一針路,速力で続航した。
 B受審人は,06時41分半少し過ぎ男鹿島灯台から186度3.8海里の地点に達したとき,操業中の漁船と思っていた灯火をかわすつもりで,5度左転して針路を037度としたが,依然として同灯火の状況をよく監視しなかったので,なおものり養殖区域に向首していることに気付かないまま進行中,06時54分男鹿島灯台から153度2.2海里の地点において,春宝丸は,のり養殖区域に,同じ針路,速力のまま乗り入れた。
 当時,天候は小雨で風力3の北西風が吹き,潮候はほぼ低潮時にあたり,日出は07時08分で,周囲はまだ暗かった。
 その結果,春宝丸には,損傷がなかったものの,のり養殖施設の一枠が全損した。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,到着時間の遅れを懸念して航海を急いだこと
2 加島を1.5海里離せば大丈夫と思い,航行予定海域の水路調査を十分に行わなかったこと
3 A受審人が,家島諸島加島東方ののり養殖区域に向首する針路線を海図に記入したこと
4 A受審人が,当直航海士に対し,前路に灯火を視認したときには,その監視を十分に行うよう指示しなかったこと
5 B受審人が,前路に灯火を視認したとき,これを漁船の灯火と思い込み,双眼鏡とレーダーを活用するなどして,その監視を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 春宝丸は,播磨灘家島諸島の南沖合を航行するのが初めてであり,事前に漁具定置箇所一覧図を入手するなどして水路調査を十分に行っておれば,のり養殖区域の位置及びその状況を詳しく知ることができ,同区域から十分に離れる針路を選定することにより,本件発生を容易に回避し得たものと認められる。
 また,A受審人が,当直航海士に対し,前路に灯火を視認したときには,その監視を十分に行うよう指示していれば,当直航海士が前路に灯火を視認したとき,その監視が十分に行われ,のり養殖区域の存在に気付いてこれを避けることが可能で,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,加島を1.5海里離せば大丈夫と思い,航行予定海域の水路調査を十分に行わず,家島諸島加島東方ののり養殖区域に向首する針路線を海図に記入したうえ,当直航海士に対し,前路に灯火を視認したときには,その監視を十分に行うよう指示しなかったこと及びB受審人が,前路に灯火を視認したとき,これを漁船の灯火と思い込み,双眼鏡とレーダーを活用するなどして,その監視を十分に行わなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 一方,A受審人が,到着時間の遅れを懸念して航海を急いだことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件のり養殖施設損傷は,播磨灘家島諸島の加島沖合を兵庫県姫路港に向け航行するにあたり,水路調査が十分でなかったばかりか,日出前の薄明時,前路に灯火を視認した際の監視が不十分で,のり養殖区域に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が,当直航海士に対し,前路に灯火を視認したときには,その監視を十分に行うよう指示しなかったことと,当直航海士が,前路に灯火を視認したとき,その監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,徳山下松港を出港するに先立ち,播磨灘家島諸島の加島沖合を兵庫県姫路港に向け航行する計画を立てる場合,同海域を航行することが初めてであったから,加島東方ののり養殖区域に乗り入れることのないよう,漁具定置箇所一覧図を入手して養殖施設の位置を確かめるなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,加島を1.5海里離せば大丈夫と思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,加島東方に設置されたのり養殖区域に向首する針路線を海図に記入し,当直者がのり養殖区域に乗り入れる事態を招き,のり養殖施設の一枠を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,日出前の薄明時,播磨灘家島諸島の加島沖合を姫路港に向け航行中,前路に多数の黄色灯火を認めた場合,のり養殖区域を判断できるよう,双眼鏡とレーダーを活用するなどして,その監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,視認した黄色灯火を操業中の漁船の灯火と思い込み,その監視を十分に行わなかった職務上の過失により,のり養殖区域に向首していることに気付かずに進行し,同区域に乗り入れ,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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