(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月19日07時40分
宮城県鮎川港西方沖合
(北緯38度17.35分 東経141度28.90分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船はやぶさ |
総トン数 |
118トン |
全長 |
31.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
647キロワット |
3 事実の経過
はやぶさは,限定沿海区域を航行区域とする鋼製旅客船で,A受審人ほか2人が乗り組み,旅客11人を乗せ,船首1.40メートル船尾1.60メートルの喫水をもって,平成16年11月19日07時30分宮城県鮎川港を発し,機関長と甲板員を昇橋させ,両人に見張りを行わせてA受審人が手動操舵にあたり,同県網地港に向かった。
ところで,A受審人は,B社の正規の船長が休暇などで下船したとき,同船長の交代として臨時に乗船し,1月の乗船日数は10日で,本件時までは鮎川港,金華山港及び鮎川港間の航路に就航する船に乗船しており,鮎川港,網地港,長渡港及び鮎川港間の航路に就航する船には乗船したことがなかったが,わかめ養殖施設が設置されていることやその区域を示す簡易灯浮標が設置されていることは知っていた。また,同人は,はやぶさの乗船経験はあったものの,初めての航路であったことから,前任の船長に頼んでGPSプロッターにその航跡を残してもらい,それを辿って航行することにした。
07時34分A受審人は,鮎川港南防波堤灯台から238.5度(真方位,以下同じ。)500メートルの地点に達したとき,針路を265度に定め,機関を全速力前進にかけて12.0ノットの対地速力とし,手動操舵により進行した。
針路を定めたとき,A受審人は,鮎川港西方の十八成浜湾沖合で,鮎川港南防波堤灯台から257.5度2,040メートルのところにわかめ養殖施設の南端を表示する簡易灯浮標が存在し,同灯浮標にほぼ向首する状況となっていたが,GPSプロッターに記憶された航跡を辿って航行すれば大丈夫と思い,レーダーを利用して自船の位置を確かめるなどの船位の確認を十分に行うことなく,同プロッターの航跡を辿りながら続航した。
07時39分A受審人は,鮎川港南防波堤灯台から257.5度1,730メートルの地点に達したとき,正船首わずか左300メートルのところに,わかめ養殖施設の南端を示す黄色に塗色された簡易灯浮標を視認することができたものの,GPSプロッターを見ることに気をとられ,周囲の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かないまま進行した。
07時39分半A受審人は,見張りをしていた機関長が左舷前方100メートルばかりに簡易灯浮標を初めて視認し,その旨の報告を受けて養殖施設の簡易灯浮標であることは分かったが,その設置状況が分からないまま,同灯浮標を替わす目的で,右舵10度をとったのち,舵を中央に戻したとき,07時40分鮎川港南防波堤灯台から259度2,000メートルの地点において,原速力のまま,前示養殖施設に乗り入れた。
当時,天候は雨で,風力3の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
その結果,はやぶさは,損傷がなく,養殖施設は,錨綱などを切断したが,のち復旧された。
(海難の原因)
本件養殖施設損傷は,宮城県鮎川港西方沖合において,同港から同県網地港に向かう際,船位の確認が不十分で,わかめ養殖施設に向首進行し,同施設に乗り入れたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県鮎川港西方沖合において,同港から同県網地港に向けて航行する場合,鮎川港西方に設置されたわかめ養殖施設に乗り入れることのないよう,レーダーを利用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,GPSプロッターに記録された網地港への航跡を辿ることに気をとられ,船位を確認しなかった職務上の過失により,前路に設置された養殖施設の南端を表示する簡易灯浮標に気付かないまま進行して同施設への乗り入れを招き,錨綱を切断するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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