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平成17年神審第98号
件名

ヨットビダミアのり養殖施設損傷事件(簡易)

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成18年1月25日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(工藤民雄)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:ビダミア船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ビダミア・・・損害ない
のり養殖施設・・・枠ロープ,錨ロープ等に損傷

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件のり養殖施設損傷は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月30日01時10分
 明石海峡東方
 (北緯34度37.6分 東経135度05.2分)

2 船舶の要目
船種船名 ヨットビダミア
総トン数 9.1トン
全長 12.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 33キロワット

3 事実の経過
 ビダミアは,船体中央部にキャビン,船尾部に操縦席を配置した最大搭載人員12人の船内機付きFRP製プレジャーヨットで,レーダー及びGPSプロッタを装備し,A受審人が1人で乗り組み,知人9人を乗せ,船首0.25メートル船尾0.35メートルの喫水をもって,平成17年4月29日23時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港内のヨットハーバーを発し,明石海峡を経由する予定で香川県小豆島に向かった。
 A受審人は,昭和53年から小型のヨットに乗り始め,同56年9月に三級小型船舶操縦士の免許を取得し,その後,大型のヨットを購入してクルージングを楽しむようになり,ヨットの操縦経験は通算25年以上に及び,ビダミアには,平成5年9月から船長として乗り組んで操船に当たっていた。
 ところで,航行途中の明石海峡東方の神戸市垂水区塩屋沖合には,B組合が兵庫県知事から許可を受けたのり養殖漁場区域(以下「のり養殖区域」という。)が,距岸80メートルを除いた,平磯灯標から035度(真方位,以下同じ。)550メートル,076度700メートル,076度4,100メートル及び063.5度4,100メートルの各点を順次結んだ線により囲まれた海域に設定されており,同区域南側境界に,4秒1閃光,光達距離約2海里と約3海里の,いずれも灯質黄色の標識灯が多数設置されていた。
 A受審人は,これまで塩屋沖合を幾度も航行した経験があり,塩屋沖合ののり養殖区域の存在や同区域南側境界に標識灯が多数設置されていることをよく知っていた。
 発航後,A受審人は,船尾の舵輪後方で立って操船に当たり,神戸港ポートアイランド南岸沿いに西行し,翌30日00時15分神戸港第1南防波堤灯台から142度700メートルの地点で,針路を前示のり養殖区域南側境界線の沖合を約300メートル離して航過する257度に定め,機関を全速力前進にかけ,7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,明石海峡大橋淡路島側橋脚の灯火を目標にして手動操舵により進行した。
 その後,A受審人は,手動で操舵に当たっているうち,徐々に右方に偏位し,259度の針路で陸岸寄りに航行するようになり,00時55分半神戸港外須磨海釣公園塔灯から103度1,400メートルの地点に達したとき,のり養殖区域南東端まで約1,000メートルに近づき,このままでは前示ののり養殖区域の南側境界に向かう状況であったが,慣れた海域で視界が良いことに気を許し,同乗者と入港後の予定などを話し込んでいて,レーダーやGPSプロッタを活用するなど,船位の確認を十分に行っていなかったので,このことに気付かずに続航した。
 01時00分ごろA受審人は,のり養殖区域南東端に設置されている標識灯を右舷側近距離に通過したことを見落とし,更に前方に視認できる標識灯の明かりにも気付かないまま同一針路,速力で進行中,01時10分平磯灯標から075度1,900メートルの地点において,ビダミアは,のり養殖区域に乗り入れた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は高潮時にあたり,視界は良好であった。
 その結果,ビダミアには,損傷がなかったものの,のり養殖施設の枠ロープや錨ロープ等に損傷を生じ,枠ロープが推進器翼に絡まり航行不能となったが,のち漁船の援助を得て,無事脱出した。

(海難の原因)
 本件のり養殖施設損傷は,夜間,神戸市垂水区塩屋沖合を明石海峡に向けて航行中,船位の確認が不十分で,のり養殖区域に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,神戸市垂水区塩屋沖合を明石海峡に向けて航行する場合,同沖合の陸岸沿いにのり養殖区域が存在していることを知っていたのであるから,同区域に進入することのないよう,レーダーやGPSプロッタを活用するなどして,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら,同人は,慣れた海域で視界が良いことに気を許し,同乗者と入港後の予定などを話し込んでいて,レーダーやGPSプロッタを活用するなど,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,のり養殖区域に向首進行して乗り入れ,のり養殖施設の枠ロープや錨ロープ等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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